愛知県人の屈辱「名古屋飛ばし」 その悲しい歴史を振り返る
ドーム・アリーナが整備されるも、今度は会場が足りない
「名古屋飛ばし」が流行語となったのは1992年に東海道新幹線の「のぞみ」が運転開始した時に、一部の列車が名古屋駅を通過したこと。JR東海の本社がある駅を通過させるとは何事かと名古屋財界の顰蹙を買った。
その後、のぞみは全列車名古屋に停車するようになったので鉄道における名古屋飛ばしは解消された。しかし、興行界を中心に東京から名古屋を飛ばして関西に行ってしまう、ということがあるたびに「名古屋飛ばし」と揶揄された。
典型的な例は海外のアーティスト、いわゆる「外タレ」だろうか。
87年、93年と96年にワールドツアーの日本公演を開催したマイケル・ジャクソンさんの場合、3回とも名古屋での公演は無かった。特に93年と96年は東京と福岡での開催だったが、これはドーム球場が当時東京ドームと福岡ドームしか無かったことも影響しているのではないだろうか。97年にナゴヤドームと大阪ドーム(京セラドーム大阪)が開場して本州以南の4大都市圏にドームがそろったため大きな興行も打ちやすくなった。
ポール・マッカートニーさんの場合は初めて来日公演を実施できたのが1990年、93年公演では福岡ドーム、02年公演では大阪ドームで初めて公演を行い、13年には東京・大阪・福岡でドーム公演を行ったが、名古屋での初公演は18年11月のナゴヤドーム公演となった。
他にも邦楽有名アーティストもナゴヤドームや日本ガイシホールで開催する回数が増えているから、ビッグアーティストクラスであれば、名古屋でもライブの機会はそれなりにあるといっていい。噂されるほど名古屋が「飛ばされている」とまでは言えない。
しかし日本ガイシホールが19年1月から20年7月まで改修のために長期休館に入っているため、コンサート会場選びはしばらく難儀するかもしれない。
むしろ、音楽ジャンル以上に機会が奪われているのではないかと思われるのは美術・芸術関係の方だ。大型の企画展は関東の他は関西でのみ開催というケースがほとんどで、メジャーな企画展でも名古屋での開催は極めて少ない。
例えば2018年に東京・国立新美術館で42万人を動員し、年間3位の動員記録を残した「ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか」は、東京開催の後は18年9月から19年4月まで大阪市美術館での開催で、名古屋での開催予定はない。17年開催の「『怖い絵』展」は兵庫県立美術館と東京・上野の森美術館での開催だった。
また伝統芸能の分野では関西では京都に南座、大阪に大阪松竹座があるが、名古屋には収容人員1000~2000人クラスの常打ち可能な商業劇場は現在御園座しか無い状態で、歌舞伎・大衆演劇・ミュージカルなどがすべでこの劇場に需要が集中している状況だ。
ドームやアリーナの整備で以前より改善しているといえるものの、芸術系で名古屋のニーズに応えられているかどうかは微妙である。そこに全国的なホール会場不足が手伝って、名古屋がおざなりにされている、と考えられる状況になっているのかもしれない。
江戸時代、尾張徳川家7代目徳川宗春が藩主の時代には「芸どころ」を誇った名古屋、関東関西には及ばずとももっと文化コンテンツに富む都市であってもいいのではないだろうか。