2023年ブレークスルー賞生命科学、数学、基礎物理学部門の受賞者発表
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【サンフランシスコ2022年9月26日PR Newswire=共同通信JBN】
*ディープラーニングによるタンパク質の構造予測、量子情報分野の開拓、神経変性疾患の治療から映像伝送の最適化まで応用できる発見に対し総額1575万ドルの賞金を授与
*生命科学部門のブレークスルー賞はClifford P. BrangwynneとAnthony A. Hymanの両氏、Demis HassabisとJohn Jumperの両氏、Emmanuel Mignotと柳沢正史の両氏が受賞
*数学部門のブレークスルー賞はDaniel A. Spielman氏が受賞
*基礎物理学部門のブレークスルー賞はCharles H. Bennett、Gilles Brassard、David Deutsch、Peter Shorの4氏が受賞
*物理学と数学の若手の研究成果に対して6つのニューホライズン賞を授与
*若手女性数学者の研究成果に対して3つのマリヤム・ミルザハニ・ニューフロンティア賞を授与
ブレークスルー賞(The Breakthrough Prize)財団とその創設スポンサーであるセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)、プリシラ・チャン(Priscilla Chan)、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)、ユーリとジュリア・ミルナー(Yuri/Julia Milner)、アン・ウォジツキ(Anne Wojcicki)の各氏は22日、2023年のブレークスルー賞受賞者を発表し、基礎物理学、生命科学、数学の各部門での画期的発見と、それぞれの分野で著しい貢献をした若手科学者をたたえた。
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生命科学部門では3つのブレークスルー賞が、細胞組織の新しいメカニズムを発見したClifford P. BrangwynneとAnthony A. Hymanの両氏、タンパク質の構造を正確に予測する「アルファフォールド」を開発したDemis HassabisとJohn Jumperの両氏、ナルコレプシーの原因を解明したEmmanuel Mignotと柳沢正史の両氏に授与された。数学部門のブレークスルー賞は、理論コンピューター科学と数学における複数の発見をしたDaniel A. Spielman氏に贈られた。基礎物理学部門のブレークスルー賞は、量子情報の基礎となる研究を行ったCharles H. Bennett、Gilles Brassard、David Deutsch、Peter Shorの4氏が受賞した。また、若手科学者の重要な貢献も顕彰され、物理学と数学部門で6つのニューホライズン賞、博士課程を終了ばかりの女性数学者に対して3つのマリヤム・ミルザハニ・ニューフロンティア賞(Maryam Mirzakhani New Frontiers Prize)が授与された。
セルゲイ・ブリン氏は「神経変性疾患のブレークスルー、量子コンピューティング、AIによるタンパク質の構造解明など…」「いずれも、称賛されるべき素晴らしい成果だ」と語った。
チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ(CZI)の共同創設者で共同最高経営責任者(CEO)のプリシラ・チャン、マーク・ザッカーバーグ両氏は「ブレークスルー賞受賞者の皆さん、おめでとう。皆さんの素晴らしい発見は、科学的発見に道を開き、イノベーションを加速させるだろう」「今回の受賞者や若手科学者は、研究と科学の可能性の限界を押し広げており、その功績を称えられるのは非常にうれしい」と語った。
ユーリ・ミルナー氏は「本日表彰された受賞者は、宇宙に関する奥深い真実を明らかにするとともに、人々の生活を向上させる、基礎科学の驚くべき力を体現している」と語った。
アン・ウォジツキ氏は「2023年の受賞者は、まさに素晴らしい科学を生み出した」「その業績に込められた創造性、創意工夫、ひたむきな忍耐力には畏敬の念を覚える」と語った。
