燃える雛人形、女神輿は弾み、ブラジャーが奉納される! 和歌山市「淡嶋神社の雛流し」
全国のちょっと変わったお祭りをご紹介するこのコーナー、前回の予告で秋田の「なまはげ柴灯祭り」をご紹介すると書きましたが、申し訳ありません! 諸般の事情で取材に行くことができませんでした。
代わりといってはなんですが、もうすぐ3月3日ということで、和歌山県にある淡嶋神社の「雛流し」をご紹介しましょう。
絵馬と一緒にパンティやブラジャーを奉納
場所は和歌山市内の加太という地区。JR和歌山市駅から南海加太線に乗り換えて、終点の加太駅で下車。カモメの鳴き声を聞きながら、「あわしまみち」の道標に従って15分ほど歩いていると......着きました。
一見すると、のどかな田舎の港町にある普通の神社です。
ですが、境内には招き猫やら木彫りの熊やら七福神やら信楽の狸やら古墳土器っぽいのやら、そして大量の日本人形やら......。
実はこの淡嶋神社は人形供養の神社として有名で、毎年3月3日のひな祭りには、全国から寄せられた雛人形を白木の舟に乗せ、海に流し、清め、供養するイベント「雛流し」が行われるのです。
加えて安産、子授け、婦人病治癒のご利益もあり、コンセイサマ(男根像)が鎮座する社には、願掛けの絵馬とともに、おパンティーやおブラジャーが一緒に奉納されています。ワーオ!
ちなみに神社には、非公開ですが、心霊番組などでよく取り挙げられる「髪が勝手に伸びる人形」も保管されているようです。バチがあたりますので、奉納されているおパンやおブラは絶対に持って帰らないように!
船の神輿を担ぐのは全員女性
さて、肝心の「雛流し」は正午より始まります。本殿には隙間がないほどギュウギュウに雛人形が並ばれていて、その前でまず修祓の儀(清めのお祓い)、神饌の儀(お供え物を神に捧げる)など「雛納祭」を行います。
次に神官の格好をした少年が巫女さんから紙の形代(かたしろ)を受け取り、3隻ある舟の中に収めていき、それが終わると少年神官は「お雛様です!」「お内裏さまです!」と元気良く雛人形を1体1体高らかに掲げ、巫女さんとともに1体1体丁寧に、それぞれの船に乗せていきます。
3隻の船が雛人形でいっぱいになると、いよいよ!
さきほどの少年神官が巫女さんを従えて、ゆっくりと階段を下りていき、その後ろには雛人形で満杯になった3隻の船が続きますが......
その船を担いでいるのは、み~んなナオンじゃないですかー!
まさに、女性の女性による女性のための雛流し!
彼女たちは一般公募の女性たちで、女性であれば希望すれば担ぐことができるそうです。
一団は神社の鳥居をくぐると左に折れ、一路300メートル離れた海岸へ。途中休憩をはさみつつも、厳かに運ばれています。
大海原へ向かった人形たちの本当の末路は
こうして30分ほどかけて目的の海岸に到着。すると、そこで待ち構えていた園児たちによる「明かりをつけましょぼんぼりに~」の大合唱がスタート。
それが終わると、3隻の船は慎重に桟橋にスタンバイ。大人の神官が粛々と祝詞をあげ、巫女たちがパラリと紙吹雪を蒔いた後、船はサポート役の男性に支えられて、ついに大海へと出航します。
お雛様、さようなら。これが今生の別れになってしまうのね。
「わが子の成長を見守ってくれてありがとう」
「今まで健康でいられたのは、お雛さまのおかげです」
「ずっと押入れにしまっていてごめんね」
見物している女性たちの胸に様々な思いが去来するなか、雛人形を乗せた船は小船に曳航されて、ゆっくりと、ゆっくりと大海原へと消えていきました......。
と思いきや、実は船は淡嶋神社近くの海岸まで戻ってきておりました。そしてガソリンだか灯油だかをぶっかけて、船ごと燃やして供養! これがいわゆる最終フィナーレ「焼納」ってヤツです。
それにしても、お雛様のお顔が熱で溶けて油分がにじんでいく様子は、まるでポロリと涙を流しているかのようで、見ていて切なくなってしまいました。どうか安らかにお休みくださいませ。
さて次回も、とっておきのお祭りをご紹介します!
【淡嶋神社の雛流し】
日時:毎年3月3日
時間:正午すぎ~14時過ぎまで
場所:和歌山県和歌山市加太118(淡嶋神社)
今回の筆者:織江賢治(おりえ・けんじ)
1975年愛知県生まれ、茨城県在住。出版社勤務を経て現在フリーの編集者・ライターとして活動。雑誌やムックを中心に執筆や編集を行う。プライベートで全国の鉄道の駅とその周辺を歩く「駅鉄活動」をライフワークとし、それが高じて各地の祭りや風習、珍スポット探検なども行っている。今までに行った祭りは200以上。【バックナンバー】
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