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ガードレールの向こうに、不思議な神社を見た話【ささや怪談】

前田雄大

前田雄大

2016.04.08 20:00
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「こわい話というより、不思議だったことなんだけど」
   前回お話を伺ったセイさんから、こんな話を聞いた。

   彼女が、日帰りのバス旅行で、北の方面に行った時の事だ。
   夕日が沈みつつあり、空が本格的に暗くなった頃。
   彼女が乗ったバスは、山沿いの高速道路を走っていた。
   ところが、バスは途中で、渋滞に巻き込まれてしまった。しょうがないから、なんとなしに車窓を眺めていると、小さな神社が見えた。
   いきなり、視野にポッと現れたようだった。 バスを降りて、ガードレールを乗り越えたら、すぐに着きそうな距離だ。
「今でもはっきり覚えてる。それとね......」

   ガードレールの向こう側には、鎮守の森が広がっていた。
   静かな木々が、そっと佇んでいる。
   その中央を、石段がまっすぐに伸びていた。真ん中まで行くと踊り場があって、そこからまた石段が続いていた。
   すべての石段は、蜜柑色の灯りで彩られていた。
   その頂上には、お宮さんがあった。
「神社のことをね、私たちの世代はそう呼ぶの」
   だが、鳥居は見当たらない。
   小さな社が、ひとつあるだけ。

   社の周りには、紅提灯が、木々の枝からいくつも釣り下がっていた。
「お祭りでもやっているのかなぁって、その時は思ったわ」
   心が幸せになるような、優しい景色だったという。
「もういちど、見てみたいの」
「それから、どうなったんです」
「何にも。それきりよ」
   バスは、再び走り出した。
   神社との遭遇は、二分ほどで終わった。
   セイさんは、話を続ける。
「明かりがね、蝋燭だったのよ」
   神社の付近には、電線も電灯も電柱も無かった。
「あったかい光だったのよ。華やいだ感じで、ほわぁんとして。でも、わざわざ、一段ごとに蝋燭を灯す意味が、あったのかな。ちょっと疑問ね」
   左右両サイドに、きっちりとだった。
   そして、お祭りだったとしても、人っ子ひとり見かけなかった。
「そういうことも、あるかもしれませんね」
   そんな言葉を使う人は、心の中では別の事を考えていることがある。
   彼女は、続けた。
「......小さかったのよ」
   石段の横幅は、人がひとり歩くのもやっとのサイズだった。 社も、ミニチュアのように小さかった。
   彼女は、身振り手振りで、幅を伝えてくれた。このサイズがほんとうに正しければ、子供が通るぐらいが精一杯である。
「子供向けの神社だったとか」
   そんな神社が、本当にあるものか。
   だいたい、高速道路に車を止めて、ガードレールを乗り越えないと参拝できない神社なんて、わたしは知らない。
「どうかしら。それだけなんだけど」
   彼女は、ひととおり話し終えると、団子を焼き始めた。
   わたしが知らないだけで、不思議なことは、あちこちで起きているのかもしれない。
   まだ、何も知らないだけで。
   セイさんが、ぽつりと言った。
「もし、あの神社を見た人がいたら、あれがなんだったのか教えてほしいわ」

photo by ogajud, from Flickr
201210200105

   わたしは、もうひとつの「光」にまつわる話を聞くことができた。
   またいずれ。

kuroihako.jpg

筆者:前田雄大

怪談団体「クロイ匣(ハコ)」の主宰者。関西を中心として、マイペースに怪談活動を行っている。https://twitter.com/kaidan_night