【検証】ジャミロクワイ「Virtual Insanity」は、本当に「さっぽろ地下街」からインスピレーションを受けたのか
洋楽にはまったく興味がない、という人でもどこかで一度くらいは絶対に耳にしているであろう楽曲のひとつが、ジャミロクワイの「Virtual Insanity」だ。
1996年に発表された3rdアルバムの「Traveling Without Moving」に収録されていた曲で――、と説明されてもわからないかもしれない。大きな帽子をかぶった人が、床が動いているように見える無機質な白い部屋の中で、奇妙な踊りを見せる特徴的なミュージックビデオなら見覚えがあるのでは。
この「Virtual Insanity」が、札幌市の地下街がきっかけとなって作られた曲だったとツイッター上で話題になっている。そこで、過去のインタビューや状況証拠から、「インスピレーション元は札幌」説を検証してみることにした。
「仙台説」もあるが...
発端はあるユーザーが、1999年に行われたジャミロクワイの東京ドーム公演の画像を投稿したこと。この画像の中でジャミロクワイが(正確にはボーカルのジェイソン・ケイさんだが)、「札幌で歩いた地下街の印象をホテルに戻ってまとめたのが『Virtual Insanity』」という趣旨の発言をしているのだ。
念のため、東京ドーム公演の映像を確認してみたところ、確かに前述の発言をしていた。
来日公演での単なるリップサービスでは......、という気がしなくもないが、この話、どのくらい「マジ」なのだろうか。ジャミロクワイ本人に聞くのが一番確実なのだが、電話ですぐに答えてもらえるとは思えないので、過去のインタビューなどを調べてみた。
すると、2013年に南アフリカの新聞「Mail & Guardian」オンライン版の記事の中で、「あなたの歌に最も強いインスピレーションを与えたものは?」との問いに対し、ジェイソンさんが「心に浮かぶのは、初めて訪れた日本の巨大な地下街」と回答していることを確認した。
「通りを歩いていたけど誰もいなかった。完全に荒廃した世界みたいだった。でも、階段を下りて地下街に行くと大勢の人が地下にいた。視覚的に普通じゃない場所だったね。そのことを『Virtual Insanity』の歌詞にしたんだ」
実際に、「Virtual Insanity」では「we all live underground」という歌詞が頻出する。わざわざ日本以外でもこう答えているのであれば、リップサービスではなく、本当にインスピレーション元になっていた可能性が高い。
ただし、前述のインタビューでは地下街が札幌だったかどうかはわからない。近年のMCやインタビューで「仙台の地下街」と言っているとの情報もあり、2013年に発売された20周年記念アルバムのライナーノーツにも仙台と書かれていることを示したツイートもあった。
virtual insanityが仙台で着想を得たってMC、え?えぇ!?ってなったけど20周年記念盤のライナーノーツに書いてあったの忘れてた
— MoEmOe (@moemoe_251) 2017年9月17日
他にもいろんな話が書いてあるしリマスター盤だから今からCD買うなら絶対こっちがおすすめ!#ジャミロクワイ #Jamiroquai pic.twitter.com/q83YVwI00u
ジャミロクワイの公式サイトで、過去の来日記録を見てみると、東京以外では愛知、大阪、神奈川、北海道、宮城、福岡、広島で、確かに仙台も訪れているのだが、仙台に「巨大な地下街」はない。
さらに、雪が降ると通りに誰もいなくなる、という発言から考えると、札幌市の大通公園下に広がる、「オーロラタウン」と「ポールタウン」で構成された、「さっぽろ地下街」のことを指している可能性が高そうだ。
唯一の札幌公演も1995年2月26日となっているので、まさに厳しい冬の北海道だ。「Virtual Insanity」のリリース時期が96年9月なので、タイミングも違和感はない。なお、札幌の2日後には、宮城でもライブを行っているため、両者を混同した可能性もありそうだ。
もう少し情報が欲しいので、「さっぽろ地下街」を管理する、札幌都市開発公社にも確認することにした。Jタウンネット編集部が2018年4月6日に取材をしたところ、同社の担当者は、
「私個人がそうした話を耳にしたことはなく、社内でも知られていないと思います。今回ツイッター上で話題になっているのを見て、初めて知りました」
と話してくれた。ちなみに、ジャミロクワイが語っていたように、冬になると通りから人がいなくなり、地下に人が溢れかえるのだろうか。
「その時の状況や時間帯にもよると思うのですが、確かに冬は足場も悪くなり、地上よりも地下街の利用者数が多くなります。さすがに誰もいなくなる、ということはありませんね」
当たり前だが「Virtual Insanity」は、「冬の札幌の地下街行ったら人がすごかった~」などと歌っているわけではなく、この世界が「仮想の狂気」で作られているとし、そのことをシニカルに描いた名曲だ。
「さっぽろ地下街」という空間を、ジャミロクワイというアーティストのフィルターを通して表現したのが「Virtual Insanity」、ということなのだろう――。と勝手に納得してしまったが、本当のところはジャミロクワイにしかわからない。機会があれば、本人に聞いてみたい。