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福知山市公式アニメ「転生したら鬼退治を命じられました」に反響 退治された「酒呑童子」の正体とは

松葉 純一

松葉 純一

2022.02.01 20:00
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『鬼滅の刃』をきっかけに始まった鬼ブームはまだまだ続いているようだ。そんな中、とあるWEB動画が公開され、話題となっている。

タイトルは『転生したら鬼退治を命じられました』。京都府福知山市が、同市に伝わる「大江山鬼伝説」をアニメコンテンツとして制作した。アニメ『鬼滅の刃』に鬼殺隊の「音柱」宇髄天元役で出演した声優の小西克幸さんと、「両声類」声優の奇跡さんを起用していることでも、注目を集めている。

画像はプレスリリースより
画像はプレスリリースより

全24話、すべて予告編風のアニメで、ストーリーはごく普通の会社員がある日階段から落ちると、「源頼光」になっていたという、昨今ありがちな転生もの。頼光はいきなり「鬼退治」を命じられ、周りの屈強な武士たち(四天王)からも勇気づけられ、戸惑いながらも、結局「鬼退治」に出かける。いったいどんな鬼退治になることやら......?

酒呑童子(福知山市WEB動画『転生したら鬼退治を命じられました』より)
酒呑童子(福知山市WEB動画『転生したら鬼退治を命じられました』より)

動画には他にも様々な流行りの要素が詰め込まれ見所満載だが、そもそも、題材となった大江山の物語とは、どんなものなのだろう。

Jタウンネット記者は、福知山市に取材した。

源頼光と「頼光四天王」とは?

WEB動画『転生したら鬼退治を命じられました』の下敷きとなっているのは、「酒呑童子絵巻」だという。福知山市にある「日本の鬼の交流博物館」に所蔵され、現在公開されているそうだ。「酒呑童子絵巻」とはいったいどんなものなのか?

Jタウンネット記者の取材に応じたのは、福知山市文化スポーツ振興課文化財保護係の担当者だった。

日本の鬼の交流博物館(福知山市プレスリリースより)
日本の鬼の交流博物館(福知山市プレスリリースより)

――「酒呑童子絵巻」は、いつごろ、誰が描いたものでしょうか?

「『酒呑童子絵巻下巻(全三巻)』の奥書には、落款と共に『英一蝶六十歳の画(はなぶさいっちょうろくじゅっさいのが)』と書かれていますが、伝本か又は本人の原本なのか。その真偽は不明です。描かれた年代につきましては、江戸時代中期~後期とされています」(文化財保護係担当者)

文化財保護係担当者は、「酒呑童子絵巻」に登場する主な人物を解説してくれた。討伐部隊となるのは、次の武士たちだ。

「酒呑童子絵巻上巻」より(画像提供:「日本の鬼の交流博物館」)
「酒呑童子絵巻上巻」より(画像提供:「日本の鬼の交流博物館」)
源頼光(みなもとのよりみつ)...
「平安時代の武将で、清和源氏の三代目。鬼退治、土蜘蛛退治など武勇たぐいなき名称と描かれるが、資料的には実際に明確な武略を裏付けるものは殆ど見られず、都に合って摂関家の警護役を果たしつつ国司を歴任し、貴族としての生活に慣れ親しんだものと思われます。絵巻や浮世絵では、衣装に源氏の代表的な笹竜胆の模様が描かれていることが多く、見分けることが比較的容易です」
藤原保昌(ふじわらのやすまさ)...
「平安時代中期の貴族で、各地の国司を歴任。丹後守としても、和歌で有名な和泉式部と共に国府宮津へ赴任しました。平家の出身ではありませんが、武勇に優れていることで知られており、『酒呑童子伝説』のほか『今昔物語集』の盗賊袴を恐れさせた説話が有名です。頼光四天王には含まれず、頼光と同等の立場として物語には登場しているようです」
渡辺綱(わたなべのつな)...
「平安時代中期の武将で源頼光に仕え頼光四天王の筆頭として知られています。豪勇で知られ、酒呑童子退治の他、一条戻り橋(若しくは羅生門)で鬼の腕を斬り落とした説話が有名です。鬼博所蔵の『酒呑童子絵巻』では綱が羅生門の鬼(茨木童子)の腕を斬り落とす場面が描かれたのち、酒呑童子物語が始まります」
坂田金時(さかたのきんとき)...
「頼光四天王の一人で伝説上の人物とされます。幼名金太郎の名で有名。山姥に育てられたのち、足柄峠で頼光に見いだされ、後に酒呑童子退治に参加したとされます」
碓井貞光(うすいさだみつ)...
「頼光四天王の一人。今昔物語に登場する『平貞道』と同一人物とされます」
卜部末武(うらべのすえたけ)...
「頼光四天王の一人。今昔物語に登場する『平季武』は同一人物とされます」
「酒呑童子絵巻中巻」より(画像提供:「日本の鬼の交流博物館」)
「酒呑童子絵巻中巻」より(画像提供:「日本の鬼の交流博物館」)

一方、酒呑童子側として登場するのは......。

酒呑童子...
「酒顛、酒呑、酒天、酒典など、表記は様々あります。酒が好である点から御伽草紙で使用された『酒呑』が一般的に知られるようになりました。通力自在の悪鬼として諸国を遍歴のち大江山に至ります」
茨木童子...
「酒呑童子の家来。京都一条戻り橋(若しくは羅生門)では渡辺綱とわたりあい、腕を斬り落とされるが、綱の伯母に化けてまんまと腕を取り返します。福知山市にある鬼ヶ城は茨木童子が棲んだ城だと伝わります」

なんとも一癖も二癖もあるキャラクターばかりではないか。

酒呑童子(鬼)=「疫病」説も?

