地下鉄の定義は「何となく」? 関西大「広島に地下鉄ない」出題ミス、真の問題点は
2019年2月28日、関西大学が入試問題に出題ミスを公表した。2月1日実施試験の「地理」科目、受験者に間違っている選択肢を選ばせる問題で、
「北海道、東北、中・四国、九州の各地方中枢都市には、すべて地下鉄路線がみられる」
が誤りのため正解とする問題だった。広島には地下鉄がないことを前提にしていたが、
「アストラムラインが鉄道事業法の地下鉄ではないか」
という指摘により全員を正解としたそうだ。
アストラムライン(広島高速交通)は広島市の本通~広域公園前間を走るAGTだが、本通~新白島間の4駅間だけは地下を走る。
確かに地下鉄といえば地下鉄だが、一般の感覚からすると微妙なのではないだろうか。いったい地下鉄ってどういう定義なのか、詳しく調べてみた。
単に地下を走っていれば、というわけでもない
「地下鉄」というと、一般的な感覚では大都市で路線のほとんどが地下を走る鉄道をまず連想する。東京メトロや都営地下鉄だ。ところが、アストラムラインはごく短い区間地下を走らないのに今回のように地下鉄といわれることがある。
確かに地下を走るのだから間違いではないが、ほかにも「ある程度地下を走る鉄道」は地方都市にある。
例えば長野市の長野電鉄も長野~善光寺下間の4駅が地下区間である。京都市では阪急電鉄や京阪電鉄がある程度の距離地下を走っている。特に長野電鉄は「長野にだって地下鉄がある!」と長野の都会アピールのネタにもなっていたりする。広島のアストラムラインは何をもって地下鉄といえるのだろうか。
長野電鉄権堂駅
— ちくわ大好き(駅メモ:ジェレミー・クラークソン) (@jeremy_ekimemo) 2018年12月24日
ここも昭和の香りが漂う。
イトーヨーカドーへ直結していて便利。デパートに直結してる都会の地下鉄みたい。 pic.twitter.com/cztQTYeNsB
結論から言うと、日本では「地下鉄」に厳密な定義はない。関西大学への指摘はアストラムラインが「鉄道事業法の地下鉄」なのだという内容だったが、これもいくつかの基準の一つにすぎず、また曖昧だ。
というのも、国土交通省鉄道局に取材を行ったところ、
「確かにアストラムラインは当該区間(編注:本通~県庁前間)のみ鉄道事業法の鉄道として建設されましたが、地下鉄の法的な定義はありません」
とのことだった。アストラムラインの地上区間は基本的に道路の上を高架で走るので、「軌道」として建設したが、地下の本通~県庁前間のみ鉄道として届け出・建設したそうである。
ところが鉄道営業法の中に地下鉄を特別に定義しているわけではない。平たく言えば地上を走ろうが地下を走ろうが、鉄道扱いで建設されていれば同じということだ。アストラムラインの当該区間が「鉄道」だからといって、地下鉄と言えるかという違和感は残る。そもそも同じ地下区間でも本通~県庁前間だけが地下鉄で、県庁前~新白島間はそうでないというのも不自然に思われる。
もう一つ、アストラムラインが地下鉄扱いされる理由が、日本地下鉄協会に加盟しているからというもの。
確かに各都市の地下鉄を運行する自治体が加盟しているが、ほかにもりんかい線(東京臨海高速鉄道)、埼玉高速鉄道、東葉高速鉄道、北総鉄道なども加盟している。地下区間が長い埼玉高速鉄道やりんかい線はまだしも、北総鉄道に至っては矢切駅しか地下駅がないのに地下鉄とは首をかしげる人が多いのではないだろうか。
そこでこちらにもアストラムラインの件について聞いてみると、
「建設の時に、本通~県庁前間は地下高速鉄道事業費整備補助を受けていますので、地下鉄として当協会にも加盟しています」
という回答をいただいた。聞きなれない地下高速鉄道事業費整備補助とは、鉄道建設にあたっての国交省の補助金制度で、主に地下を走る鉄道整備のためのもの。地下高速鉄道とは、
「都市部において通勤通学輸送を主な目的とし、主として地下に建設されるもの」
である。アストラムラインが当該区間だけ鉄道とされたのも、この制度が適用できるためでもあった。確かにこの区間だけなら地下だが、その他の区間はほとんどが地上だし他にも地下区間があるので、一般客目線だとどうもしっくりこない。
この制度で建設された路線はすべて協会に加盟しているが、そもそも制度の対象が「公営・準公営・東京メトロ・広島高速交通」のみで、例えば純民間の私鉄が同じように地下を走る鉄道を建設しようにもこの補助金は交付されない(したがって新しく3セク会社を設立したりして制度の適用を受ける)。
であるから、前述の長野電鉄には制度が適用されなかったといえる。
反面、北総鉄道、東葉高速鉄道などは東京の地下鉄と相互乗り入れしていることが理由での加盟ということで、アストラムライン同様その線の大部分が地下を走るか否かは重要ではない模様だ。
それでいて、長野電鉄などごく短い区間地下を走っていても、制度的な面で地下鉄道と見なされない鉄道もあることが定義をややこしくしている。
改めてまとめると、地下鉄の定義について一応制度的な区分はあるものの、それが直ちに一般的な感覚とは一致しない。身も蓋もないが、何をもって地下鉄とみなすかは「何となく」。
かように解釈の分かれる事柄を、1点が合否を左右する試験問題に採用したことに難があったといえる。
Jタウンネット編集部・大宮 高史
(2019年3月4日追記)読者からの指摘を受け、文中の一部表現を修正しました。