あなたの「飼いたい」が動物を絶滅させる とある動物園に掲示されたメッセージが深い
埼玉・東松山にある「埼玉県こども動物自然公園」のマヌルネコ舎前に設置された看板がツイッターで話題になった。
可愛らしい文字が目を引くダイヤ貼り封筒風のこちら。実は蓋になっているようで、開けてみると、そこには熱いメッセージが込められていた。
こちらはツイッターユーザーのまにゃもう(@manyamou)さんが投稿した写真。世界最古の猫とされ、アフガニスタンやイランに分布するマヌルネコ。その展示舎前に設置された看板に書かれているのは「飼いたい」と考えている人へのメッセージだ。
確かに可愛らしいマヌルネコの姿や仕草を見ると、飼いたくなってしまう気持ちはわからなくない。
しかし、看板では飼いたいと思うことが密猟、そして彼らが絶滅してしまうと訴えている。生息数が地球上で1万5000頭ほどしかいない――大好きなマヌルネコたちが飼いたいと願うことによっていなくなってしまうかもしれない。
そんな厳しくも熱く優しいメッセージが書かれているのだ。なぜ、こうしたメッセージを掲示しているのか。Jタウンネットが、動物園の担当者に取材した。
飼育スタッフの思いを聞いた
メッセージの全文は以下の通りだ。
「ふわふわの毛や丸い瞳、太いしっぽなど、とてもかわいらしい姿や動きにマヌルネコを飼ってみたいと思った人も多いと思いますが、マヌルネコは『アメリカンショートヘア』や『マンチカン』といったイエネコの品種とは違います。野生のネコのなかまの一つの種です。
彼らは現在、地球上に15000頭ほどしかいないと考えられています。すみかも開発や環境破壊などにより分断されて生息数が減ってきているといわれています。
私たちが飼いたいと希望すれば、それに答えるために密猟により多くの野生のマヌルネコがとらえられることでしょう。そして彼らの絶滅への道が近づくことが容易に想像できます。
飼いたいほど大好きなマヌルネコが地球からいなくなってしまわないように、本物ではなく、写真や動画、記憶で皆さんのうちまで連れて帰ってあげてください。そして彼らを守るために何をしたらいいか、一緒に考えていきましょう」
こうした熱い思いにツイッターでは、
「マヌルネコちゃん、可愛いからなぁ。。でもその通り!!」
「これ書いた人の気持ちよくわかる。マヌルネコに限ったことじゃないよね。テレビや動物園で見て、かわいいだけで飼いたいに直結するのはあさはかすぎる。そんなあさはかなヒトの行為がどれだけ生き物達に迷惑かけてきたかな」
「なんか辛いというか、心が揺れるというか...こんなの分かってたけど、改めて地球のピンチを実感した」
などのコメントが寄せられている。
2019年8月29日、Jタウンネット編集部は埼玉県こども動物自然公園に質問状を送付。9月3日に担当の飼育スタッフの回答が書面で届いた。
17年ごろから設置しているというこの看板。まず設置の経緯について聞いた。生息地や絶滅の原因などに言及するのは珍しくないといい、こうした現状を伝えるのも動物園の役目。その上で、
「キーパーガイド(編注:飼育係が旬な動物の話をするイベント)などではしばしば話していますが、ガイドに参加できない来園者のみなさんにも伝えられないかと思い考えました」
また、ネコと付く名前などからイエネコと同様に考えてか「飼ってみたい」という声が多いように感じられたそうで、
「ここでは飼いたいと思った人に向けてのメッセージというかたちで看板を作成してみました」
と担当者。可愛らしい姿からは中々結びつかない厳しい現実。より多くの人に見てもらうのが大事だ。
動物園を学びの場に
見てくれている人はそれなりにいるというマヌルネコの看板。しかし、中々メッセージが伝わらないようで、
「タイトルのインパクトと開けた時の文字数の多さからか、内容をよく読まずに『飼えるんだってー』と勘違いしていく方も中に入るので、もう少し改良するべきか悩んでいます」
子どもからすると、長いのかもしれない。そこはしっかり親御さんが説明してあげてほしいものだ。
せっかくなので、看板に書ききれなかったことがあるかと尋ねたところ、「動物たちが減っている現状にもっと関心を持ってもらいたいです」とした上で、
「遠く離れた場所にすむ動物たちですが、減っている理由は私たちが生活するために使うものを作るために山を切り開いて畑にするためだったり、ペットや毛皮にするための密猟だったりします。動物園でそういったことを知ったり考えたりするきっかけをつくってもらえたら嬉しいです」
とコメントした。
今回はたまたまマヌルネコについての看板だったが、ほかの動物にも通ずる内容。担当者によると、
「園内にはこの看板以外にも似たような内容の看板が設置されています。ぜひ探してみてもらいたいです」
とのこと。遊びとして楽しむのも大事であるが、こうした学習をするのも動物園の魅力のひとつではないだろうか。