麻雀漫画の主人公たちは、どんなタバコを吸っているのか調査してみた【後編】
前編では、福本作品を中心に麻雀漫画におけるタバコ描写を紹介した。この記事では、範囲をさらに広げ、他の名作を見ていきたい。
「哲也」のタバコは成長の証
「週刊少年マガジン」で、1997年から約7年間連載されたのが「哲也 ―雀聖と呼ばれた男」(原案:さいふうめい、漫画:星野泰視)。雀聖・阿佐田哲也こと色川武大の若き日をモチーフにした少年漫画だ。
戦後間もなく、焼跡の東京で賭け麻雀の世界に飛び込んだ若き哲也は、ベテランの玄人(バイニン)・房州と出会い、短くも濃密な師弟生活を送る。この房州のトレードマークが、常にくわえているタバコだ。
数年後、哲也は一人前の玄人となって、一度は決別した房州と再会する。すでに死病を患っていた房州は哲也との「最後の麻雀」の末、タバコをぽとりと落とし、眠るように死ぬ。直後、房州を侮辱した玄人・ドラ爆を、くわえタバコの哲也は、師が乗り移ったかのような強さで圧倒する――。
この対局の後、房州の魂を引き継いだかのように、哲也はタバコを手放さなくなる(物語中盤の修行の旅では、初心に帰るためかタバコを断つ)。「哲也」のタバコは、少年漫画的な「成長の証」、そして「師との絆」のシンボルとも読める。
なお最終回では作家となった哲也が「チェリー」を吸っているが、これは色川武大が実際に吸っていたタバコだとか。
「哭きの竜」が吸っているのは玄人好みの「峰」?
タバコで麻雀漫画、というと外すことができないのが、「麻雀飛翔伝 哭きの竜」(能條純一)。
主人公である無敵の雀士・竜は、とにかくタバコを手放さない。対局中も含め、常に右手にタバコをくゆらせており、牌を手にするときも、タバコを指に掛けたままだ。雨が降っていようが、大物ヤクザを前にしようが、刃物を突きつけられようが手放すことはない。
「死人のよう」と評される竜の手の中で、まるで人魂のように揺らめくタバコ。とにかく小難しい理屈抜きに、問答無用でビジュアル的に決まっている。連載当時は、雀荘で真似する人が続出したという。
銘柄は、玄人好みとして知られた「峰(みね)」とされる。現在、国内では一般に流通していないので、「あンた 背中が煤けてるぜ」を完全再現したければ、免税品店などを探してみよう。
タバコ以外何も食べない、飲まない「むこうぶち」
最後にもう一作、現在も「近代麻雀」で連載中の「むこうぶち」(漫画:天獅子悦也、協力:安藤満・ケネス徳田)。
主人公・傀(カイ)は、神出鬼没・正体不明・絶対無敵の麻雀打ちだ。どこからともなく賭け麻雀の場に現れては、「御無礼」の言葉とともに、相手を破滅するまで叩きのめして去っていく(ファンの一部からは「麻雀版笑ゥせぇるすまん」という評も)。
人間離れ、というより、文字通りの「人外」として描かれている傀は、作中で何も食べないし、何も飲まない。摂取するのはタバコだけだ(銘柄不明)。数少ない人間的な部分――というよりは、むしろその非人間的なミステリアスさ、そして(福本作品とは逆に)心理の「読めなさ」を演出する小道具として、タバコは描かれている。
とりあえず、麻雀を打ちに行って傀がタバコを吸っていたら、問答無用で逃げよう。
アカギや竜が禁煙する日が来るかも?
以上有名作品を中心に、麻雀漫画におけるタバコ描写を追ってみた(池袋の漫画喫茶に4日ほど通った)。
こうして見ると、いずれの作品でも、タバコは単に「雀荘だからタバコくらい吸ってるだろ」という扱いではなく、登場人物の心理やパーソナリティーを描く小道具として描かれ、作者それぞれの工夫が盛り込まれている。
一方、最近では競技麻雀を描いた「咲―saki―」のように、美少女キャラが主人公の作品も増えていて、麻雀漫画内でのタバコのプレゼンスは、小さくなっていることも事実。さらに現実で、雀荘の「禁煙」が進んだら――。
麻雀漫画の世界からもタバコの火が消え、アカギや竜が禁煙する日が本当に来るかも。