新潟・村上市は、どうして「町屋再生」に成功できたのか?
行政の補助を受けず、市民の力だけで......

「町屋再生のプロジェクトが進行するにつれ、テレビや新聞、雑誌といったマスコミの取材も増えました。結果的に、観光客も通年やって来るようになったのです」と吉川さん。今では会員の数も、述べ5000人を超えるという。
「会員には、近くの瀬波温泉に格安料金で泊まれるとか、市内の加盟店で使用できる1割引券(3000円分)といった特典を用意しました」。年会費分の元は取れるというわけだ。また会員にはリピーターになってもらいたい、という願いも込められている。

町屋再生プロジェクトの最近の事例について聞いてみた。
「市内に唯一残っていた鍛冶屋の店がありました。現在の持ち主は、鍛冶の仕事を続ける意思はなく、既に近くに住居を構えて引っ越していました。つまり鍛冶屋の店は空家同然、取り壊しの危機にあったのです」と吉川さんは語る。「そこで『鍛冶屋再生一万円運動』を起こして、全国から寄付を募り、改修することになりました」。
2014年、「孫惣刃物鍛冶」は完成し、先祖代々受け継いできた道具一式を店内に展示し、公開している。「ときには持ち主自身が店に現れ、古い道具について説明してくれることもあります」と吉川さん。町屋再生プロジェクトの中に、「空家再生」という事例が徐々に増えつつある。

今回、ユネスコから「プロジェクト未来遺産2016」として選定された理由として、「行政の補助を一切受けずに、市民から寄附を募り」、活動したことが挙げられている。そもそも行政が打ち出した近代化方針に反対する市民運動としてスタートしたので、当然と言えば当然だ。
「しかし現在では、行政の方針も変わったようです」と吉川さんは満足気に語る。町屋再生の成功が、ようやく行政からも認められてきたのだ。しかも行政が頭を悩ます空家対策にも貢献している。
さらに小中学校での講演をとおして、「次世代に町屋の価値とまちづくり活動を伝えている」ことも、大きく評価されている。「自分たちの町は、自分たちの力で良くする。子どもたちとってあたりまえのことなんですね」と吉川さん。「人形さま巡りのイベントにも積極的に参加してくれますよ」。
取材の最後に、今後の抱負を聞いてみた。吉川さんは、「もっとニッチな店、個性的な店を揃えていきたいですね」と答えてくれた。プロジェクトはまだまだこれからも続く。再生したのは、たんに建物の外観だけでなかったようだ。