生命科学の分野でDemis HassabisとJohn Jumperの両氏は、生物学における最大の課題の1つだったタンパク質の構造予測問題をほぼ解決したAIシステム「アルファフォールド 2」を支えるリーダーである。タンパク質は細胞を動かすナノマシンであり、アミノ酸の配列からその3次元構造を予測することは、生命の営みを理解する上で極めて重要である。Hassabis、Jumperの両氏は、ディープマインドのチームと共に、タンパク質の構造を正確かつ迅速にモデル化するディープラーニングシステムを考案・構築した。アルファフォールドは既に生命科学に革命的影響を与えており、ディープマインドはこの夏、2億個のタンパク質、つまり生命の木全体のほぼ全ての既知のタンパク質の構造を公開データベースにアップロードした。このプログラムは、科学者が通常、タンパク質構造の解明に費やす時間を、月、年単位から時間、分単位に短縮する。医薬品設計から合成生物学、ナノ材料、細胞プロセスの基礎的理解に至るまで、将来的に計り知れないメリットをもたらすと期待されている。両氏の業績に関するショートビデオは、以下で視聴可能(https://c212.net/c/link/?t=0&l=en&o=3656471-1&h=44676232&u=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3D50u2gGqNang%26feature%3Dyoutu.be&a=here )。
細胞内プロセスの新たな発見は、もう1つの生命科学部門賞でも顕彰された。最近まで、細胞内のほとんどの活動は、膜で覆われた特殊なサブユニットである細胞小器官の中で行われていると考えられていた。しかし、Anthony HymanとClifford Brangwynneの両氏は、膜がなくてもタンパク質やその他の生体分子間の細胞内相互作用を集中させる、全く新しい自然原理を発見した。両氏は、水中で形成される油滴のように、相分離によって急速に形成される動的な液体状の小滴が、水様の細胞内部の分子の乱れから守られた一時的な構造体をつくり出していると説明した。この発見以来、両氏をはじめとする研究者らは、こうした膜のない液体凝縮体が、シグナル伝達、細胞分裂、細胞核内の核小体の入れ子構造、DNAの制御など、数多くの細胞内プロセスで役割を果たしていることを明らかにしてきた。両氏の発見は、細胞組織に関するわれわれの理解を根本的に前進させるもので、ALSなどの神経変性疾患を含めた将来の臨床応用につながる可能性がある。 両氏の業績に関するショートビデオは、以下で視聴可能(https://c212.net/c/link/?t=0&l=en&o=3656471-1&h=3285999379&u=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3Dyu8U6rEUACE&a=here )。
もうひとつの神経変性疾患であるナルコレプシーは、これまでほとんど解明されていなかったが、別々の研究室を運営し、異なる研究プログラムを推進していたEmmanuel Mignotと柳沢正史の両氏が、その原因の新たな理解にたどり着いた。両氏は、通常、覚醒を調節するオレキシン(ヒポクレチンとも呼ばれる)というタンパク質が、同疾患の肝であることを明らかにした。犬などの動物では、オレキシンが結合する神経受容体の変異がナルコレプシーを引き起こすが、人の場合は、免疫系がオレキシンを生成する細胞を(恐らくはウイルス粒子と「勘違い」して)攻撃することで疾患が引き起こされる。Mignot、柳沢両氏の発見は、ナルコレプシーの症状を緩和する治療法につながるとともに、睡眠導入剤の設計を可能にした。また、ナルコレプシーが自己免疫疾患を起源とする神経変性疾患であることを明らかにし、他の神経変性疾患も特定の神経細胞の欠損によって引き起こされる可能性があると指摘した。両氏はまた、睡眠と覚醒という、いまだに謎の多い行動領域の中心的メカニズムに光を当てた。両氏の業績に関するショートビデオは、以下で視聴可能(https://c212.net/c/link/?t=0&l=en&o=3656471-1&h=3521235934&u=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DEsL6HtfQlPE%26feature%3Dyoutu.be&a=here )。
数学領域では、Daniel A. Spielman氏の洞察とアルゴリズムが、数学のみならず、コンピューティング、信号処理、エンジニアリング、さらには臨床試験の設計など、極めて実用的な問題で重要な役割を果たしてきた。同氏とその共同研究者は、量子力学から生まれたものも、線形代数(ベクトルとマトリクスを使った方程式の研究)から高次元幾何学、組み合わせ最適化(例えば、巡回セールスマン問題の各バージョン)、信号の数学的処理まで、多くの数学分野にわたる主要な未解決問題と等価であることが判明したカディソン・シンガー問題を解明するなど、数多くの業績を上げた。同氏の業績に関するショートビデオは、以下で視聴可能(https://c212.net/c/link/?t=0&l=en&o=3656471-1&h=1726723053&u=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DqWfBa6bj9f8%26feature%3Dyoutu.be&a=here )。
基礎物理学部門では、量子情報分野の4人のパイオニアが受賞した。
