都内に大量出現、「謎の矢印」を追いかけてみた
東京都内で、奇妙な「落書き」が目撃されている。
道路上に数メートルおきでチョークで書かれた「矢印」、「CB」など暗号めいた英語、これらが四ツ谷駅界隈を中心に、かなり広範囲に点在しているのだ。

道路工事用の目印? 犯罪組織の符号? ただのイタズラ? まさか宇宙人からのメッセージか?――その正体を知るべく、記者はこの「謎の矢印」をたどってみることにした。
謎の矢印に導かれて...
1月27日夜、仕事帰りに市ヶ谷駅を通りがかった記者は、駅前の歩道の縁石に「矢印」があることに気付いた。チョークだろうか。かなり濃く描かれている。
なんだろう、とその指す先に目線をやると、数メートル離れてまた矢印が。さらにその先に矢印、そしてまた矢印――と、矢印は駅前を離れ、どんどん裏手の夜道へと。
飲食店の客引きだろうか、それとも子供の落書きだろうか、と思いつつ、面白半分でその矢印をたどってみた。2、3分も歩けば正体もわかるだろう、と考えていたが、どっこい矢印は駅前の喧騒を離れ、先へ先へと続いていく。道も表通りを逸れ、公園など外れの方へ外れの方へと導かれていく。
もしかすると何かの罠ではないだろうか、あるいは狐に化かされているのではないか――不安に駆られながら、タバコを吸う酔っ払い、ささやきあうカップル、暗闇の中、そうした人々の脇をすり抜けていくと、あっという間に四ツ谷駅まで出ていた。近いとはいえ、一駅まるまる歩いてしまった格好だ。
さてどうしたものか。と思うが、矢印はさらに続いている。どうにも正体が気になり、「追跡」を続行することにした。

路上には矢印以外にも何種類かの記号が描かれていることに気が付いた。
「CB」「ON2」といった暗号めいたものから、円の中に「×」が描かれた記号、あるいは「GO THRU(Through)」などの直接的なメッセージ、また中には、誰かの似顔絵らしきイラストまである。
その意味に首をかしげつつ、麹町や永田町近辺、半蔵門方面とあちこちの路地をぐるぐるとさまよい続け、気が付けば1時間半近くが過ぎていた。
飲食店も閉まり始めている。最初はちょっとした好奇心だったが、このころにはもはや意地だけで足を動かす状態に。そうこうしているうちに、矢印が指し示す「ゴール」は突然目前に現れた(場所は伏せる)。
「FINISH」
と、ただそれだけ書いてある。特に誰かが待っているわけでも、それ以上のメッセージがあるわけでもない。別にそれほど期待していたわけでもなかったが、どっと押し寄せる疲れに、その日はよろよろと家路についた。

とはいえ、正体がわからないままではどうにもおさまりが悪い。翌日、昼休みを使い、今度は前夜の「スタート地点」である市ヶ谷から矢印を逆にたどってみたが、やはり1時間余り路地を歩き回るばかりで、答えは得られないままだった。
ついにわかった正体
編集部に戻って周囲に尋ねてみたところ、計3時間近くもほっつき歩いていたことに呆れられつつ、
「以前、似たようなものを見たことがある」
「マラソンか何かのコースでは?」
との指摘を受けた。なるほど――とその方向で調べてみたところ、実はこの矢印、「ハッシュハウスハリアーズ(ハッシュ、HHH)」という一種のオリエンテーリングのためのものだということがわかった。
1938年からの長い歴史を持ち、世界各地に愛好者の集まりがあるという国際的なものだ。事前に担当者がチョークなどを使って道路上にコースを指定し、参加者たちはそれを追いながらランニングを行う。途中にはダミーのルートもあり、仲間たちとともに正解のコースを見つけ出すのが醍醐味だという(記者はそのダミーに延々はまっていたらしい)。ゴール後はみんなでビールを飲むのが慣習で、むしろそちらの方が主目的らしい。
スクープかと思った「謎の矢印」だが、結局記者の一人相撲だったようだ。