お取り寄せグルメで「バーチャル角打ち」したら、狭い台所が「小倉の街」に見えてきた
Jタウンネット元編集長のKは、テレワーク中心の生活に「刺激」を求めていた。
コロナ禍になって1年。泊りがけの外出も、全くしなくなった。
そういえば編集長時代には、よく出張してたな。その土地のつまみと、チューハイさえあれば、豪華な宿を取らなくても十分なのに――。
なかでも印象に残っているのは、福岡県北九州市だ。
小倉の「角打ち(かくうち)」を中心に飲み歩いてから、もう3年も経った。
「角打ち」とは、酒屋の店頭で、お酒を飲むスタイルのこと。いまでは全国各地で珍しくないが、北九州市発祥とされている。
当時のことを思い出して、「あぁ、旦過(たんが)市場のカナッペで、ビールでも飲みたいな」と調べていたら、「旦過直送便」なるお取り寄せグルメを発見。新たなワクワクに出会えるんじゃないかと、さっそく注文してみた。
冷凍庫にぎっしり詰まったグルメ
注文から数日後、「旦過市場お取り寄せセット」が、クール便で届いた。1万800円(消費税8%込)とは思えないボリュームで、冷凍庫がパンパンになってしまった。うれしい悲鳴だ。
入っていたのは、黒毛和牛に天然めばちマグロといった豪華食材や、北九州の郷土料理、そしておやつなどなど、合計11品。懐かしの旦過市場名物も、もちろん入っている。
北九州市で体験した「角打ち」には立ち飲みのお店も多かった。その感覚を味わうために、きょうは自宅で一番カウンターっぽい「台所」で、一杯やることにした。
まずは「カナッペ」から。魚の練り物をパンで包んで揚げた逸品だ。
冷凍では、あの食感は出ないかなと思ったが、電子レンジで温め、トースターであぶると、香ばしさがよみがえってきた。
サクッとした衣をかじると、弾力のあるカマボコゾーンへ。食感の差を楽しんでいると、コショウの風味がやってくる。練り物といえば、上品なイメージがあるが、カナッペはほどよく荒々しく、ビールが進む。
勢いにのって、セットの中からホルモンも取り出し、解凍してフライパンでいためる。
付属のタレをからめると、部屋中が焼肉屋さんのような香りに。序盤にピッタリな、スタミナの付きそうな味わいとともに、あっという間に500ミリ缶が空いた。
続いては、こちらも北九州市名物、ぬかみそを入れて煮た「ぬか炊き」。
イワシとサバの2パック入っていたが、きょうはイワシにしてみよう。ぬかの効果で、青魚特有の生臭さが抑えられているため、お酒じゃなくて、ご飯にも合いそうなお味。十分に炊き込まれているので、小骨も気にならない。
あわせて魚介系から「天然めばちマグロ漬け」をチョイス。解凍したらタレをあえて、ちょっと寝かせておく。魚といえば日本酒だな、と冷蔵庫をゴソゴソ。注文するのではなく、勝手に飲み物を取り出すのも、ちょっと角打ちっぽい。
たった3年で、世界は大きく変わった
さて、そろそろ旅情をかきたてますか。スマホを片手に、かつて撮った写真を「つまみ」にする。
筆者が最初に北九州市を訪れたのは、2017年冬だった。あの頃はまだ、八幡東区のテーマパーク「スペースワールド」が健在だった。周囲はぐるっと回ったのに、園内には入らなかったのを後悔している。
1年たらずの間に、北九州市へは3度訪れた。工事中の門司港駅や、折尾駅も見に行ったっけ。どちらの駅舎も、いまでは立派になっているそうだ。
18年夏には「お試し移住」もした。市内各地を取材して、原稿を書きつつ、東京の編集部へ指示を出す。たった数日間だったが、「ワーケーション」を先取ったことが、抵抗なくテレワークへ移行できたきっかけに思える。
3年ちょっとの間に、世の中は変わった。「平成」から「令和」になり、北九州市内に限っても、主要駅前の景色が変わったと聞く。その光景をこの目で見られるようになるまでには、まだ時間がかかりそうだが...。
新型コロナの影響で、人出はかなり減っているようだ。NTTドコモの「モバイル空間統計」(21年2月22日参照)によると、小倉駅の人出は感染拡大前と比べて28.8%減少。
かつて筆者が訪れた時、魚町の商店街は賑わいを見せていたが、今はどうなっているのだろう。
脳裏にいつか見た風景が映し出される......。レモンサワーが、いつもより甘酸っぱい。
朝食まで、北九州グルメを満喫
実は「旦過直送便」以外にも北九州グルメをお取り寄せしていた筆者。
ここで、締めにスイーツをと、別途購入していた「鐵平糖」をいただくことにした。
これは官営八幡製鉄所のおひざ元、八幡東区の千草ホテルが生み出した「鉄の味がする金平糖」だ。数粒ほおばると、アルコールでゆるんだ口の中が引き締まる。
どんな感想を抱くかは、人それぞれだろうが、筆者は「そういえば、この3年間で、親知らずを4本抜いたなぁ」と思いだす味だった。
仕上げは、こちらも別に買った「シャボン玉せっけんチョコ」。
市内の老舗せっけんメーカーの商品を模したお菓子で、もちろん食べられる。見た目はインパクトがあるが、その実態はホワイトチョコ。やさしさに包まれながら、夜は更けていく――。
気付いたら、朝になっていた。せっかくなので「大學丼」を再現してみよう。
旦過市場の真ん中には北九州市立大学の学生らが運営に携わる「大學堂」という場所がある。その名物が「大學丼」だ。
お店でどんぶり飯を受け取り、旦過市場のお店をめぐり、そこで販売されている様々な「具」を載せていく......というもので、自分の好みに合わせたオリジナルグルメを作れる。
今回筆者は、昨夜残したマグロ漬け、ぬか炊きに加えて、ネギトロものせてみる。すりごまをパラリとかけると、朝食にはもったいないごちそうに。
ちょっと甘めのマグロ漬けは、一晩じっくり寝かせたこともあって、よりタレが染み込んでいる。隣り合うネギトロのフレッシュさとあわせて、箸の往復が止まらない。
そこにどっしり構えた、イワシのぬか炊き。深みある味わいが、たんなる海鮮丼ではない重厚感を与えてくれる。
今までの思い出を振り返りながら、ご当地ならではのグルメを堪能した筆者。
ふたたび観光できる時に向けて、北九州市への思いが募るばかりだった。
なんの気兼ねもなく、現地で食べられる日が待ち遠しいが、北九州市の特産品は、ふるさと納税でも入手できる。ひとまず「お取り寄せ」で楽しんでみるのもよさそうだ。
<企画編集・Jタウンネット>