Charles H. BennettとGilles Brassardの両氏は、BB84プロトコルを使い、Stephen Wiesner氏が考案したものの、非現実的だった量子マネーのアイデアをベースに、当初は秘密情報を共有していないユーザー間で秘密メッセージを送る実用的方法を考案することで、量子暗号技術の先駆けとなった。電子商取引でよく使われる方法と異なり、無限の計算能力を持つ盗聴者でも解読できない。また、1993年に共同研究者と発見した量子テレポーテーションは、量子もつれが、それ自体には通信能力がないものの、定量化可能な有用なリソースであることを示し、量子情報処理という新しい科学の立ち上げに貢献した。
David Deutsch氏は、量子コンピューティングの基礎を築いた。同氏はチューリングマシンの量子版である万能量子コンピューターを定義し、量子力学の法則に従うあらゆる物理システムを任意の精度でシミュレートできることを証明した。また、そのようなコンピューターは、一度に多くの状態の量子のもつれや重ね合わせの現象を利用する論理ゲートである量子ゲートを、驚くほど少数つなげたものと同等であることを明らかにした。さらに、同等の古典的アルゴリズムよりも高速に計算を実行できる、初の量子アルゴリズムを設計した。
Peter Shor氏はそこから、明らかに有用な初の量子コンピューターアルゴリズムを発明した。Shor氏のアルゴリズムは、大きな数の因数を、古典的アルゴリズムでは不可能と考えられていた速度より飛躍的に速く見つけられる。同氏はさらに、古典的コンピューターでは単純な冗長性で十分だが、量子コンピューターでははるかに困難な作業となるエラー訂正技術も考案した。こうしたアイデアは、現在、急速に発展している量子コンピューターに道を開いただけでなく、基礎物理学の最前線、特に計測の科学である計測学や量子重力の研究にも生かされている。
4人の物理学者の業績に関するショートビデオは、以下で視聴可能(https://c212.net/c/link/?t=0&l=en&o=3656471-1&h=2774928013&u=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DDF-UG0N8hOs%26feature%3Dyoutu.be&a=here )。
主要賞のほか、6つのニューホライズン賞(賞金は各10万ドル)が、各々の分野に大きな影響を与えた11人の若手の科学者、数学者に贈られた。さらに、3つのマリヤム・ミルザハニ・ニューフロンティア賞(賞金は各5万ドル)が、最近博士課程を終了したばかりながら、重要な業績を上げた女性数学者に授与された。
ブレークスルー賞は、世界最大の科学賞である。5つの主要賞の賞金は各300万ドルで、若手科学者への賞金を加えた今年の賞金総額は1575万ドルである。
2023年の全受賞者の受賞理由は以下の通り。
2023年ブレークスルー賞生命科学部門
Clifford P. Brangwynne氏
プリンストン大学、ハワード・ヒューズ医学研究所、海洋生物学研究所
Anthony A. Hyman氏
マックスプランク分子細胞生物学・遺伝学研究所
タンパク質とRNAの無膜液滴への相分離を介した、細胞組織の基本的メカニズムの発見に対して。
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Demis Hassabis氏
ディープマインド
John Jumper氏
ディープマインド
アミノ酸配列からタンパク質の3次元構造を迅速かつ正確に予測するディープラーニングAI手法の開発に対して。
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Emmanuel Mignot氏
スタンフォード大学医学部
柳沢正史氏
筑波大学
ナルコレプシーが、覚醒を促す物質を作る脳細胞のごく一部の欠損によって引き起こされることを発見し、睡眠障害の新たな治療法開発に道を開いた功績に対して。
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2023年ブレークスルー賞基礎物理学部門
Charles H. Bennett氏
IBMトーマス・J・ワトソン研究所
Gilles Brassard氏
モントリオール大学
David Deutsch氏
オックスフォード大学
Peter W. Shor氏
マサチューセッツ工科大学(MIT)
量子情報分野における基礎研究に対して。
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2023年ブレークスルー賞数学部門
Daniel A. Spielman氏
エール大学
スペクトルグラフ理論、カディソン・シンガー問題、数値線形代数、最適化、符号理論など、理論コンピューター科学と数学への画期的貢献に対して。
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2023年ニューホライズン物理学賞
David Simmons-Duffin氏
カリフォルニア工科大学
