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合言葉は「門司のために」 北九州発の焼酎「地芋」には、地元への想いが詰まっていた

Jタウンネット編集部

Jタウンネット編集部

2019.11.12 12:00
提供元:北九州市
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大人にとって最大の娯楽といっても過言ではない「お酒」。筆者も例にもれず大好きで、ビール、ハイボール、カクテル、梅酒、日本酒、焼酎水割り...。気の向くままにちゃんぽんしては、翌日しっかりと二日酔いになっている。

そろそろお酒の仕事が来てもいいのではないだろうか――?そう思っていたところに舞い込んだのが、北九州市の門司区で2019年に誕生したばかりの芋焼酎「地芋」の取材だ。

門司といえば、大正時代に最も栄えたというオシャレな観光スポット「門司港レトロ」で知られる。海を眺めながらおいしい芋焼酎が飲めるということだろうか。最高だ。

初の九州上陸ということもあり、ワクワクしながらその日を待ちわびる筆者。しかし現実はそんなに甘くない。なぜか「農作業できる汚れてもいい服」を指定された。

そう、後に聞いて分かったのだが、今回のミッションは芋焼酎「地芋」造りを、素材を収穫する「芋掘り」から体験してくることだった。

「芋掘りなんて何年ぶりだろう...」。そんな一抹の不安を抱えながら、筆者は北九州市へ飛び立った。

まずは芋掘りから

芋焼酎「地芋」は北九州市・門司の農地で採れたサツマイモや米を使い、小倉の老舗酒蔵「無法松酒造」が製造したニューフェイスだ。19年3月のJR門司港駅グランドオープンに合わせて発売され、今年はさらに量を増やして製造する予定だという。

筆者は今回、その二度目の製造過程を取材することになったわけだ。

思わず熱中
思わず熱中

焼酎造りに使うサツマイモは、門司区にある若手農家の白石雄大さん(28)の畑で栽培。19年10月12日に行われた芋掘りには、プロジェクトチームだけでなく地元の小学生らを含めた約100人が参加した。

掘っているときは大人も子供も真剣。楽しくワイワイ...というよりは休憩もそこそこに、みな作業に没頭していた。

とにかく掘りまくる...
とにかく掘りまくる...

大物!
大物!

「今年は大きいなあ」そんな声がプロジェクトチームから聞こえる。大きい芋は捨てる部分が使用できる部分に対して少なく済むため、作業効率が良いそうだ。子供の頭くらいあるだろうか...かなり大きいイモもちらほら見られる。

筆者もいくつか掘ってみたが、おもしろいくらいにイモがボロボロ出てくる。お宝を発見したかのような快感だ。農家の白石さんは梅雨が長かったことから日照不足を心配していたようだが、大物続出に「良かったです」と安心した様子だ。

掘った芋は袋に入るだけ持ち帰れる
掘った芋は袋に入るだけ持ち帰れる

今年植えた苗数は昨年の約4倍。収穫したイモの一部は参加者に配られ、小学生向けにスイートポテトの製造にも使われるそうだ。

持ち帰り用の袋がはち切れそうなほど、イモを詰め込む参加者。今日のことを話しながら家族でおいしく食べたことだろう。

ところでこの固形のイモがどうやって焼酎になるのか。あとは機械に任せてハイ終わり――そんな気の抜けた想像をしていた筆者だったが、待っていたのは文字通り「手作業」の焼酎造りだった。

切るのも潰すのも手作業

無法松酒造
無法松酒造

小倉南区の無法松酒造に移動して、さっそく焼酎を作っていく。

イモをひっくり返しながら、洗っていく
イモをひっくり返しながら、洗っていく

まずは掘ったイモの泥を落とし、端の部分を切り落とす。いきなり始まったイモ切り大会に少し驚いたが、大きな機械がないためこの日やる分に関してはほぼ手作業で行うとのこと。残りのイモに関しては一部工程を業者に委託するそうだ。

手分けして作業。華麗な手さばきだ
手分けして作業。華麗な手さばきだ

「大きなイモは半分に切って!熱がまんべんなく通るように」―― そんなアドバイスも飛び、集まったプロジェクトの関係者たちは淡々と慣れた手つきでイモを切っていく。

切ったイモは蒸す機械に入れ、ふかして柔らかくする。機械の周りにはモクモクと蒸気が立ち込め、あっという間にサウナ状態に。ちょっといい匂いもしてきた。

切ったイモは...
切ったイモは...

蒸す(暑い)
蒸す(暑い)

おいしそう~!
おいしそう~!

約1時間後、このまま食べてしまいたいくらいホクホクとしたイモができたところで、謎のアナウンスが。

「男性陣のみなさん、ご協力お願いしま~す!」

いったい何が始まるの...?ヒントはイモをふかしている間に撮った、この写真の中にある。

イモ待ち。これからの作業のヒントがここに
イモ待ち。これからの作業のヒントがここに

まさか...!?
まさか...!?

