あふれんばかりのクリームに虜になる!? 長野県松本市の「牛乳パン」
地元で愛されているパンを探して、全国各地をゆく「地域密着 愛されご当地パン」。今回はあふれるほどクリームが詰まっているといわれる「牛乳パン」を求めて、長野県松本市の「小松パン店」にやってきました!
小松パン店がパンの製造・販売を始めたのは大正10年頃。明治時代半ばに穀物を売買する穀屋として店を始め、途中、造り酒屋を営みながらパンを販売していた時代もあったという歴史あるお店です。
牛乳パンは長野県や新潟県の一部地域で親しまれているご当地パンで、長方形にカットされたふかふかの生地にクリームが挟まっているのが特徴。中でも小松パン店の牛乳パンは驚くほどたくさんのクリームが詰まっていると評判です。それでは、早速ご当地パンを拝見!
手に持ってみると、ずっしりと重みが…! それでは、袋から取り出してみましょう。
これが牛乳パンの全景です! 生地はふわっふわで、軽く持っているだけで指の跡がつくほど。思わず目が奪われるクリームの厚みを定規で測ってみると、全体の高さ約8センチに対してクリームは約3センチもあります。ふわふわの生地とたっぷりのクリームに思い切りかぶりつきたくなりますが、口の大きさを遥かに超えるサイズなので、一口大にちぎっていただいてみます。
口に入れた途端、洋酒の風味がほのかに広がり、軽くなめらかな口当たりのクリームがふんわり歯切れのいい生地と一緒にさらりと溶けていきます。クリームは甘めですが、パン生地に甘味がほとんどないため、くどさはなく、どんどん食べられます。生地が足りなく感じるほどのクリームの量ですが、不思議と飽きず、パンを足してでもクリームを食べたいくらいです。ミルクの味はしない気がしますが、このクリームは何なのでしょう?
小松さん「牛乳パンという名前ですが、クリームはバタークリームです。バターとショートニングというマーガリンの一種を使用しています」
声を掛けてくれたのは、小松パン店代表取締役の小松治夫さんです。
小松さんが見せてくれたバターとショートニングは固形。単に混ぜ合わせただけでは、この軽い口溶けにはならなそうです。どのようにして口溶けのいいバタークリームを作っているのでしょうか?
小松さん「しっかりホイップして空気を含ませることで、軽い口溶けになるように仕立て上げています。まずはショートニングだけで15分ほどホイップし、バターを加えてさらにホイップします。そこに砂糖と蜜で甘味を加えて、ブランデーとバニラエッセンスで香りづけをしたら、さらにホイップ。ホイップする時間や気温によってクリームの固さが変わってくるので、目安の時間はありますが、最後は味見をして口溶けを確認しています。夏と冬では使うバターとショートニングの種類も違うんですよ」
夏と冬ではどのような違いがあるのですか?
小松さん「夏は暑くてクリームがゆるくなりやすいので、固めのものを使いますし、逆に冬場は固くなりやすいので、柔らかめのものを使っています。柔らかすぎても固すぎてもだめなんです。10月頃がちょうど切り替わりの時期で、10月末〜11月初めは気温が高すぎず、低すぎず、バターとショートニングが柔らかめの種類になったところなので、クリームの口溶けが特に良くて最高においしいです」
クリームの口溶けの良さは、ホイップと季節に合わせた微調整で実現されていたのですね! でも、クリームに牛乳を使っていないとなると、どこが牛乳パンなのでしょうか?
小松さん「牛乳が入っているのはパン生地です。生地に牛乳を入れることでコクがでます。パンは大きく焼くと、ふわふわでしっとりとした食感になり、クリームによく合うんです」
長方形の生地は、元は大きな鉄板で焼いた1枚の生地。小松パン店ではその生地を8等分にカットしてクリームを挟んでいます。クリームはかなりの量ですが、1日にどれくらい作るのでしょうか?
