「上手く首吊りできない妊婦に、通りすがりの男が手本を披露。すると赤ちゃんが生まれて...」 神社に伝わる「松の逸話」が謎すぎる件
「逸話が意味不明で怖い」
そんな呟きが添えられた次のような写真が、2022年8月14日、ツイッターに投稿され、話題となっている。
山形県酒田市の妙法寺にある「子産せ(こなさせ)の松」についての逸話が、ツイッターユーザーの関心を引き寄せているのだ。案内板にはこう書かれている。
「その昔、生活に疲れ果て思い余った若い妊婦がこの松で首をつって死のうと試みた。しかし、なかなか死ぬことができず思案に暮れていた。
そこへ通りかかった油売りの男がその様子を見て、思いとどまらせようともせず、かえって首の吊り方の要領を教え始め、遂には自ら首を吊って見せた。
それを見て驚いた女性は、急に産気づき、玉のような赤ん坊が安々と生まれ、元気な産声をあげていたという。
この事から、松は『子産せの松』と呼ばれ、安産の神が宿る松として崇められるようになった」(妙法寺「子産せの松」案内板より)
――確かに、意味不明で怖い。
この写真を投稿したのは、「平田朋義」(@tomo3141592653)さん。ツイートには9万2000件を超える「いいね」が付けられ、今も拡散中(8月18日現在)。ツイッター上ではこんな声も寄せられている。
「ネタかと思うほどカオスな話ですね」
「ホラー過ぎる」
「『思いとどめようともせず、かえって』という批評的な一節が、わけのわからなさを補強してまるでドリフのコントのようにも思えます」
Jタウンネット記者は投稿者の「平田朋義」さんと、酒田市の妙法寺に話を聞いてみた。
油売りは松の精霊だった?
投稿者の平田さんが看板を撮影したのは、8月14日のこと。Googleマップで「子産せの松」を見つけて気になり、足を運んだという。
「近代的な物語の構造になってない遠野物語みたいな生の民話で、たぶん実際にあったことなんだろうなと思いました」
と平田さんは語る。
この逸話、いったい何なのだろう。Jタウンネット記者が酒田市の妙法寺に電話すると、住職が答えてくれた。
「松の精霊が、油売りの男に姿を変え、女性と生まれてくる子供の生命を救った、という話ではないかと思います。この松のおかげで、生命が助かった、救われた、安産だったということで、『子産せの松』と呼ばれるようになったと伝えられています」(妙法寺住職)
......なるほど? それなら納得できるかもしれない。
石川からやってきた「子産せの松」
ちなみに妙法寺は、日盛上人によって1467年に建立された法華宗の寺院だ。当時は酒田より北の飽海郡の海岸に近い場所にあったが、1689年に現在地に場所を移したという。
酒田は北前船寄港地として繁栄を極めた、日本海沿岸きっての交易の拠点だ。豪商たちの尽力で全国から松などを運び、海岸に植樹して砂防林としたらしい。「子産せの松」も能登の国(石川県)から取り寄せられたものだと言われている。
ところでツイッターの反応の中には、上方落語の演目「ふたなり」に似ているという指摘もあった。もっとも、こちらは松の精霊ではなく「首吊りの方法を教えようとしたら自分が死んでしまったうっかり者と、それを見て死ぬ気をなくした妊婦」の話であるが......。
しかし、北前船交易の中で、この逸話も姿を変えつつ伝搬してきたのかも......、とJタウンネット記者が言うと、妙法寺住職からは一笑に付されてしまった。
「松のおかげで、生命が助かった、という庶民の中から生まれた、素朴な逸話、ということでよろしいのではないでしょうか」(妙法寺住職)
切羽詰まったときに助けてくれる「いのちの電話」的存在、それが「子産せの松」。たしかにそれはそれで良いのかもしれない。