他の人に突き刺さったら密! ある博物館が導入した「ソーシャルディスタンスの槍」が斬新すぎる
緊急事態宣言が全面解除となり、臨時休館を行なっていた美術館や博物館などの文化施設が次々と再オープンした。
しかし、新型コロナウイルスの脅威は未だ完全には去っていないため、各館はそれぞれ感染防止のための対策を講じている。
縄文時代の土器や石器を数多く展示する井戸尻考古館(長野県諏訪郡)も2020年6月2日に再開。入館時、受付表に連絡先などを記入することや、検温、手指の消毒、マスクの着用などを来館者に求めている。
さらに、館内にはこんなものが置かれているという。
「ソーシャルディスタンスの槍」だ。
竹の先に黒曜石がついたこの槍の長さは2メートルほど。他の来館者と距離を取る際の目安にするために用意されたものだそう。槍を持って展示室を歩き、他の人に槍が刺されば距離が近すぎる、というわけだ。
これまでソーシャルディスタンシングに関する様々な呼びかけを見てきたが、こんなにも視覚的にわかりやすいものは初めてだ。
これらの写真は、同館の学芸員である副島蔵人(そえじま・くらんど)さんが3日、自身のツイッターに投稿したもの。Jタウンネットでは5日、なぜ「槍」を作ったのか副島さんに電話取材した。
槍を片手に館内を歩いてもO K
副島さんによると、「ソーシャルディスタンスの槍」は副島さん自身が作り、井戸尻考古館が再開した2日から、展示室の前に設置している。現在は3本だが、ツイッターで反響があったためこれから増やそうと思っているという。
来館者同士の距離を確保するために、なぜ槍を使おうと思ったのか。副島さんは次のように説明する。
「まず、館の再開にあたって、来館者の方には受付表を書いていただいたり検温していただいたり、県の方針で18日までは1都3県と北海道の方はご遠慮いただいたり、皆さんにプレッシャーを与えることが多いんですね。
初めは、館内にテープを2メートルごとに貼って...というのもやろうかと考えていたんですが、身構えて中に入ってもらうことになるので、(展示を)見ている中ではあまりプレッシャーを与えたくない、というのがあって、何かないかを考えました」
また、同館では多数の土器がかなり密接して展示されている。そのため、2メートルごとにテープを貼って立ち止まる位置を指定してしまうと、来館者がみたい展示物をじっくり観察することができなくなる可能性もあるという。
「それで、移動しながら距離を取れるようなものがないかな、と考えたときに槍を思いつきました。
槍が使われていたのは旧石器時代がメインになるんですけれども、縄文時代の最初の頃にまだその名残があって槍が使われるので、館としてはその縄文時代の初めの頃の形を意識しています」(副島さん)
槍の先についている黒曜石を削ったのも副島さんだ。石器に関する研究で、縄文時代の人々が黒曜石を削流時には鹿の角で叩いていたことがわかっているそう。そこで副島さんも鹿の角を使って黒曜石を削ったという。
半日ほどで5、6個の黒曜石を削り、そこから竹の先につけるのに都合の良いものを選んで槍にしたとのことだ。ちなみに。黒曜石の先は人に当たっても怪我しないように潰してあるという。
槍は展示室に入る前に槍を観察して「これくらいの距離を開ければ良いのか」と目安にするだけでも良いし、槍を手に取って展示品を見て回っても構わないそうだ。 石器を片手に縄文時代の土器を見る、というのはかなりレアな体験に違いない。