「ゆうれい寿司」「パラボラッチョ」「しばられたピラミッド」 あの名監督を育んだ「ふしぎの街の宇部」探訪記
あの大人気作品「エヴァンゲリオン」シリーズを生んだ庵野秀明監督――を生んだ街・山口県宇部市。
「そんな街の魅力を紹介してほしい」と移住定住推進課の担当者に依頼されたJタウンネット記者は現地を訪れた。
......のだが、記者の前に広がったのは、現実とは思えない光景の数々。ここは、一体――!?
いまから皆さんにお読みいただくのは、記者が見たありのままを記録した「ふしぎの街の宇部」探索レポートである。
しばられたピラミッド、謎の三人衆、怪しく光る銀色の...
羽田空港から山口宇部空港までは90分足らず。さらに空港から街の中心部へは、車で10分ほどと、アクセスは超便利。市役所周辺を探索しはじめた途端、あちらこちらにおかしなものがいっぱい"居る"のを発見した。
石のベンチに、枕のようなものがくっついている。しかも、中に空いた穴から、大きく口をあけた人の顔が覗いている。エッ、閉じ込められてる!?
「助けて~!」なんて叫び声が追ってくるような気分で少し進むと、今度はコレが。
腕が時計の振り子みたいになった......人? 内側がくぼんでいて、大きなワインボトルケースみたい。
――と、こんな感じで宇部の街はあっちを見てもこっちを見ても「ふしぎな彫刻」だらけ(ちなみに、人入り枕のベンチは「アルウィン・ニコライの陽-<眩驚>」(土田隆生)、振り子腕ボトルケースの人は「王と王妃」(原案:片山利弘)である)。
彼らは特にJR宇部新川駅~市役所を結ぶ平和通り(シンボルロード)や中心部を流れる真締川の両岸に密集していて......。
巨大な「おにぎり」のような「しばられたピラミッド」(速水史朗)に......
周囲の景色を取り込む「SEED 増殖」(伊藤憲太郎)に......
街の中でブロンズ像に出会うことはよくあるが、それとはまた違う。ごく当たり前のように、見たことないほどたくさんの"ふしぎな彫刻"が存在している。
その風景の中にいると、普段とは違う世界に迷い込んでしまったみたいな気持ちになる。
あんまり彫刻だらけなもんだから、何でもないモノまで彫刻に見えてくる始末だった。
「あの槍」が馴染んじゃうほどふしぎな風景
市役所周辺だけでなく、人気観光スポットである「ときわ公園」でも、多種多様な"ふしぎな彫刻"が記者を待っていた。
記者が訪れた12月上旬の宇部市は「まちじゅうエヴァンゲリオン」という企画中で、あの「ロンギヌスの槍」も見ることができた。
市近郊の鉄スクラップを再利用し、地元企業・宇部スチールが作った巨大レプリカ(全長7メートル)らしい。
公園に「ロンギヌスの槍」が突き刺さっているなんて異様――であるハズなのだが、周りにも摩訶不思議な彫刻たちが並んでいるため、かなり馴染んで見えた。
槍を挟んで、ふしぎな"何か"が勃発していたし......。
※ときわ公園内の彫刻の配置については取材時のもの。取材後、移設等が行われた作品もある。
ふしぎバナナ、ふしぎ犬、ふしぎ蝉
なぜこの街には、ふしぎな彫刻が山ほどあるのか? それは、1961年から2年に1度「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」が開催されているから。出展された作品が街の至るところに移設展示され、ふしぎな光景を生み出しているのである。
その数、なんと約200点。これだけあれば、のどかな公園の坂道を登っていった先の、見晴らしのいい広場に超巨大なふしぎバナナがぽつんと置かれていたりもする。
街を車で走っていると、巨大な犬の首が視界に飛び込んでくることもある。
デカいセミの抜け殻も唐突に現れる。
こんなに"ふしぎ"な風景なのに、地元民たちは別にいちいち反応なんてしない。もはや見慣れた「日常」だからだ。
それがまた、初めて宇部を訪れた記者の目には"ふしぎ"に映った。
異世界トリップした気分
宇部の"ふしぎ"なところは、彫刻だけではない。
UBEビエンナーレの会場でもあるときわ公園内には、植物館や動物園もあり、ここも、また......。
ときわミュージアム「世界を旅する植物館」は、「世界を旅し、感動する植物館」がコンセプト。「熱帯アメリカゾーン」「アフリカゾーン」「中国・アジアゾーン」など、地域別に8つのゾーンに分けられている。
特徴的なのは、植物の近さ。訪れた人々の目に近い場所に花などが来るように意識して展示されているそうだ。おかげで「展示を見る」というよりも「植物が生息している場所に入っていく」という感じ。
そんな館内には、世界のふしぎな植物がいっぱい。中でも気になったのが、コイツだ。
異世界の生き物みたいなこの木は、アルゼンチンからやってきた「パラボラッチョ」。名前までキャラクターみたいで可愛らしい。今にも歩き出しそうだ!