用意されていたのは餅つき用の杵(キネ)。これで柔らかくなったイモたちを勢いよく潰していく。さすがにここは機械だろうと踏んでいたが、ここも当然の如く手作業なのだ...。

ドスッドスッ
ドスッドスッ

地芋の場合、イモは皮ごと潰していく。芋焼酎には皮のあるものとないものがあるといい、それで風味が変わるのだとか。

筆者もやってみたが、なかなかイモがしぶとい。潰すのは簡単だが、固形のイモをなくすのに時間がかかる。杵だけでは手が足りないため、すりこぎ棒や先ほど使っていたまな板をひっぱり出し、さらにはイモを冷ますために扇風機を上からかざす。まさに総力戦だ。

ここが頑張りどころ
ここが頑張りどころ

潰し具合で焼酎のまろやかさが変わる大事な作業。見た目はシュールだが、イモを潰す人も扇風機を持つ人もみんな真剣だ。時には冗談を飛ばしながら根気よく作業を続けるうちに、イモもいい感じになってきた。

ここで米こうじを発酵させた「もろみ」が登場。この米こうじも、白石さんの田んぼで収穫した米を活用している。門司産のサツマイモと米を使用し、門司の人の手を借りて作る... 門司にこだわりぬいた芋焼酎が「地芋」というわけだ。

もろみを攪拌する無法松酒造の山家勉さん
もろみを攪拌する無法松酒造の山家勉さん

定期的にかき混ぜる「攪拌(かくはん)」の作業をするなど、1週間ほど前からこの日のために仕込んできた。芋掘りのタイミングがずれると使えなくなってしまうため、無法松酒造との連絡を密に行ってきたという。被せていた袋を取ると、アルコールのいい匂いがあたりに漂った。

ここに、みんなで潰したイモを投入。今日できる作業はここまでだ。

イモをIN
イモをIN

向かって左がイモを入れる前のもろみ、右が入れたあと
向かって左がイモを入れる前のもろみ、右が入れたあと

イモを入れることで、もろみは黄味がかったベージュに近い色に。これを2週間発酵させたのち、蒸留、その後1か月ほど熟成させて完成だ。

完成した「地芋」は、北九州市のふるさと納税の返礼品にも登場する予定だ。

なぜ門司にUターン?プロジェクトの中心メンバーに聞いた

シマダ酒店の島田一輝さん
シマダ酒店の島田一輝さん

地芋プロジェクトは地酒処田村本店(門司区)の田村洋文(51)さんが7年ほど前から構想を練っていたもの。東京からUターンして間もないシマダ酒店の島田一輝さん(41)に出会ったことでプロジェクトが始動した。

地芋プロジェクトをけん引してきた島田さんに、なぜ「地芋」を作ったのか聞いてみた。

門司で生まれ育った島田さんは大学入学を機に門司を離れ、卒業後は伊藤園に入社。営業や社長秘書を経験したのち、2016年に退社。家業である酒屋を継いだ。

門司に戻ってきた理由について、島田さんは、

「門司ってポテンシャルがあるのに何で知らないんだろうと感じることがあり、門司を有名にしてやろうという思いがきっかけでした。実家の酒屋がつらい思いや経験をしてきたことも知っていたので、成功させてやろうという思いがありました」

と話す。酒屋を継いだ後は、地元の農地を守るためになにかできないかと考えていた田村さんと出会い、意気投合。門司産の芋焼酎を造るプロジェクトが始動した。

しかし大きな課題だったのが、肝心の「サツマイモ」を育ててくれる農家を見つけること。サツマイモは門司の特産品というわけでもなく、イノシシに畑を荒らされるという懸念からなかなか引き受けてくれる農家が見つからなかったという。

そこで島田さんが門司区役所に相談したところ、手を貸してくれたのが農家の白石さんだ。

畑を提供する、農家の白石雄大さん
畑を提供する、農家の白石雄大さん

白石さんも2017年に祖父が亡くなってから、家業を継いだばかり。「門司のためになるなら」と、サツマイモ作りを引き受けた。もともとサツマイモは家庭用に栽培しており、地芋プロジェクトのために畑を広げたという。

芋掘りは去年も地元の子供たちと一緒に行った。これには島田さんのこだわりがあるようで、

「自分は幼少期の地元の経験があったから戻ってきました。これが子どもたちの経験になればいいですね。成人式で『地芋』を飲んでほしい」

と話している。

門司への想いがたくさん詰まった芋焼酎――完成したらぜひ1杯いただきたい。

地芋プロジェクトチームのみなさん(前列左は地酒処田村本店の田村洋文さん)
地芋プロジェクトチームのみなさん(前列左は地酒処田村本店の田村洋文さん)

<企画編集:Jタウンネット>

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