「生まれた時から耳が聞こえない私。話しても通じないのに担任の先生が『誕生日会の司会』に指名してきて...」(山形県・40代女性)
シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ 投稿者:Sさん(山形県・40代女性)
耳が聴こえないSさんは小学生の頃、地元の学校に通って、耳が聴こえる子供たちと一緒に学んでいた。
ある日、彼女は先生にクラスで毎月開催している「お誕生日会」の司会を頼まれる。
「どうせ通じないし自分がやっても意味がない」
そう思ったSさんは断ったのだが、先生はどうしても彼女に司会をさせたいようで......。
<Sさんの体験談>
生まれた時から耳が聴こえない私が、小学生だったころのことです。
小学校は地元の学校に通って、聴こえる子どもたちと学んでいました。聴こえる子供たちの中で自分だけ聴こえない、話が通じない(当時は手話が禁止されていて、どんなに下手でも声で話さないといけなかった&補聴器を付けても聴き取りが難しかったため)、授業も分からない...など色々な困難があり、その頃の私の劣等感はすさまじいものでした。
一度断ったのに、何度もしつこく...
在籍していたクラスでは毎月クラスの誰かのお誕生会を開いていたのですが、ある日、クラス会で先生がみんなの前で
「来月のお誕生会のために準備をお願いしたいです。司会はSさんにお願いします」
と私を指名してきました。
私は「みんなの前で話しても通じないし私が司会やっても意味がない」と思い、すぐに断りました。
周囲の子ももちろん、ハラハラした顔で私を見ていた記憶があります。「聴こえないし話せないのに司会できるの?」と思った子もいたかもしれません。
ですが先生はそれでも食い下がり、「大丈夫。やってみて!」。私はかたくなに断り続けました。
すると先生は、やっと諦め、別の話題に移りました。
私は心底ほっとしたのですが、クラス会が終わった後に「放課後また話しましょう」と呼び出されてしまいました。
放課後、先生のところに行くとまたしても...
放課後になって、「また司会の話かな?できるわけないよ...」と、重い気持ちで足を引きずるように先生のところへ行くと、開口一番「司会は考えてくれた?」と。
「ほらやっぱり」と思い、「無理です、できません」と言いました。
すると先生は、こう言ってきたのです。
「例えば紙に書いてみんなに見せたり、黒板に書いて進めたりなど色々な方法がある。出来ないことだけを考えて諦めるのではなく、できることを考えてそれをやってみて見てもらうのが一番いい」
本来ならここで目からうろこ......なのですが、当時の私はなかなかの意地っ張りで、すさまじい劣等感に支配されていたので、「何を言っているの?書くなんてできるわけないよ」と思い、しばらく首を横に振っていました。
それでも先生は「大丈夫!一度やってみて。先生もフォローするから」としつこく言うのです。
私はそのしつこさに根負けして、「もう、分かったよ!」と引き受けることにしました。
できないことが「できる」に変わることもある
そして迎えたお誕生日会当日。私は黒板に書いて指をさしたりして、何とか司会進行をしました。
終わった後は「全く...」としか思っていませんでした。
でも、今振り返ると、あの時の先生の言葉は本当に大事なことだったのだ、深い意味があったのだなと分かります。
障害があるとできないことはある。健常者と同じようにすることはできない。
そこを無理して、同じようにできるようになろうとするから劣等感が生まれる。
障害がある自分と健常者を比較し、自分はあれもこれもできないダメな人間なんだと思って自分に自信が持てなくなる。
そうではなく、障害があることを受け入れ、何ができないのかを理解し、その上でどんな工夫をしたらできるようになるのか? どうすればいいのか? 周りにはどう協力をお願いすればいいのか? などを考えて工夫する。
すると、できないことが「できる」に変わることもある。
また、自分ができることを探し、できることを最大限やることで自分自身を伸ばすことができる。
また、社会にも貢献できるかもしれない。そこから自分自身への自信につながる。
先生は私に、そういうことを気づいてほしかったのかもしれません。
振り返ればあの出来事は私のターニングポイントだったと思います。
あの時の先生がまだご存命かは分かりませんが、いつか会えたらありがとうと伝えたいです。
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