フォルムがまんまるなのは、乾季を乗り切るために雨季の間に幹の中に水を蓄えるかららしい。
すぐ近くの「ときわ動物園」はサル中心の動物園。全13種類というバラエティ豊かなサルたちを超間近で見ることができる。
「シロテテナガザル」は中には檻のない島で飼育されていたし、「ボンネットモンキー」はコツメカワウソと、「ジェフロイクモザル」はカピバラと、それぞれ違う種類の動物と同居。まるで野生で暮らしているかのように活き活きしていて、こっちがサルたちの生息地にワープしたのかと思うほどだった。
真っ白なおすし!?
ふしぎな宇部グルメも発見した。
コメと水が美味しいことで知られる吉部地区(旧楠町エリア)の郷土料理「ゆうれい寿司」だ。名前も不思議だが、特にふしぎなのはその見た目!
真っ白なのだ!
ご飯だけで、お寿司なの? いやいや、まさかそんなワケはない。
ゆうれい寿司を持ち上げると、鮮やかな具がチラリ。柚子酢と砂糖で味付けをしたご飯で、地元の野菜や山菜を挟んでいるのだ。
古くから伝わる料理だが、後継者不足により存続が危ぶまれている。ゲットするのもちょっと難しいのだが......記者が訪れた時期はちょうど、2024年1月8日まで販売されていたエヴァコラボ「ゆうれい寿司」があったため、運よく買うことができた。
エヴァコラボゆうれい寿司を作っていたのは、創業130年の老舗仕出し料理屋の「柳屋」。
同店の美澄正和代表いわく、ゆうれい寿司は昔から地元の家庭では「普通に食べていたもの」だが、その起源には謎が多い。
酢飯で日持ちがするし、「ゆうれい」という名前もついているから夏に生まれたという人もいれば、柚子酢を使うから冬に生まれたという説もあるらしい。何だか、その存在自体も掴みどころがなくて、「幽霊」のようだ......。
なお、ゆうれい寿司(※エヴァとコラボしていない)は、市内の温泉複合施設「楠こもれびの郷」では月2回、第2・第4土曜日に直売所にて数量限定販売されている。
ふしぎ彫刻の大群に、ふしぎ植物、ふしぎグルメ。「なんだこれ~!?」と笑っているうちに、1日が終わった。
この旅を経て、分かったこと。それは「宇部はふしぎの街だった」ということである。
いったい、この街は、なんなのだろう。どうしてこんなに不思議で、愉快なのだろう。その実態をつかむためには、何度も何度も街を訪れ、追加調査をする必要がある。
冒頭で記者に「この街の魅力を紹介してほしい」と依頼してきた移住定住推進課の担当者によれば、「超濃密なグルメ」や「超濃密な神社」など、宇部には他にも多くの「ふしぎ」があるらしい。
そう、今回は「第壱次中間報告」に過ぎない。報告すべきものがまだまだたくさん残っているのだ。
記事を読んだ皆さん! どうか記者と「ふしぎの街の宇部調査隊」を結成してほしい。そして、ふしぎの街の謎を解き明かす旅に出ようじゃないか!
<企画編集・Jタウンネット>