移住しても良いかもッ! 即完売の北九州市「くらし体験ツアー」に参加してみた
全国の自治体が「ふるさとに帰ってきて~!」とUIJターンを呼びかける中、ユニークなのが北九州市の「お試し居住」。市に1週間~1か月、実際に滞在して、住み心地を体感してもらう作戦だ。
2018年度は新たな試みとして「くらし体験ツアー」を企画。「厳選いい宿 特別編」(テレビ東京)で、中澤裕子さん(元モーニング娘。)が北九州市のツアーを紹介したところ、あっという間に定員に達したとのこと。
北九州市と言えば、製鉄の街、そしてちょっとアブない街......というイメージが。そんな北九州市のどこが魅力なのか? Jタウンネット編集部は18年4月後半に行われた2泊3日の「くらし体験ツアー」に同行し、その魅力を探索してみた。
都会と田舎が混在!?
今年、55周年を迎えた北九州市は、本州と海を挟んだ九州の玄関口に位置する人口95万人の政令指定都市で、門司、小倉、戸畑、八幡、若松の5市が合併してできたため、現在もそれぞれの文化が色濃くのこっている。
「くらし体験ツアー」では、地元スタッフ案内のもと、門司、小倉など市内の各エリアをめぐった。旅程とは多少前後するが、記者が2泊3日で気になったスポットをご紹介しよう。
まずは、中心部の小倉から車で40分ほど、赤瓦が印象的な合馬(おうま)地区。ここは、田園風景が広がる農業地域で、京都の料亭も御用達だという「合馬のたけのこ」の生産地でもある。時期終盤のタケノコ収穫体験では、地表のひび割れを見極めて、地上に出てくる前のものを掘る。見極めて良いタケノコを掘るには熟練のワザが必要だそうだ。
ゲットしたタケノコは、地元農家直送の食材が揃うイタリアンレストラン「B&W」でベジタブルランチに。「やわらかく、えぐみも無い」と感じたが、この時期を逃すと来年になるまで食べられないとのことなので、滑り込みセーフの幸せをかみしめる。また、強い甘みと酸味のバランスが特徴の「若松水切りトマト」など、地元で採れたばかりの野菜にも舌鼓を打った。ツアー参加者も大満足の様子だ。
小倉駅周辺の中心部で驚かされたのは、バリエーションに富んだ光景だ。小倉城のすぐ隣には、カラフルで幾何学的な商業施設、奥にはタワーマンションも見える。他にも、地元出身の松本清張の記念館や、磯崎新氏が建築した北九州市立中央図書館、大きな芝生公園、小倉の市街地を南北に走る紫川、新旧建物や自然が見事に混在している。こうした施設が徒歩10分圏内に詰まっており、まさに「コンパクトシティ」だ。
続いて、100年以上の歴史を持つ「北九州の台所『旦過(たんが)市場』」。ここは川にせり出す形で120もの店舗がひしめき合っており、治水対策の必要性から再整備の計画も出ている。個人的には「この風情を残して欲しいな」と思いながら、名物のぬか味噌炊きや新鮮な刺身をおかずに、「大學堂」でランチする。この「大學堂」は、北九州市立大学の学生主体で運営されており、市場で買った食材で、自分だけのオリジナル丼を作ることができるのだ。
また、北九州市は寿司やうなぎなど「A級グルメ」の名店も多いそう。その一つ、小倉の名店「田舎庵」のうなぎにも舌鼓を打った。店主の緒方さん、ホワホワのうなぎをご馳走さまでした。
門司港散策、小倉で「角打ち」のレトロ体験! スペースワールドは今...
続いて、JR小倉駅から電車で15分、門司港。関門海峡が一望できる和布刈(めかり)第二展望台ではベテランガイドさん案内のもと、対岸にみえる壇ノ浦での源氏と平家の戦いに思いをはせた。昭和6年(1931年)創建の現役料亭「三宜楼」を見学し、昭和レトロや東南アジア風なレンガ作りの路地裏などを歩く。門司港の歴史や景色は、訪れる年齢や時季、誰と来るかでさまざまな楽しみ方があるように感じた。夜にはライトアップも行われている。これがまた絶景!
小倉に戻り、北九州市民に親しまれている「角打ち」を井手商店で体験。ビール片手におでんをつまみながらディープな世界にひたる。角打ちは広辞苑にも載る、北九州市に根付いた飲酒文化で、今でも120軒超が営業中と聞く。酒屋の一角で、さっと一杯。「ゼロ次会」なんて言葉もあるらしい。お店によっていろいろな特徴があるのも、楽しみ方の一つだ。
「超有名スポット」だという河内藤園も散策した。雨の中でも、藤のトンネルを歩くと、花の香りが際立つ。白、ピンク、薄紫、濃紫の藤の花色のグラデーションがみずみずしく園内を彩る。一面に広がる藤棚を見ていると、市街地から少し移動するだけで、こんなに美しい自然に触れられるのかと、うらやましくなった。
最大1か月の「お試し居住」
北九州市では、移住検討者に向けた「お試し居住」の取り組みが行われている。「お試し住居」では、メゾネットタイプの住居を、1週間1万円、最大1か月まで利用できる。
バス・トイレはもちろん、家電製品もそろっており、台所には食器も用意されている。最寄りの駅までも徒歩圏内、近くにはスーパーもあるので生活には困らない。常駐する移住コーディネーターが住居探しなどの相談に対応してくれるし、地域コミュニティーになじむためのイベントも企画されている。
2017年に「お試し居住」を利用した体験者の25%が、すでに18年4月時点で移住しているのはこんな手厚いサポートがあるからかもしれない。
「お試し住居」の最寄り駅は、徒歩10分程度の「スペースワールド駅」だ。名前の由来になったスペースワールドは惜しまれつつ昨年末で閉園。アトラクションが解体されている姿も見えた。駅名は当面そのままと発表されているが、これからどうなるのだろうか......?
移住すれば「ついのすみか」になるのだから、介護関連の情報も大切だ。特徴的な取り組みを行う特別養護老人ホーム「もやい聖友会」も見学した。ここにはコミュニティFMのスタジオやカフェレストランもあり、地域住民も多く利用している。学校が終わると学童たちが集まって、入居者と交流しており、地域の中で入居者を孤立させない工夫がされている。
今回のツアーでは、北九州市が持つ「都会」と「田舎」の両面の良さを体験できた。驚いたのは、都会的なJR小倉駅とは対照的に、中心部から車で30分前後で田舎の田園風景が広がることだ。しかし、そのような場所にもしっかりした交通インフラが整備されており、都会的な便利さが行き届いていた。
新幹線に乗れば、福岡市内まで15分という利便性。地震など自然災害のリスクも少ないとされ、子育てにも介護にもやさしい街でもある。海と山に囲まれた住環境、レトロ建築をはじめとする個性豊かな建築物、新鮮で安価な魚や野菜、寿司やうなぎといった「A級グルメ」と「ご当地グルメ」、さらには昭和の風情が残る「角打ち」――。
こうした色々な顔を持つ北九州市はまさに文化のカオス。一筋縄では行かないこの混沌さが人々を引き付ける魅力であり、これからも進化していくことだろう。まだまだ深掘りできそうな街だ。 <企画編集・Jタウンネット>