液体蒸気臨界点や超流動相転移を説明する理論を含む、共形場理論を研究するための解析的および数値的手法の開発に対して。
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Anna Grassellino氏
フェルミ研究所
加速器物理学から量子デバイスまで幅広い用途で、ニオブ超伝導高周波空洞の大幅な性能向上を発見したことに対して。
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Hannes Bernien氏
シカゴ大学
Manuel Endres氏
カリフォルニア工科大学
Adam M. Kaufman氏
宇宙物理学研究所連合(JILA)、国立標準技術研究所、コロラド大学
Kang-Kuen Ni氏
ハーバード大学
Hannes Pichler氏
インスブルック大学、オーストリア科学アカデミー
Jeff Thompson氏
プリンストン大学
量子情報科学、計測学、分子物理学に応用するため、個々の原子の制御を実現する光ピンセット配列の開発に対して。
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2023年ニューホライズン数学賞
Ana Caraiani氏
インペリアル・カレッジ・ロンドン、ボン大学
ラングランズ・プログラムへの多様な変革的貢献、特にPeter Scholze氏との志村多様体に対するホッジ・テイト周期写像とその応用に関する業績に対して。
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Ronen Eldan氏
ワイツマン科学研究所、マイクロソフトリサーチ
確率的位置測定法を生み出し、Jean Bourgain氏のスライシング問題やKLS予想など、高次元幾何学や確率論のいくつかの未解決問題に大きな進展をもたらしたことに対して。
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James Maynard氏
オックスフォード大学、高等研究所
解析的整数論、特に素数の分布への複数の貢献に対して。
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2023年マリヤム・ミルザハニ・ニューフロンティア賞
Maggie Miller氏
スタンフォード大学、クレイ数学研究所(2020年にプリンストン大学で博士号)
4次元多様体のファイバーリボン結びと曲面に関する研究に対して。
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Jinyoung Park氏
スタンフォード大学(2020年にラトガーズ大学で博士号)
しきい値と選択過程に関するいくつかの主要な予想の解決への貢献に対して。
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Vera Traub氏
ボン大学(2020年にボン大学で博士号)
巡回セールスマン問題やネットワーク設計など、古典的な組合せ最適化問題における近似結果の進歩に対して。
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▽ブレークスルー賞について
「科学界のアカデミー賞」として知られ、今年で11年目を迎えるブレークスルー賞(The Breakthrough Prize)は、世界トップクラスの科学者を顕彰している。300万ドルの賞金が、生命科学、基礎物理学、数学の各分野で授与される。さらに、毎年最大3つの「ニューホライズン物理学賞」、最大3つの「ニューホライズン数学賞」、最大3つの「マリヤム・ミルザハニ・ニューフロンティア賞」が毎年、若手研究者に授与される。受賞者は、その功績をたたえ、次世代の科学者を鼓舞するために設けられた授賞祝賀式に出席する。受賞者は、授賞式の式次第の一環として、講演やディスカッションにも参加する。
ブレークスルー賞はセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)、プリシラ・チャン(Priscilla Chan)、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)、ユーリとジュリア・ミルナー(Yuri/Julia Milner)、アン・ウォジツキ(Anne Wojcicki)の各氏によって創設され、彼らが設立した財団がスポンサーとなっている。各分野の歴代ブレークスルー賞受賞者で構成される選考委員会が、受賞者を選ぶ。ブレークスルー賞に関する情報は、breakthroughprize.org で入手可能。
ソース:The Breakthrough Prize
▽問い合わせ先
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リリース日時:2022年9月23日(金曜)00:08