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まるで「山月記」の世界だ... 浜松の動物園で撮影された「竹林にたたずむ虎」に反響

松葉 純一

松葉 純一

2021.06.30 18:00
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「竹林にたたずむ虎」の写真が、いま注目を集めている。2021年6月24日に投稿された次のようなツイートがきっかけだ。

まさに絵になる構図、と言えるだろう。「この光景が見られる浜松市動物園、すごい」というコメントが添えられている。浜松市の動物園で撮影された写真のようだ。

空白寺(@vanity_temple)さんが投稿したこのツイートには、なんと15万件を超える「いいね」が付けられ、今も拡散している(6月30日昼現在)。

ツイッターにはこんな声が寄せられている

「竹に虎。絵画のようです」
「素敵な写真ですね! 迫力と静けさがすごい。昔の日本の城の襖や屏風に描かれていそうな場面ですね」
「仙人が出てきそう」

ツイッター上には、とどまるところを知らない絶賛が溢れているようだ。

この素晴らしい写真は、いつどのように撮られたのだろう。

Jタウンネット記者は、投稿者の空白寺さんに詳しい話を聞いてみた。

「ソーンありがとう! 浜松市動物園ありがとう!」

アムールトラの「ソーン」 空白寺(@vanity_temple)さんのツイートより
アムールトラの「ソーン」 空白寺(@vanity_temple)さんのツイートより

浜松市動物園は、静岡県浜松市西区舘山寺町にある市営動物園だ。浜松市フラワーパークの北隣で、両者を合わせて舘山寺(かんざんじ)総合公園と呼ばれている。

空白寺さんが写真を撮影したのは、21年6月22時15時ごろ。写真の虎は、アムールトラの「ソーン」だという。撮影した時の状況について、投稿者・空白寺さんはこう語った。

「トラ舎では9時から11時まで、赤ちゃんトラ4頭と母トラ・ローラの展示が行われており、親子の姿を見ようと多くの人が集まっていました。
11時を過ぎると親子がバックヤードに帰り、交代でオスのトラ『ソーン』の展示が始まりました。
ほとんどのお客さんは赤ちゃんトラが目当てで集まっていたので、トラ親子の帰宅とともにトラ舎の前はあっという間にガラガラになりました。私はかねてより『竹林にたたずむ虎』の写真を撮りたいと思っていたので、ソーンが竹の植え込み前に来るのを待つことにしました」

しかし、ソーンはその後すぐに昼寝を始めてしまい、起きる気配がなかったという。そこで空白寺さんはいったんトラ舎を離れ、他の動物たちを見て回ることにした。

「浜松市動物園には国内唯一のゴールデンライオンタマリンをはじめ、クロヒョウやレッサーパンダなど魅力的な動物がたくさんいます。それらを見て15時ごろふたたびトラ舎に戻ったところ、『ソーン』は起きていたので、しばらく眺めていたら、ついに竹林前の丸太に登り、まるでポーズをとるモデルのようにじっとしてくれたので、夢中でシャッターを切りました」(空白寺さん)

ちなみに、今年2月に誕生した赤ちゃんトラの母親が「ローラ」、父親が「ソーン」だ。午前中は母子、午後は父親のソーンが単独で運動場に現れることが多いそうだ。

赤ちゃんトラ 空白寺(@vanity_temple)さんのツイートより
赤ちゃんトラ 空白寺(@vanity_temple)さんのツイートより

竹林を背景にした虎の写真が撮れた時の感想は? と聞いてみた。

「『ついに...!やった!! 』と思いました。うれしかったです。
トラを飼育している動物園は多数ありますが、竹林のような植栽をしている動物園はほとんどありません。しかも浜松市動物園のトラ舎は、檻やガラスなしでトラを見ることができるつくりになっているので、とても撮影に向いています。
しかしこれまでの来園では、トラがなかなか『絵になるポイント』に来てくれず、今回のような写真は撮れずじまいでした。いつかは撮りたいと思っていた構図で撮れたので、撮影した瞬間、『ソーンありがとう!トラ舎に竹を植えてくれた浜松市動物園ありがとう!』と、心の中で感謝しました」(空白寺さん)

投稿者・空白寺さんは、当時の感激を素直に語っている。

赤ちゃんトラ 空白寺(@vanity_temple)さんのツイートより
赤ちゃんトラ 空白寺(@vanity_temple)さんのツイートより

撮影の際、虎はどのように動いていたのだろうか? 相当時間がかかったのでは?

「ソーンが竹の植え込みの前でポーズをとってくれていたのは、30秒ぐらいだったので、撮影自体は短時間です。ですが『その瞬間を待つ』という時間も含めるなら4時間ほどということになるでしょうか。
ソーンは木陰で休んだりトラ舎の水堀を泳いだりして過ごしていることが多く、この日もそうでした」(空白寺さん)

空白寺さんは18年6月に初めて浜松市動物園を訪問。「その時から、いつかはここで、『竹林の虎』風にトラを撮りたいと思っていた」そうだ。初志貫徹ということだろう。

それにしても、ポーズをとってくれたソーン君も素晴らしい。通じ合う何かがあったのだろうか。

赤ちゃんトラと遊ぶ、母親・ローラ 空白寺(@vanity_temple)さんのツイートより
赤ちゃんトラと遊ぶ、母親・ローラ 空白寺(@vanity_temple)さんのツイートより

それにしても、虎の運動場を竹林の横に配置したのは、何か意図があったのだろうか?

Jタウンネット記者は、念のため、浜松市動物園に電話で聞いてみた。

取材に応じた担当者によると、「この舘山寺付近には、ここに限らず、古くから竹林があったそうですが、虎の運動場と竹林の関係については、詳しく聞いておりませんので、よく分かりません」ということだった。

浜松市動物園が現在地に移転開園したのは、1983(昭和58)年。40年ほど前のことだ。

あるいはその時、虎の運動場は竹林の前に造るべきというコンセプトがあったのかもしれないが、残念ながら、よく分からなかった。

ところで、ツイッターにはこんな感想も多かった。

「山月記の世界だぁ」
「その声は我が友李徴ではないか?」
「虎は、既に白く光を失った月を仰いで、二声三声咆哮ほうこうしたかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった。山月記ラストが浮かびます」

「山月記」は、1942(昭和17)年に発表された、中島敦の短編小説だ。

中国の唐代(618~907年)の伝奇物語「人虎伝」を題材にした物語で、詩人となる夢に敗れて虎になってしまった李徴(りちょう)という男が、自分の運命を友人の袁傪(えんさん)に語る、というもの。 この小説を国語の教科書で読んだ人々の、琴線に触れたためなのか?

「『山月記のようだ』というリプライの多さに驚きました。そしてこれほどの反響を呼ぶとは思っていなかったので驚いています」と、投稿者・空白寺さんもしみじみ語った。

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