小松さん「クリームは毎日10キロは作っています。牛乳パン約150個分です。土曜日には200個以上作りますが、最近は午前中に売り切れてしまうことも多いですよ」
毎日売り切れとはすごいですね! どんな方が牛乳パンを買いに来られるのでしょうか?
小松さん「昔から親しんでいる地元の方が多いですが、最近は遠方からわざわざ買いに来られる方も増えましたね。若い人も多くて、そういった方は昔懐かしのレトロなものに魅力を感じてくださっているようです。電話注文もよく頂いていて、多い時は40個ほど取り置きしている日もあるほどです」
お話を聞いている間にも、お店には牛乳パンを求めるお客さんが絶えず訪れていました。この日は昼過ぎには売り切れていましたが、その後も「牛乳パンはありますか」とスタッフさんに声を掛けているお客さんの姿も。牛乳パンは本当にたくさんの人から愛されているようですが、そもそも牛乳パンはいつから販売されていたのでしょうか?
小松さん「うちで販売を始めたのは、昭和30年代の初め頃だったと思います。私が子どもの頃に父親が作り始めたんです。当時、長野県内のあちこちで白のビニールに青字のパッケージで、ちょうど同じような牛乳パンが販売されていました。みんなで同じものを作ろうという話があったのか、誰かが始めたのをまねするようになったのか、誕生の経緯についてはわかりません。知っている世代は今はもう亡くなってしまったので、誰も知る方法がなくて」
牛乳パン誕生の経緯は謎に包まれているのですね。では小松パン店ならではの、クリームたっぷりの牛乳パンになったのはいつからでしょう?
小松さん「現在の牛乳パンに変化したのは、私が店を継いだ40年前頃からです。大手のパン屋のように規格が決まっているわけではないので、クリームは従業員が感覚で挟んでいるんですが、私はケチケチしたことが嫌いで。そういったことを従業員が感じ取ってだんだん増やしたのかもしれません。やっぱり、サービス精神ですよね。味も量もお客さんに喜んでもらいたくて、ただただ頑張っているだけなんです」
たしかに、牛乳パンだけでなく、小松パン店のパンはどれも大ぶり! ひとつ食べればしっかり満足できる大きさです。なかでも、牛乳パンは1人で食べるにはかなりのボリュームがありますね。
小松さん「1人で1個食べるというよりは、家族で1個の感覚ですね。冷凍すると3日ほどもつので、何日かに分けて食べたり、クリームの量が多いので他のパンにつけて食べたり、コーヒーにクリームを入れたりしている人もいるようですよ。地元の信州大学や松本大学の生協では特別にハーフサイズを販売しているので、学生さんは食べやすいかもしれません」
学生にも年配の方にも親しまれている小松パン店の牛乳パン。中には、県外の大学に通うお子さんに牛乳パンを仕送りしている方もいるのだとか。
小松さん「都会に出れば、おいしいものはたくさんありますが、小さい頃から親しんでいる味のおいしさはまた別ですよね。うちは東京にあるパン屋のようにおしゃれなパンを主力にしてというのは考えていなくて、“昔ながら”というのが一番いいのかなと思います。ありがたいことに、今でも女学生の頃から通っているという80歳のおばあさんがいたりするんです。そんな風に今の若い人が年をとっても、懐かしがって通ってくれるようなお店でこれからもあり続けたいです」
長野県に牛乳パンは数あれど、あふれるほどにクリームが詰まった牛乳パンは小松パン店ならでは。幼い頃から“小松の牛乳パン”を食べて育った松本の人々にとって、牛乳パンといえばこのたっぷりのクリーム。そこには、クリームと一緒に懐かしい記憶がたくさん詰まっているのでしょう。松本を訪れたなら、地元民が愛してやまない、こぼれ落ちるほどのクリームが詰まった牛乳パンも味わってみては!
店舗情報 ● 小松パン店
住所:長野県松本市大手4-9-13
電話:0263-32-0172
営業時間:8:30~19:00(日・祭日)
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。
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