「田舎では満足なチームはつくれない!」は、ほんとうか?~夢をかなえた少年からの手紙
カル・リプケン杯のような世界規模のものではないけれど、子どもたちが野球を通して成長していける「場」「機会」をつくっていきたいと、NPO法人「ベースボールスピリッツ」でも、全国大会「ベースボールスピリッツ杯」を開催しています。
夢をあきらめない、場をつくる大切さにつて、かつて「イチローの恋人」と称され、また現在ニューヨーク・ヤンキースで活躍する田中将大投手を育てた、ベースボールスピリッツ理事長・奥村幸治氏の新刊書『野球に学ぶ「これからの生き方」』から一部抜粋してご紹介します。
第3回「田舎では満足なチームはつくれない!」はほんとうか?
NPO法人「ベースボールスピリッツ」では、全国大会「ベースボールスピリッツ杯」を開催しています。日本の各地で小学校六年生の選抜チームをつくってもらい、宝塚で全国野球大会を開催しています。
私はオリックス、阪神、西武と三球団でバッティングピッチャーを務めた縁で、プロの知り合いも多いのです。また、私も属している昭和四七年生まれの野球関係者の「47年会」があり、いまは侍ジャパン監督の稲葉篤紀さんなど錚々たるメンバーがいて、彼らも手伝ってくれています。
全国一二のエリア、北は北海道から長野、富山、三重、奈良、和歌山、広島、高知、島根、福岡などから選手が集まります。一応、一チーム一八名という枠をもうけていますが、どうしても絞り切れない、こんないい大会、少しでも多くに経験させてあげたいという声があがり、人数が超えることもあります。
この大会開催のそもそものきっかけは......
講演会や研修で日本各地を飛びまわっているのですが、島根県大田市のあるチームの指導者の方から「田舎は夢が夢のままで終わってしまうのです」と聞かされたことです。
「田舎は夢が夢のままで終わってしまうのです」
「少子化が進み選手が思うようにそろわない、満足なチームづくりができない」という話を聞いて、夢をあきらめないようにしてあげたいと考えました。
その方々が私が監督をする「宝塚ボーイズ」を見学に来られたのですが、すると「出身者にマー君がいて、全国大会出場常連チームなので、体の大きい、野球の上手なエリートばかりがいると思っていたけれど、ちっちゃな子もいれば、下手くそな子もいる。ただ、子どもたちの目の輝きが自分のチームと全然違う」と驚かれました。どうやったらこの目の輝きが生まれるかを考え、「では、小学生のチームに『宝塚ボーイズ』の中学生を派遣して野球の魅力を伝えましょう」ということで交流がはじまったのです。
中学生が小学生に何かを教えられるかなというスタンスではじめたのですが、じつは、中学生たちも、自分たちの役割分担をどうするか、得意分野や苦手なところを互いに整理し合ったりしながら成長しています。小学生に「教える」ということが、自分たちの「学び」にもつながっているのです。
そしてこの延長線上に「ベースボールスピリッツ杯」開催があるのです。
なぜ六年生の選抜かというと、同じレベルの選手が集まることでレベルアップする。またふだんは当たり前に試合に出場できた子が控えにまわることも起こり、ベンチでサポートを経験することもできるのです。
小学生の選抜チームの大会を「宝塚ボーイズ」の中学生たちがボランティアで支えることで、彼らが得られるものはとても大きい。そして、各地で小学校六年生だけの選抜チームをつくることで、選抜された子はいつも以上に強い、上手い選手と交流でき、ふだんよりも高いレベルで練習ができるメリットがあります。
もちろん、地域間格差があり、同じ小学校六年生の選抜チーム同士の戦いでも大差がつくことがあります。大差で敗けても、一年生もいるチームだからというようないいわけができない。実力の差を思いっきり味わい悔しい思いをすることもある。でも、それも小学生にとって大きな大切な経験となっていくのです。
甲子園出場という夢をつかんだ少年!
選抜チームに参加した吾郷寛太くんが、自分が経験できたことを手紙に便せん二枚に書いて送ってくれました。そこには「一回が終了した所でぼくは胸がわくわくしてたまりませんでした。こんなに野球が楽しいと思ったのは初めてでした。ベンチ内も最高に盛り上がったしチームワークで得点した先制点は忘れられません」と熱い思いが記されていました。
この手紙も私の宝のひとつであり、いつも手帳にはさんであります。
大田市では夢が夢のままで終わってしまうという話だったのですが、手紙をくれた吾郷くんはその後、出雲高校から甲子園出場を果たしました。まさに夢を実現させたのです
第3回「田舎では満足なチームはつくれない!」はほんとうか?
第4回 チャンスはつかむもの? チャンスはつくるもの
第6回 常に準備しておく
第7回 SDGsと野球