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見ず知らずのアメリカ人写真家を、虎ノ門から六本木まで道案内した話

城戸 譲

城戸 譲

2016.02.13 11:00
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ルイスさん
ルイスさん

東京都心の新ランドマーク「虎ノ門ヒルズ」。東京オリンピックが開催される2020年には、隣接区域にバスターミナルと、東京メトロ日比谷線の新駅が設置され、交通の結節点になる予定だ。すでに再開発計画は進められ、周辺ビルの解体工事も始まっている。

虎ノ門ヒルズ前
虎ノ門ヒルズ前

そこで今回は2016年2月8日に着工されたばかりの、「虎ノ門新駅(仮称)」周辺をめぐる――はずだったのだが、話は予想外の方向に進んでいく。

取材をやめて、道案内しよう!

虎ノ門駅
虎ノ門駅

現在の虎ノ門ヒルズは、お世辞にも「駅から近い」とは言えない。最寄りの虎ノ門駅から5分ほど歩くと、ようやくシルエットが見えてきた。再開発の「A街区」には、バスターミナルが整備される予定だ。その一角にある、虎ノ門10森ビルは解体工事に入り、真新しい囲いに覆われている。

旧「虎ノ門10森ビル」
旧「虎ノ門10森ビル」

写真を撮っていると、誰かに肩を叩かれた。えっ? 振り返ると、地図片手に困り顔の外国人男性。六本木へ行きたいと言う。とはいえ、彼は日本語を話せないらしく、記者もルートを伝える英語力がない。よし、新駅取材は今度にして、一緒に六本木へ行くことにしよう!

にこやかに笑うルイスさん
にこやかに笑うルイスさん

てくてく歩く。思いつく英単語を並べて、無理やり会話してみると、徐々に彼のことがわかってきた。ルイスさん(29)は、アメリカの写真家で、本を書くために訪日した。いまは竹ノ塚に滞在しているという。自分もライターだと告げると、より親近感を覚えたようだった。

神谷町を抜けて、40分ちょっと歩いて、六本木エリアへ。ここまで送った御礼に、飲み物をおごってくれるという。

「Coffee? or ASAHI?」

オフコース!アサヒ! 即答した。

「リスペクト」しながら、タバコをもらう方法とは?

昼間のビールは、背徳感もスパイスになる
昼間のビールは、背徳感もスパイスになる

24時間営業の居酒屋へ入って、カンパーイ。おごられてばかりは悪いので、「枝豆」と「冷奴」を持つことにした。ほどなく2杯目へ。仕事に影響が出るのではと心配されたが、「This is my work!(これが僕の仕事だよ!)」と返して、ワッハッハと豪快に笑い合った。楽しい。

割りばしで豆腐と格闘するルイスさん
割りばしで豆腐と格闘するルイスさん

入店から30分。どうやらルイスさん、タバコを吸いたくなったらしい。何度も口にする「シガレット」と「リスペクト」を手掛かりに、

「相手を尊敬しながら、たばこを1本もらうには、どう言えばいいのか?」

と聞いているのだと推測した。そうか、吸いたいけど、持ってないのか。

手帳をちぎって、スペルを書いた
手帳をちぎって、スペルを書いた

日本語だと「たばこ、もらえますか?」だよ。発音に難儀する彼に、「morae-masuka」とスペルを教えてあげると、彼はツカツカと店の奥へと向かった。奥の席には4人の紳士。メモを片手に、身ぶり手ぶりで交渉し、なんなくタバコを手に入れた。

メモを片手にご満悦
メモを片手にご満悦

「ファンタスティックな体験だった」

遠い目をするルイスさん
遠い目をするルイスさん

初訪日のルイスさん。これから、どんな日程でめぐるの? 「あした帰国するんだ」。あら残念。最終日にここまで親切にしてくれたと喜びながら、「人生で一番ファンタスティックな経験だよ!」と繰り返し言ってくれた。ありがとう。こちらこそ楽しかったです。

地図とカメラを携えて...
地図とカメラを携えて...

結局、おのおのビール3杯を飲んで店を出た。六本木交差点へ行き、ここは有名な場所だよと伝えると、不思議そうな顔をする。「どうして有名なの?」。えーっと、とくに理由はないんだけど......とにかく有名なのよ。

六本木交差点でお別れ
六本木交差点でお別れ

またいつか会おうと約束し、会社へと戻ることにした。駆け込んだ地下鉄は、偶然にも竹ノ塚行きだった。

竹ノ塚行き
竹ノ塚行き

虎ノ門新駅が開業すると、六本木までは、乗り換えなしで行けるようになる。きょうと同じ場所で道を聞かれても、

「階段を下りて、中目黒行きに乗って、2駅目だよ」

と伝えれば、それでおしまい。便利に越したことはないが、今回のような出会いはなかっただろう。

東京オリンピックまで、あと4年半に迫る。訪日外国人を受け入れるにあたり、インフラ面こそ整備されつつあるが、人々の「気持ち」はどうだろう。本当の「おもてなし」とは、なんなのだろうか。改めて考えさせられる機会となった。

(編集長より校正コメント)とても面白く拝読しました。確かに、外国の方を受け入れる私たちの側も、まだまだ考えるべきことは多そうですね。ただ、ひとつ言わせてもらうと......新駅の取材はどうなったんだよ! ほろ酔いで帰ってきてからにもう!

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