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大昔からあったとしか... 歴史的町並みに溶け込む「新築ビル」のこだわりがスゴイ

松葉 純一

松葉 純一

2022.01.12 18:21
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2021年12月20日、次のような写真が投稿され、話題となった。

画像はKunitentenArcさんのツイートより

どこかレトロな佇まいのビルである。写真には「ここまで新築でやり切るのは凄いな...」というコメントが添えられている。

えっ、この建物が新築? 外壁はレンガ造りのようだし、窓枠も凝りに凝っていて、ずっと昔からここにありそうな感じだが......。

投稿者「kunitenten_arc」さんが投稿したツイートには、3万5000件を超える「いいね」が付けられるなど、注目を集めた(27日現在)。

ツイッターにはこんな声が寄せられている。

「え?これ新築なんですか!戦前の建物じゃなくて!?」
「えっ新築なのこれ。すげえ。隣の民家のほうが後からできたんじゃないんだ...?これめっちゃ面白い」
「建物本体もすごいですが、建具などの部材もこれほどのものを今でも作ってくれる所があると知って嬉しくなります」

このレトロな建物は、いったいどこに立っているのだろう? Jタウンネット記者は投稿者「kunitenten_arc」さんと、設計施工した岡建工事株式会社に詳しい話を聞いた。

「昭和初期の建築を極力再現すること」

千葉商船ビル外観(画像提供:岡建工事株式会社)

投稿者「kunitenten_arc」さんによると、この建物があるのは千葉県北東部の香取市。江戸時代中期から昭和初期、利根川水系の舟運と商業で繁栄し「北総の小江戸」と呼ばれる佐原という地区の忠敬(ちゅうけい)橋のきわだという。

このあたりは橋を中心に伝統的建造物保存地区に指定されており、ビルの近隣には、佐原で家業を営んでいた伊能忠敬の旧宅や古い町家建築、土蔵造り、洋風建築など江戸後期から昭和初期までの建物が建ち並び、歴史的町並み景観を構成している。

その中で「新築といえども戦前のデザインを援用して街並みに溶け込ませた手法はすごいと思います」とkunitenten_arcさんは語ってくれた。

建物の名称は、千葉商船ビル。このビルを設計・施工した岡建工事のウェブサイトによると、2018年10月に完成した3階建て鉄筋コンクリート壁式構造の事務所兼共同住宅だ。Jタウンネット記者は、同社に取材した。

千葉商船ビル1階(画像提供:岡建工事株式会社)

取材に応じたのは、岡建工事企画設計部の担当者。まず「千葉商船ビル」建設を企画した時期について聞いてみた。

「計画が始まったのは東北大震災の後、旧事務所が震災によるダメージを受け建て替えを考えられた時と伺っております。その後デザイン監修をされているIDデザインの戸山先生と基的な計画を進められ、2014年暮れ頃から私どももこの計画に参加させていただきました」(岡建工事企画設計部担当者)

――施主からの要望でもっとも強かったのは、どんなことだったのですか? 

「もともと建築に造詣の深いお施主様がご縁のあった、昭和初期に建てられた東京新橋の建築金物メーカーの建物をモデルに建築されたいとのご要望でしたが、現代の建築に求められる性能を損なうことなく昭和初期の建築を極力再現することでした」(岡建工事企画設計部担当者)

「震災の経験から、耐火建築物を」

千葉商船ビル階段(画像提供:岡建工事株式会社)

――「千葉商船ビル」建築の意図・狙いは何だったのですか?

「香取市佐原は『三大小江戸』の一つとされる『重要伝統的建築物群保存地区』。しかし、この地域には木造建築だけでなく洋風建築、擬洋風建築も散見されます。木造の伝統的建築ではなく洋風建築かつ鉄筋コンクリート造を選択された一つの理由としては、お施主様が震災を経験されたことから、次に建てる建物は耐火建築物として震災等の際に盾になるもので、火災時の延焼を防止できるように、という目的があるとおっしゃっておりました」(岡建工事企画設計部担当者)

――「千葉商船ビル」建設にあたって、佐原地区景観条例の許可をとることが重要だったようですね。香取市との協議でもっとも大変だったのは何だったのですか?

「香取市佐原地区歴史的景観条例は、もともと木造しか想定していなかったので鉄筋コンクリート造の洋館は香取市にとっても初めてのケースでした。地区の規定との調整に大変多くの時間を要しましたが、お施主様の熱意と、それにお応えいただいた審議会の皆様、自治体の担当者の方のご尽力、有識者の大学教授などの協力的な助言を頂きながらようやく許可がおりました時はホッといたしました」(岡建工事企画設計部担当者)
千葉商船ビル2階(画像提供:岡建工事株式会社)

――外観は昭和初期を再現しながら、内部の機能は現代の最先端を追求するというのは、なかなか難しい課題だったと思いますが、どんな点に苦労されましたか?

「地区において建物の高さを制限されているため十分な天井裏や床下のスペースがとれないため、限られたスペースに電気、衛生、空調各設備を納めるために何度も行なった各業者間でのすり合わせが大変でした」(岡建工事企画設計部担当者)

――レンガ、石材、建具など、特注されたそうですが、もっとも苦労されたのは何でしたか?

「外壁のレンガについてはモデルになった建物の外壁に近づけるため何度もサンプルを製作して現地確認をしました。
建具は近年既製品が主流となっており一から製作してくれる業者さんを探すことがなかなか大変でした。
最近あまり使われなくなった左官仕上げができる左官職人さんを探すことも大変でした。石材のレリーフを原寸大のモックアップを木で作成して工場に送りその通り製作していただいたことも今の建築ではなかなかやらない工程です」(岡建工事企画設計部担当者)

「あっ佐原だ!」「行ってみたい」

佐原大祭時の千葉商船ビル外観(画像提供:岡建工事株式会社)

――「千葉商船ビル」は現在どのように使われていますか?

「この地で長年まちづくりに貢献してきたお施主様の千葉商船株式会社様が事務所兼お住まいとして使用されております」(岡建工事企画設計部担当者)

ツイッターにはこんな声も寄せられている。

「両隣りの建築物との調和が素晴らしいし、角地の圧迫感を感じさせないカーブがまた最高。繊細な気遣いが街と企業の良好な関係性が見られますね」
「隣に蔵造りのすんげー古そうな商家があるおかげで、まるで明治期に文字通りにモダンな建築が古い町並みに放り込まれてしまったという感じの絶妙な佇まいになってる」
「千葉県香取市佐原の旧市街地はJR佐原駅の南東にあるんだ。このような街並みがあるとは知らなかった。歴史ある街のようなので行ってみたい」
「あっ佐原だ! 佐原のまち並みの一等地にあるんですよね...びっくりでした」
「岡建のページに内装の写真があるけど、角部屋の窓際の天井に設置されたブリーズライン(空調吹き出し口)まで曲線に仕上げられていて相当凝っていると感じた。令和の時代にこんな素晴らしい新築を見られるなんて」

ツイッターなどSNSで、ここまで話題になっていることに対して、岡建工事の担当者は、「話題になる建物に携われたことを誇りに思いますし、そのようなチャンスをいただけたお施主様に感謝申し上げます」とコメントした。

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