麻雀漫画の主人公たちは、どんなタバコを吸っているのか調査してみた【前編】
麻雀漫画の主人公はだいたいタバコを吸っている。
「身体に悪いから......」とか言って禁煙しちゃう赤木しげるや、「あ、この店禁煙か......」とタバコをしまう哭きの竜なんて、想像もつかない。
一方、現実では、飲食店などに「原則禁煙」を求める健康増進法の改正が、国会で議論されている。雀荘もその対象だ(業界団体は、客の喫煙率の高さや、喫煙室を設けるスペースの不足などを理由に、反対の声を上げているという)。
そんなニュースを見ていたところ、ふと気になった。
「麻雀漫画の主人公たちは、どんなタバコを吸っていたんだろう?」 「タバコは、麻雀漫画の中でどういう役割を果たしてきたんだろう?」
というわけで今回のJタウン探検隊では、「麻雀漫画」と「タバコ」の関係を調べてみた。
赤木しげるはハイライト→マルボロ
まずは、福本伸行作品から。最初に挙げるのはその代表作で、今も連載中の「アカギ」。孤高の博徒・赤木しげる(アカギ)の生き様を描く。
青年アカギが好んで吸うのは、「ハイライト」(1960年発売)。作中時点(1960年代半ば)には最新の人気製品だった。アカギ、意外と流行に敏感である。
その後、壮年期のアカギが登場する「天」では、「マルボロ」(日本では1973年発売)に乗り換えている。通夜編の問答中に吸っていたのはこちら。墓の前にも、ちゃんとマルボロがお供えされている。
アカギのタバコは、焦りとは無縁
アカギのタバコの吸い方は、一言でいえば「リラックス」。
愛煙家のアカギだが、原作(壮年期が描かれる「天」も含めて)では対局中にはほとんど吸う描写がない(逆に言うと、吸いながらの対局はアカギが「舐めプ」モードの時である。仲井戦や僧我との「9」など)。
対局前やその休憩中、そして一勝負終えた後に。一人で、あるいは気を許した相手を前に。焦りやいらだちとは無縁。紫煙をくゆらせながら、深く思索を巡らせる。
「苦渋は必至...! しかし... だからこそ アカギは飛び込みたい...! その業火に...!」(単行本16巻、10ページにわたる喫煙シーンでのモノローグ)
まさに自由人たる「アカギらしい」タバコの吸い方だ。
「苦い」タバコもしっかり描く福本作品
福本作品では、そんな「かっこいい」タバコだけではなく、「苦い」タバコも登場する。
麻雀漫画ではないが「カイジ」で、主人公の伊藤開司(カイジ)が吸うのは、だいたいこの口。ピンチに陥りながら、懸命に自分を落ち着けるように(「沼」編とか)、あるいは憂鬱な気分を紛らわすように、苦い顔でタバコを吸う場面が目立つ(銘柄はこちらも「マルボロ」)。
「天」通夜編で、無為な日々を送る井川ひろゆきの喫煙シーンも印象深い。麻雀の道を諦めてサラリーマンとなったひろゆきが、散らかった一人暮らしのアパートで、スーツ姿のまま「キャスター」をぽつんと吸う姿は、老け込みぶりと、その停滞がよくわかり、見ているこちらが悲しくなってくる。
「銀と金」蔵前麻雀での心理描写
こちらも麻雀漫画ではないが、同じ福本作品の「銀と金」に登場する、凄腕のフィクサー・平井銀二の吸い方はちょっと毛色が違う。
蔵前麻雀編、捨て身の大勝負で大富豪・蔵前仁を追い込んだ銀二たち。青ざめた表情で葉巻を手にする蔵前は、なんとか支払いを値切ろうとする。しかし銀二は即答せず、タバコ(別の場面から見るとマイルドセブン=現在のメビウス?)を吸って一拍置いてから、合計3000億円相当という条件を吹っ掛け、見事受け入れさせる。
銀二のタバコは、こちらの「余裕」を相手に見せつけるためのパフォーマンスだ。タバコひとつ吸うのも、相手との交渉の手管、精神戦なのだ。
このように、巧みにタバコを心理描写のアイテムとして使っているのが、福本作品の特徴だ。31日公開の後編では、他作者の麻雀漫画を取り上げたい。