1日1800便の路面電車、いつまでアナログ管理? 広島電鉄が挑む「紙とペン」からの脱却
「やればできる」という雰囲気を社内に広げたい
KDDI DIGITAL GATEチャレンジで広島電鉄が目指すのは、「単純作業からの解放」。
県やKDDIのバックアップを受け、KDDI DIGITAL GATEのスタッフと共に新しいシステムの開発を行っている。
「10月にここ(KDDI DIGITAL GATE)でワークショップを行って、今一番必要なのは何なのか、ということを徹底的に洗い出しました」
と進矢さん。今回のプロジェクトでは、開発期間は3週間と決まっている。限られた時間で、どんなものを作り、この問題を解決するのか。
車両を改造するような仕組みはコストがかかり過ぎ、現実的ではないと考えた進矢さんたちは、「デバイス一個でできること」に着目。ワークショップでの議論を経て、現在、スマートフォンを基軸にした開発を進めているという。
「端末に従業員の情報とか、ダイヤの情報とかを入力して、GPSを使って出発とか到着時間を記録。自動的に遅延時間を集積するシステムを作っています」
1月下旬には実証実験として、一部の運転士に実際に端末を貸与して運行を行う予定だ。
100年以上続けてきた作業をデジタル化することに対し、社内からはどんな声が上がっているのか進矢さんに尋ねると、「もっと他のことをやった方が良いんじゃないか」といった意見もあるという。
労働時間の集計が自動化されれば管理者の負担は大幅に軽減するが、現場では「当たり前の仕事」として行われている作業。「実現するわけない、いますぐ解消できない問題」との認識が多い。
「『できるわけないでしょ』みたいな反応もありました。
一方、『本当にデジタル化できれば、今紙でやってる作業が思い出話になるだろうな』って期待してくれる人もいましたね」
進矢さん自身も、今回のプロジェクトには大きな期待を寄せている。
「うちの会社、これ(労働時間の集計)以外にもいろんなものが紙とペンで行われている。
実験が成功して、デジタル化していくメリット、可能性がわかれば、社内全体に変革していこうというマインドが広がるかもしれない。
『なんだ、デジタル化しよう思えばできるんじゃん』という考えが、現場にも広がることで、実際に使う人たちが『こうしたらどう』『ああしたらどう』と言っていけるチームというか、会社になっていければなあと思います」
今回、KDDI DIGITAL GATEチャレンジで広島電鉄がとっているのは「アジャイル開発」という手法。発注の段階ではどんなものを作るかを具体的には決めず、何を解決したいのか、それを解決するためには何が必要なのかを考えていくもので、広島電鉄では初めて取る手法だと進矢さん。県のサポートがなければ挑戦できなかった、と話す。
「発注段階では何ができるかわからない、というものを発注する感覚が社内にも私にもなかった。
でも、今回やってみて、うちに必要だったのはこういう手法だったんだとわかりました。これまでのやり方だったら、今の段階でまだプロジェクトメンバーを決めてるところでしょうね」
実験が成功すれば、新しいシステムを広島電鉄の路面電車だけでなく、同じようにアナログな運用を行うバス部門、グループ会社にも広げていく予定だという。
進矢さんによると、アナログな運行管理を行っている地方の鉄道会社やバス会社は他にもあるそうだ。広島電鉄でのデジタル化が進めば、それをモデルに多くの企業で業務の効率化が可能になるかもしれない。
<企画編集:Jタウンネット>