京都大学(Jun Seitaさん撮影、Flickrより) 京都大学の理念「自由の学風」、それを象徴するものとして有名なのが、いわゆる「コスプレ卒業式」だ。 毎年、少なからぬ卒業生が思い思いのコスプレ姿で会場に集まり、大学側も特にそれを咎めるでもなく、そのまま参加させてしまう。その「いかにも京大らしい」光景は毎年、テレビやネットでも話題になり、世間に笑いを提供している。たとえば2015年はというと―― 京都大学の卒業式におもしろい人達いたw TVの人がインタビューしてたwww pic.twitter.com/sRHBMk4GgO— kana (@kana23_kana) 2015, 3月 24 京大の卒業式にゴキブリいた pic.twitter.com/OiAEqvMxYX— やすこーち (@ys_coach) 2015, 3月 24 さすが京大だ pic.twitter.com/vQ1PcUCS37— ふじむら (@10_lupin) 2015, 3月 24 こんな感じだ。 「旧制三高以来の伝統」という説もあるが... いまや京大の「伝統」といわれ、多くの人がそれを疑いもしない「コスプレ卒業式」だが、1つの疑問がある。この恒例行事がいつから始まったのか、という点だ。 京大の「自由の学風」については、旧制三高設立以来の歴史があるといわれる。そのため、このコスプレ卒業式についても、三高の精神を引き継いだものと説明されることもある。実際、京大の学生寮では、当時からの「ストーム」などの文化が生き残っており、一見ありそうな話に見える。だが調べた限りでは、戦前にこうした行事が催された様子はない。 また、米スタンフォード大学の卒業式で伝統的に行われている仮装行列(Wacky Walk)などと比較する向きもあるが、こちらも直接の関係は見つからない。 新聞記事を調べたところ、意外な結果が 今度は、卒業式の様子を報じた新聞記事を調べてみた。まずは、2001年の紙面を見てみよう。 「会場には例年通り仮装した男子学生も現れたが、今年は十人の学生代表のうち女子学生が半数の五人を占めるなど、りりしい顔の女子大生の姿が目立った」(京都新聞、2001年3月26日夕刊) 2000年代初頭の時点で、すでに仮装(=コスプレ)が「例年通り」の光景になっていることがわかる。ところが、1990年代初頭の記事では、 「会場は真新しいスーツや振りそで姿が目立ち、...」(大阪読売新聞、1991年3月25日夕刊) 「式場は真新しいスーツや振りそで姿など華やかな雰囲気に包まれた」(大阪読売新聞、1992年3月24日夕刊) と、「仮装」を思わせる記述はない。80年代の記事でも、こうした動きは確認できなかった。 では――と、両者の中間、1990年代半ばの記事を確認した。 「今年も女装した学生が現れたり、壇上に駆け上がって井村裕夫学長と記念撮影をしたり、などユーモラスなパフォーマンスが目立った」(朝日新聞、1996年3月27日朝刊) 「この日も恒例のようになった卒業生の仮装パフォーマンスがあったが、井村学長は「卒業式は学生の甘えを捨てる時でもある。そのままで入社式に行くならそれでいいが、社会人としてのけじめを付けてほしい」と苦言を呈した」(沖縄タイムス、1997年3月26日朝刊) これを見ると、1996~97年ごろには、「仮装パフォーマンス」がある程度「お約束」となっていたことがうかがえる。一方で、総長がわざわざお小言を述べているところから見ると、比較的「新しい」習慣ではないか、という推測もできる。 「折田先生像」とも関係が? これらの記事の比較から、コスプレ卒業生の活動が「顕在化」したのは、上記の記事の中間である1993~95年ごろではないか、との仮説が成り立つ。 実は、これまた京大の「伝統」として知られる「折田先生像」についても、前身となるブロンズ像への落書きが相次ぐようになったのは1980年代後半から。そして1997年から、今のような「ハリボテ」の折田先生像が作られるようになった。ちょうど、「コスプレ卒業式」が盛んになり始めた時期と近い。 2008年の「折田先生像」(rhosoiさん撮影、Flickrより) 当時の在校生はこう語る では、90年代以前にはコスプレ卒業生は存在しなかったのか? そう決めつけるのは早計だろう。何もないところからいきなり「壇上に登る」というようなパフォーマンスが容認されたとは考えづらい。記事には登場しないまでも、少なくとも90年代初頭の時点でコスプレ卒業生は会場にいたのではないか。 Q&Aサイトには、1980年代に在学していたと思われる人物からのこんな証言がある。 「私は元京大生ですが、20年以上前(編注:投稿は2009年)からの伝統としてあるのは事実です。ただ正直言ってあの感覚にはついていけませんでした。 いつからかはわかりませんが、おそらく学生紛争が終わって80年代あたりから着ぐるみ(パンダなど)を着た人が出てきたのだと思います」 結論:80年代に始まり、90年代半ばに定着? 以上をまとめると、 1980年代ごろから、一部の学生が卒業式でコスプレを始める 1990年代半ばには壇上にも出現するなど、「習慣」として定着 2000年代には完全に「伝統」となり、さらに多くの学生がコスプレをするように といった歴史が想定できる。 上記の元京大生の投稿者も指摘するように、80年代は(京大では比較的長く引きずられた)学生運動の余熱もすっかり冷めた時期だ。その代わりとなるエネルギーの矛先として、以前からの理念である「自由の学風」が学生たちの間でクローズアップされ、折田先生像やコスプレ卒業式といったパフォーマンスが盛んになっていった――という分析も可能だろう。 (本件、当時の事情を知る方などおられましたらご教示ください。引き続き調査を行いたいと思っております)