言葉は光にもいのちにもなる!
東京・信濃町にある真生会館の理事長を務める森一弘さんは、カトリック司祭(神父)の立場から、キリスト教について学びたい人や宗教に関わらず、人生そのものや生きるということについて考えたいと思う人たちのために、さまざまな講座・講演会を主宰すると同時に、50年以上もの間、相談に訪れる多くの悩める人や苦しむ人に向き合い、その声に耳を傾け続けてきました。
第6回 相手に真剣に接すれば、言葉はもっと生きてくる
誰も経験したことのない状況が続き、人との接触が難しくなる中、不安に駆られている人が多いと思います。「何からでもいい、救いや気づきが得られたら」とネットや本に頼る人もいるでしょう。
コロナ禍の前から、「生き方のヒント」について記した本はありました。そうした本に書かれているのは、たとえば「ありがとうの大切さ」や「ごめんなさいの効用」など、すぐに実践できる、ごく当たり前のことです。
でも、ただ「ありがとう」といったところで、それで生きることの難しさが解決するわけではありません。ことばは大事ですが、上手に話ができても、気持ちはまったく伝わってこないと思わせる人もいれば、逆に、口下手でも、語彙が豊富でなくても、熱い思いが胸に迫ってくる人もいます。ことばだけでは通じないのです。
本書『「今を生きる」そのために』6章の「ことばは『光』にも『いのち』にもなる」では複雑な家庭環境のもとで育ち、ことばを失った少年が再び話せるようになるまで寄り添い続けた女性カウンセラーの実話が記されています。
少年とコミュニケーションがとれるようになったのは、彼女が優れたスキルを持つカウンセラーだったからではなく、少年はいつか話してくれると信じ、常識を押し付けずに忍耐強く待ち続けたからでした。結局、ことばは使い手次第。発する人の人柄や真摯な思いが相手の心を溶かしたのです。
今を生きていくために、私たちには何ができるのか?