このバス...入口は前?後ろ? 運賃は先払い?後払い? エリア別「バスの乗り方」ガイド
鉄道が発達していない地域にとって路線バスは住民の貴重な足だ。バス王国の福岡や東京のベッドタウンでの活躍は目覚ましく、朝は2~3分間隔で運行しているところも珍しくない。
東京は前乗り、大阪は後乗りが基本。他の地域は?
国交省の資料によると、2013年3月末現在で1992の路線バス会社がある。これに対して鉄道会社は約200。コミュニティバスの運行を受託する乗合タクシー会社なども含まれているとはいえ、ものすごい数だ。
これだけの事業者がいれば、路線によって乗車・降車、運賃支払いのルールが異なるのは当然だろう。大きく分けて、以下の5つのパターンがある。
以下の表は、車両保有台数の多いバス会社の傾向をまとめたもの。各社の公式サイトに掲載された情報を基にしている。
均一運賃が原則の東京都交通局(都営バス)・23区エリアは、「パターンA」。この方式は乗車時にICカードリーダーにタッチするだけで済む。現金払いであっても整理券は不要だ。
同じエリアを走る民営事業者もほぼパターンAで、名古屋市営バスと横浜市営バス、川崎市営バスもこの方式を採っている(一部路線を除く)。
距離運賃の路線や西日本は「後乗り・前降り・後払い」
ところが東京多摩地区を走る同じ都営バスは、乗・降車の位置および運賃支払いのタイミングが全て逆になる「パターンB」を採っている。
その理由は、距離(区間)に応じて運賃が変動するためだ。乗車時に整理券を受け取るか、ICカードを通す。降車時は料金表に従って運賃を支払うか、再度ICカードを通す。
大阪市営バスは都バス23区内と同じ均一運賃。それにもかかわらず後乗り・前降りを採用している(パターンC)。
同バスには乗り継ぎ制度があり、乗り換え時間が90分以内の場合、1回は無料となる。そこで降車時刻をICカードなどに記録しておかなくてはならないが、先払いでは不都合が生じる。
全国的に見ると、パターンBまたはパターンCのところが多い。
東の横綱「かなちゅう」は複雑なシステム
路線バスの西の横綱は西日本鉄道(西鉄バス)で、東の横綱は神奈川中央交通(かなちゅうバス)だ。
免許キロ2213キロ、年間輸送人員2億3261万人を誇るかなちゅうバスは、乗り方・支払い方法のシステムが複数ある。パターンA・Bのほか、「前乗り・後降り・申告先払い」(パターンD)や「前乗り・前降り・後払い」(パターンE)の路線もある。
不思議なのはパターンE。乗客の導線をスムーズにするため、車両の入口と出口を分けるのは常識。そこで大半のバス会社はパターンA~Dのいずれかを採用している。ドアが1つだけならともかく......。
パターンDも厄介だ。最初に乗客が運転士に行き先を申告し、運転士は運賃箱を操作して料金を設定する。それが終わったら乗客はICカードをタッチするか現金を投入する。降車は後方の扉から出る。運転士は都度、機械を操作しなくてはならず、忙しそうだ。
パターンD(申告先払い)はかなちゅうバスだけではない。東急バス、西武バス、京成バス、奈良交通などにも存在する。
西武バス公式サイトにアップされている説明が分かりやすいが、エリアまたは運賃ルールをまたいで運行する路線の場合、この方式が採用されることが多い。
ワンマンバスの歴史を作った大阪・東京・神奈川
最後に、こうしたバスの乗り方の差異が生まれた背景を紹介しておきたい。
日本の路線バスのほとんどはワンマン化されている。業界をリードしたのは大阪市営と東京都営、そしてかなちゅうバスだ。
社団法人日本バス協会の「バス事業百年史」によると、ワンマンバスを最初に始めたのは大阪市営で、1951年6月、阿倍野-今里間などで35台の運行でスタートした。乗客は前扉からの乗車時に運転士脇の料金箱に運賃を投入、後部扉から降車する方法が採られた。10月には京都市交通局と名古屋交通局、1952年5月に横浜交通局にも波及するが、運賃収受が簡単な均一区間に限られた。
全国に本格的に普及したのは1960年代。大阪市営は後扉から乗車し、運賃は降車時に支払う「運賃後払い」に移行している。
1962年10月、かなちゅうは距離別(他区間)運賃でのワンマン運行を開始した。乗客の乗車停留所を示す整理券を発行し、降車の運賃支払い時に、その整理券と運賃を合わせて収受するという方式が採られた。これによってワンマンバスは全国に急速に普及する。
東京都がワンマンバスの運行を始めたのは1965年。日本バス協会や車体工業会と連携しながら車両を開発したが、このとき試作されたのが「前乗り・後降り」のワンマンバス兼用車で、現在もこの方式が受け継がれている。