「ケミカルライト(サイリウム)」の歴史は、こんなに壮大だった! 老舗・ルミカに聞く開発秘話
コンサートの客席で揺れるケミカルライト、通称サイリウムは、今やおなじみの光景だ。記者もライブでは何本も折り、腕が筋肉痛になるほど振ったことが何度もある。聴く、観るだけでなく、「参加する」――演者と会場が一体となれる、実にいいものだ。いいぞ。
でもこれ、いつごろから使われ始めたのだろうか?そもそも何のために開発されたのか?よく使うものなのにあまりにも無知すぎる......。それらの疑問を解消するべく、日本で古くからケミカルライト類を扱う「ルミカ」にお邪魔して取材をしてきた。
防災、軍用という説があるが...?
1979年に福岡県にて創業したルミカは、ケミカルライトの老舗企業だ。今回お邪魔したのは新木場にある東京支社で、木で覆われたデザインが特徴的な場所だ。
「ケミカルライトについて教えてほしい」というお願いを快諾し、質問に答えてくれたのがルミカの道脇和生さんと木村仁美さんだ。
始まりは防災用具、いや軍用品だったなど、様々な説がネットで語られるケミカルライトの開発は、1960年代にまで遡るという。道脇さんは、
「(ケミカルライトの)大本はアメリカのアポロ計画で発明されたものです。宇宙空間で安全な光を求められた際に、火や電気を使わずに使えるケミカルライトが発明されました」
と語り、契機となったのがアポロ計画であることを明かした。2種類の液体の化学反応で光る「化学発光」と呼ばれる技術は、宇宙での使用を目標に生まれたのだ。
そして、それにいち早く注目し、日本に取り入れたのがルミカの社長だった。
「ルミカの社長が『これは面白い』と注目し、この技術を応用した商品を何か作れないか、と開発したのが『ケミホタル』になります」
化学発光の技術をアメリカから輸入して釣り具に応用。79年に最初の商品となる「ケミホタル」を発売した。水中でも使える特性を活かし、夜釣りの際の目印となるアイテムだ。また、82年には、現在も見られるような化学発光によるケミカルライト類が、84年にはお祭りで今も見かける「光ブレスレット」の発売が始まった。
こうしてアウトドア用品として日本にやってきたケミカルライトだが、この段階ではコンサート会場とは結びついてはいなかった。
状況が大きく変わったのは1974年。ある1人の男性歌手のラジオでの呼びかけがきっかけとなった。
文化の始まりは74年
「客席から光るものを振る」という文化は、1974年の夏、西城秀樹さんのコンサートをきっかけとして始まった。
西城さんは、東京新聞の自身の連載「西城秀樹 ヒデキ!カンレキ!」にて、ケミカルライトがコンサート会場に定着していく様子を解説している。夜の公演だったため、前日のラジオで懐中電灯を持ってくるよう呼びかけたところ、多くのファンが持参した。懐中電灯やフィルムを巻いた豆電球はその後定番となり、80年代にはケミカルライトが公式のものとして売られ始めたのだという。
ただ、木村さんによると、現在のように観客が自前で用意して持ち込みというスタイルが広く浸透したのは2010年ごろ。メンバーそれぞれにイメージカラーのある大人数グループが人気を集め、多彩な色への需要が大きくなったことが契機だったと語った。
「イメージカラーが1人1人に振られ始めてから、ペンライト(ケミカルライト、LED式含む)のニーズが大きく増えました」
大規模ライブの際は在庫がなくなることも
西城秀樹さんやその後のアイドル、そしてAKB48などを経て、コンサート会場に定着したケミカルライトだが、その開発には混乱があったようだ。
道脇さんは、コンサートでの使用を前提に作った最初の製品である2007年発売の「大閃光」に関して、
「大閃光の特徴は、凄く明るく光る分発光時間が短いんです。最初は『ちょっとしか発光しないものでいいんだろうか』という声はありました。それまでアウトドアがメインだったので、コンサート市場で求められる商品のスペックがイメージ出来ませんでした」
と、当時のことを語った。それまでのアウトドア用とは反対の仕様が求められたため、若干の混乱があったという。
しかし、発売された「大閃光」は年間300万本以上を売り上げる大ヒットに。大規模なコンサートがある場合は、近隣店舗だけでなく、量販店や会社の倉庫からすらもなくなることがあるという。
また、色の研究も続いている。中にはイメージカラーが黒というアイドル・キャラクターが居ることに関して、
「黒の光はご要望が多いんですが、そもそも黒という色は光っていないので、中々難しいですね......」
と語った。中には本体を黒く塗りつぶして表現する人も居るという。ネットでは、青や紫を使うという意見も多く、企業・使用者ともにチャレンジが続けられている。ちなみにブラックライトは紫外線を使用しており、色としてはどちらかというと紫に近い。
多彩な色が求められた結果、シンプルな色から微妙な色までカバーできるようになり、最新の「ルミエース2オメガ」では24色を表現することが可能になった。
これからも、ペンライトはケミカル、LED問わず、コンサート会場で振られていくだろう。