「昔は、たばこが安かった」←いったい、どのくらい?たばこの歴史と社会情勢を探る
専売制から民間へ
明治時代になり、近代国家を目指し始めた日本。当時の政府の主な収入源は、「地租」(個人の土地に課した税)だったが、国民からは不満の声が高まっていた。そこで、政府が目をつけたのが、たばこからの税徴収だった。
1876(明治9)年に、「煙草税則」が施行され、煙草の卸売りや小売り業者にかけられる「営業税」や、商品に貼付した印紙から税を取る「印紙税」で税を徴収。ただこの「印紙」が脱税の元になってしまい、政府が目標とする税収を得ることはできなかったという。
「なんとかせねば...」と考えた末、1898(明治31)年に、「葉煙草専売法」が施行され、さらに1904(明治37)年に施行されたのが、たばこの製造から販売までを国が管理するという「煙草専売法」だ。
「究極の税金の取り方は、やはり専売制だろうと。たばこを国で製造して販売した方が、脱税っていうのはないんですよね。
また専売制を施行した理由は、当時の諸外国の動きにもあります。
アメリカやイギリスはすでに大企業がたばこを製造して、国際的に流通が広がっていた一方で、フランスやオーストリアなどでは、専売制を敷いていました。
明治政府は、海外から色んなことを学んでいたので、たばこに関しては専売制という選択肢もあるね、と。さらに、アメリカやイギリスの会社が日本の市場に進出してきたので、国内のたばこ製造業者を守る意味も込めています」
そんなわけで、大蔵省専売局がたばこの専売事業を行うようになった。その時はひと箱4~7銭だったそう。その後、戦争を経て、その事業は1949年に発足した「日本専売公社」が引き継ぐごとになる。
とはいえ、安さの秘訣である「国による専売制度」があることに変わりはないので、たばこはまだまだ、安いままだ。
この、国による専売制度が廃止されたのが、1985(昭和60)年。
同年4月1日に「日本専売公社」は民営化し、たばこの製造を独占する「日本たばこ産業」(JT)が発足する。その理由の一つには、「アメリカからの圧力もあります」と鎮目さん。
当時の日本経済の成長により、対アメリカの貿易黒字が過去最高になり、貿易摩擦が生まれていたのだ。
日本は大きなたばこ市場を持っているにもかかわらず、専売制度があったためその市場は閉鎖的だった。そこで、アメリカから貿易赤字の解消のために市場開放の要請が強まっていたようだ。
日本をとりまく社会情勢が、専売から民間会社への移行を促したカタチに。牛肉やオレンジだけでなく、たばこも、日米貿易摩擦の影響を受けたのだ。