崖っぷちローカル線を変えた53歳「鉄道ファン」社長が凄すぎる
全国の鉄道事業91社中69社が赤字で、10年で22路線が廃止となった(2012年国土交通省調べ)。千葉県房総半島を横切るように走る第3セクターの「いすみ鉄道」も赤字路線の一つ。全長26.8キロ、上総中野駅から大原駅まで結ぶ。数年前までは廃止の一歩手前だったが、現在では客が殺到するようになっている。
全国各地でローカル線が苦しい立場に置かれる中、2014年2月18日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)は、いすみ鉄道を驚きの手法で再生しようとしている、一人の男を追った。
自治体が見捨てたローカル路線
いすみ鉄道は毎年1億円以上の赤字が出ていた。それを県や市からの補助金でなんとか支えていたが、2007年ころから廃線が検討されるように。当時の取締役は次のように語る。「これ以上赤字を補填するわけにはいかない。生活路線としては成り立っていかないと、県からも廃線を迫られていた」。
このニュースに沿線住民が立ち上がった。存続を求める運動がわき起こったのだ。2009年、民間の経営感覚を取り入れるため、社長を公募することに。応募者数123人の中から選ばれたのは鳥塚亮さん(53歳)。その年の6月に社長に就任した。
元外資系航空会社社員だった鳥塚社長は、応募した動機をカメラの前で打ち明ける。
「子供のころは新幹線の運転手になりたかった。鉄道ファン、ローカル路線のファンが喜ぶような仕組みづくりをこの路線でやっている、ということですね」
実は鉄道ファン――愛着から赤字ローカル線の再生という仕事に飛び込んだ。そしてその再建策も、鉄道ファンならではの視点を生かしたものだった。
あふれる集客のアイデア
番組案内人の俳優・江口洋介が大多喜駅を訪れた。現地をガイドするのは鳥塚社長。そこで江口の目に飛び込んできたのは、昭和のディーゼル車だ。
「田舎の景色、この景色が私たち鉄道の財産だと思っている。そこにぴったり似合うのが、この昭和のディーゼルカーと考えている」
停車するディーゼル車の床下にあるエンジンからは、「カランコロン」と昔ながらの音がする。内装はあえて昭和40年台の国鉄の雰囲気を演出。車内は国鉄時代の中吊り広告やレトロな扇風機が取り付けてあり、鉄道ファンの心をくすぐる。
鉄道マニアを魅了するものとは
午前9時の大原駅。切符売り場には長蛇の列ができている。先着12名の急行指定席は早々に完売した。9時20分に列車は出発。指定席だけでなく自由席も満席だ。
郷愁をかきたてながら田園風景を走る。途中駅に着くやいなや、乗客は次々とホームに飛び出し、今まで乗っていた列車にカメラを向けて一斉にシャッターを切る。千葉市在住の鉄道マニアは毎月のようにやってきて、撮影スポットで一心不乱にシャッターを切る。彼が狙っているのは「キハ(旧国鉄時代のディーゼル車)」。小雪がちらつく冬の里山で2時間待ちをしていた。
江口が車内を見渡すと、壁にプレートが多数取り付けてあるのに気づく。一口5万円提供すると、車両オーナーとして掲示されるのだ。
「本来は地元の人たちの足だが、それだけでは立ち行かなくなっている。観光鉄道として走らせ、応援してもらうことで、鉄道が成り立っていく仕組みを作った」(鳥塚社長)
いすみ鉄道はこのタイプの車両を2010年に導入し、乗客数は約20%増加したという。
700万円を用意すればあなたも運転士に!
「鉄道ファン」目線は、スタッフの募集にも生かされている。
運転士を勤める武石さん(46歳)。以前はシステムエンジニアをしていたが42歳で運転士に転職した。
「本当は鉄道会社に就職したかった。自己負担だけど、この年齢でチャンスをもらえたのが喜びでもある」
彼がいう自己負担とは、いすみ鉄道が導入している「訓練費用自己負担制度」のこと。運転士を養成するには2年で700万円ほどの費用がかかる。それを自腹で払ってもらおうというのだ。これまで13人が応募して全員40代以上。8人が免許を取得し、5人が研修中だ。
斬新なアイデアでいすみ鉄道は息を吹き返しつつあるが、再生への挑戦はこれからも続く。
「私は東京育ちなのでよく分かるんですけど、田舎のローカル線って都会の人間の憧れなのです。だけど田舎の人たちにとってみると、いらないものなんです。そのギャップに早く気がついて、こういうものをどうやって作っていくかが地方のテーマになっていけば、もっともっと活性化というか、元気になっていく。日本全国のローカル線、まだまだ残されてるものがあると思うし、使っていくべきだと思う」(鳥塚社長)。