関西人の皆様、「いらち」は標準語ではありません 全国調査の結果→約半数が「使わない」
「いらち」とはどういう意味か、ご存じだろうか。
主に関西で使われる方言で、ざっくりと「あわて者」「せっかち」という意味の言葉だ。実際、広辞苑(第七版)でひいてみても、「(京阪で)性急で落ち着きのないさま。また、そのような人」とある。
ではこの「いらち」、どの地域まで浸透している言葉なのだろうか。Jタウン研究所では、「『いらち』、意味わかる?」というテーマで、都道府県別にアンケート調査を行った(総投票数1425票、2019年2月21日~7月4日)。
はたして、その結果は――。
関西は「いらち」派完勝!
「いらち」の意味わかる? という問いかけに対しての結果が、下の円グラフだ。「意味はわかるし、使ったこともある」は705票(49.5%)、「使ったことはないが、聞いたこともあって意味もわかる」は322票(22.6%)だった。
「聞いたことはあるが、意味は知らなかった」は63票(4.4%)、「全く知らなかった」は335票(23.5%)だ。まとめると、言葉の意味は7割強が分かるが、使ったことがある人は約半分という結果になった。
「使ったことがある」と答えた人の率を、各県ごとに0~30%、31~50%、51~80%、81~100%と4段階に分け、比較を試みてみた。その結果を色分けすると、上のような日本地図になった。
色分けされた地図を見ると、「使ったことがある」率が高い青はとくに関西、そして西日本に集中しているようだ。一方、「いらち、使ったことある」率の低いグレーは東北、関東の一部、九州などに広く分散している。詳しくは、各都道府県の調査結果を見てみよう。
まず「いらち、使ったことある」派の本家・大阪府を見ておこう。
「意味はわかるし、使ったこともある」は91.5%。「使ったことはないが、意味はわかる」は6.8%だった。「聞いたことはあるが、意味は知らなかった」は0%、「全く知らなかった」は2票、1.7%だった。
「いらち、使ったことある」派の圧勝である。
次に、関西の他の県も見てみよう。「いらち、使ったことある」派は、京都府91.7%、兵庫県87.2%、滋賀県72.7%、奈良県94.1%、和歌山県100%と、のきなみ高い。当然のことだが、関西は「いらち、使ったことある」派が完勝だった。
東日本では通じない?
一方、大票田の東京都の結果をみると...。
「使ったことがある」派は346票で、44.5%。「使ったことはないが、意味はわかる」は191票、24.6%だった。「聞いたことはあるが、意味は知らなかった」は45票、5.8%、「全く知らなかった」は195票、25.1%だ。
それでは北を見てみよう。北海道(23.1%)、青森県(0%)、岩手県(40%)、秋田県(0%)、山形県(0%)では、「いらち、使ったことある」派はかなり少ない。「いらち」は北日本ではあまり通じないないかも...。
九州を見てみよう。福岡県(18.8%)、佐賀県(0%)、長崎県(0%)、熊本県(0%)、大分県(0%)、宮崎県(0%)、鹿児島県(0%)、沖縄県(0%)では、「いらち、使ったことある」派はほぼ全滅に近かった。
全国的には「いらち」はけっこう通じる言葉と言えるかもしれない。しかし各県別の結果を見ると、「いらち、使ったことある」派が少数派の地域はけっこう多い。
ちなみに落語の世界には、「いらちの愛宕詣り」という上方の演目がある。
長屋住まいの喜六が「いらち」を治すためには信心がいいと聞き、愛宕山参詣へ向かう。方角を間違えてうろうろしたり、ようやく辿り着くが、お賽銭の代わりに財布を投げてしまったり、と大騒ぎをする抱腹絶倒の噺だ。
この落語は江戸に移植されると、「堀の内」という題で演じられ、粗忽(そこつ)者の熊五郎が繰り広げる大爆笑ネタとなる。極度に「そそっかしい」失敗談の連続技が続く。上方の「いらち」は、江戸の「粗忽」となるようだ。
関西の落語家が、東北の高座で「いらち」と言って、ポカーンとされる場面もあるかもしれない。「え、これ使わへんの?」と絶句し、あわてふためく「いらち」もいたりして......。