「酒呑童子絵巻下巻」より(画像提供:「日本の鬼の交流博物館」)
「酒呑童子絵巻下巻」より(画像提供:「日本の鬼の交流博物館」)

酒呑童子(鬼)とは、何者だったのか? という問いには、こんな答えが返ってきた。

「日本の鬼の交流博物館の酒呑童子絵巻には詞書がありませんので定かではありませんが、一般的に知られている酒呑童子物語の元となった渋川版『御伽草紙』をはじめ、ほとんどが酒呑童子の出自を越後としています。酒呑童子が何者かについては様々な説がありますので何点かご紹介させていただきます」(文化財保護係担当者)

以下は、その説の紹介だ。

●修験者説......修験道は、山岳での修行によって体得した超自然的な力を駆使する呪術的な宗教。酒呑童子の生い立ちで、元々の棲み処である比叡山を追われ転々とする山々がすべて修験の霊峰である点、頼光達が酒呑童子を欺くために山伏に扮している点。千丈ヶ嶽は『禅定』(山頂で修業し悟りを開く)からきているのではないか等
●疫病神説......酒呑童子物語現存最古の逸翁本『大江山絵詞』では鬼退治の発端の日を正暦年間中と、具体的に示している点から、994(正暦5)年に流行した疫病が物語の形成に何らかの形で反映されているのではないか。という説。(この時に猛威を振るった疫病は天然痘で外国から九州と、西から都へと入ってきており、山陰道から入ってきました。)その他酒呑童子の姿が朱紅色で描かれている点は疱瘡をイメージしているのではないか等
●鉱山労働者説......全国各地の鬼ヶ城という名の山にはほとんどといっていいほど鉱山がある点、『鬼に金棒』というように鬼には鉄がつきもので、酒呑童子の棲み処は鉄の築地に鉄の門である点。タタラで鉄を取る仕事は山の乱開発であり、鉱害や山荒れは鬼の仕業ではないかと考えられたのではないか、また、灼熱に焼け爛れたタタラ師の顔は鬼に見えたのではないか...等
(文化財保護係担当者)

カラフルな鎧が可愛らしい

源頼光のアクリルスタンド(画像提供:福知山市)
源頼光のアクリルスタンド(画像提供:福知山市)

「酒呑童子絵巻」を、日本の鬼の交流博物館で見学する際に、注目してほしいポイントは何だろう?

「首を斬られた酒呑童子が頼光の兜に噛みつく場面はやはり物語の有名な見せ場なので見ていただきたいのですが、少し視点を変えて注目してほしいポイントは軍議場面でしょうか(絵巻の上巻展示の際に見ることができる場面です)。
酒呑童子を退治するために、お詣りを済ませて軍議を行う頼光たちの背景にショッピングモールのようにずらっと並ぶカラフルな鎧が可愛らしいです。頼光の鎧は他に比べて豪華ですね。
この絵巻の登場人物は、皆似たような顔をしているので、衣装で見分けているのですが、この軍議場面で(ぞれぞれの)人物がどんな山伏衣装を着て退治の際にはどのような鎧を着るのかが分かります。人物が分かると物語が一気に面白くなります。
例えば、大江山の崖を登る際中に後ろから登ってくる貞光を引っ張り上げる人物は同じ四天王ではなく藤原保昌...など。鬼博所蔵の『酒呑童子絵巻』は詞書が無い分、自由に想像して見られるところが面白いと思います」(文化財保護係担当者)

またWEB動画については、「酒呑童子絵巻を流行りの転生モノと掛け合わせ、SNSで視聴される動画のスタイルに合わせた全24話×15秒の予告編風アニメに仕上げたことで、令和の時代に即したWEB動画が完成しました。酒呑童子物語の新たな受容変遷の1ページとしても面白いものになったと思います」と語った。

YouTubeでは1~24話をまとめた「総集篇」も公開されている。

なお福知山市では2月2日(02/02)を「鬼鬼の日」(おにおにのひ)として、鬼づくしのプロモーションを展開する予定。「日本の鬼の交流博物館」で「酒呑童子絵巻」をナマで観て、鬼づくし気分にひたるのも楽しそうだ。

ちなみに同館ではWEB動画に登場する頼光、酒呑童子らのアクリルスタンドも販売されている。

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