枝、葉っぱ、殻... カカオの実の「チョコレートにならない部分」を食べてみました
チョコレートやココアを作るのに「カカオ」が必要であることは、皆さんご存じだろう。
カカオというのは熱帯植物の一種で、大きな紡錘形の実をつける。
この中に複数の種が詰まっていて、これを発酵させたり乾燥させたり焙煎したりしてチョコレートなどの原材料になる「カカオマス」を作るのだが......それ以外の部分、カカオの実の約70%は、使われることなく廃棄されているらしい。
そんなカカオの「廃材」を食べるチャンスが、巡ってきた。
2022年3月14日、ホワイトデー。この日、東京・新宿御苑の温室でカカオの廃材とドリンクのペアリングが楽しめるコース「LIFE OF CACAO」が提供されたのだ。
チョコレートに目がなく、常に鞄の中にいくつか潜ませている筆者がその味を体験してきたので、皆さんにもご紹介しよう。
有名パティシエとバリスタがタッグ
「LIFE OF CACAO」では、数々の有名店でシェフパティシエを歴任し、18年から4年連続で世界最大級のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」にも参加しているパティシエ・江藤英樹さんによるスイーツ5品それぞれに、14年にワールド・バリスタ・チャンピオンシップにてアジア人初の世界王者となったバリスタ・伊崎英典さんが考案したドリンクが合わせられている。
「カカオの一生に寄り添い、味わい尽くす」というテーマの元、最初に出てきたのがこちらだ。
スイーツの方はチョコレートの原材料「カカオマス」となるひとつ前の状態「カカオニブ」とカカオ豆の殻で香りづけしたブランマンジェだ。上にはカカオの果肉である「カカオバルブ」のジュレが乗っている。
まずはジュレだけ口に入れてみて、びっくり。爽やかな酸味が口いっぱいに広がる。チョコレートの気配は、下のブランマンジェと一緒に食べるまで感じられなかった。
合わせられたのは、カカオバルブを使用した食前酒のようなドリンクで、ジュレと同じカカオバルブでできている。
こちらはシャンパンのような軽さで飲みやすかった。
枝や葉っぱも食べちゃった!
初っ端から「カカオ=チョコレート」という先入観を覆されて動揺する記者の元に、次のメニューが運ばれてくる。「根づき」をテーマにしたメニューだ。
馴染みのある茶色いビジュアル。これは、見るからにチョコレートだ......!
カカオニブとカカオ豆の殻で作られたムースショコラとっても濃厚。その上には、カカオの枝のパウダーを塗布したチョコレートがあしらわれている。
ドリンクは、コーヒーを焙煎するときに出るコーヒー豆の薄皮「チャフ」やジャスミンを使用したジャスミン茶のような爽やかかつ少し苦みのある一杯で、スイーツの甘みをリセットしてくれるので、そのペアリングを楽しみながらあっという間に食べきってしまった。
続く3品目は「息吹」をテーマにしたもので、そのヴィジュアルのインパクトは抜群。
カカオの葉を用いたテリーヌとアイスクリーム、クランブル。そしてドリンクもカカオの葉とミルクで仕上げた抹茶ラテならぬ「葉っぱラテ」だ。
カカオの葉っぱなんて、当然食べたことがない。ドキドキしながらテリーヌを口に入れると、どこか香ばしくも瑞々しい香りが鼻に抜けた。知っているもので例えるならば「緑茶」の香りに近いだろうか。
まわりにかけられているパウダーのみをすくって舐めてみると、ほんのり甘い。もっとハーブのようなクセのある感じかと思っていたが......カカオの葉っぱ、とっても食べやすくて美味しかった。
こんなに美しいスイーツが「廃材」で?
コースもいよいよ終盤となってきた。4品目がイメージしたのは「実り」だという。
カカオバルブのクリームやソルベに、フランボワーズのコンポートやイチゴが添えられている。見た目も美しいスイーツだ。カカオ豆の殻やコーヒーチェリーの外皮のシロップを使っているドリンクも、ローズヒップを思わせるような華やか香り。カカオの実の全てを味わい尽くせるようで、まさに「実り」というテーマにぴったり。
豊かな香りがなんだかとても贅沢な気持ちにしてくれて、これがカカオの廃材によるスイーツだなんて、言われなきゃ絶対に分からないだろう。
そしてコースの締めとして登場したのは「還元」をイメージしたスイーツとドリンクだ。
一般的なチョコレートに使用されているカカオマスやカカオバターを一切使用せず、カカオ豆の殻、カカオの枝、葉で作った全く新しい一口チョコレート。まるでカカオ農園にいるかのような自然の香りに包まれる。これだけ食べてもあまりチョコレートという感じはしないのだが、添えられている深煎りコーヒーと共に楽しむと、一気にチョコレートを食べている気持ちに。これぞペアリングの醍醐味......!
地球の新たな食材を発見するプロジェクト
カカオが生まれる大地の情景が脳裏に浮かんだところで、コースは終了。
カカオの木や、コーヒーの木も育てられている新宿御苑温室で、カカオの全てを味わい尽くすことができた。素材それぞれの味を楽しんでいる間に、まるで森や農園の中にいるかのような気持ちになることもあり、単なる食事というよりもはや「体験」だった。
なお、今回筆者が参加したイベントは、住宅・不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S」などの企画・運営を行うLIFULL社が「食べることが地球のためになる」として地球の新たな食材を見つけるために実施しているプロジェクトの一環で行われたもの。
今回は、低賃金や定収入によるカカオ農家の貧困という社会課題の解決の糸口になればと、カカオの廃材に焦点をあてた結果、このようなコースが誕生したという。
確かに、こんなにも満足感を与えてくれたカカオの多くの部分が、日頃は捨てられているなんて心底もったいない。チョコレート好きのひとりとしては、この「廃材」たちも有効活用するスイーツがどんどん生まれていくことを願う。