「舛添要一 朝までファミコン」はクソゲーじゃないし、プレイしても都知事のことはあまりわかりません
まず、このゲーム「舛添要一 朝までファミコン」の主人公は舛添氏ではない。「ココナッツ商事」に務めるサラリーマン・藤沢和人(営業部第一課課長)だ。
【経緯は前編で。以下、ネタバレ注意!!】
ココナッツ商事の内部では、「会長派と社長派による社内抗争」と、「社運をかけたリゾート開発企画『グリーン計画』」、そして「ライバル企業による買収の陰謀」という3つの問題が動いている。「グリーン計画」を推進するのは会長派で、社長派はライバル企業などとも組んで、なんとかこの計画をつぶそうと目論んでいる。
主人公・藤沢は会長派の大物・浅井常務の意を受けて、グリーン計画の推進に尽力することになるが――。
と、ここまで読むと、皆さん思うだろう。
「舛添、全然出てこないじゃん! というか、『国際政治学者』(当時の肩書き)と全然関係ないじゃん!」
舛添氏は開始後1時間近く出てこない
はい、仰る通り。
実際ゲームをプレイしていても、舛添氏が出てくるのはオープニングを除くと、開始後1時間近く経ってから。しかもそこでは顔見せ程度の扱いなので、まともにストーリーに絡んでくるのは中盤以降だ。
しかも前半部分(全4章中の2章まで)は、ひたすら「金と女に汚い取引先」を接待や交渉で説得する、という内容で、ストーリー的にもとにかく退屈。後に書くが、操作性も悪い。
「目当て(?)の舛添氏はろくに出てこない、相手にするのは脂ぎったオヤジ、理不尽な選択肢」
という三重苦の前に、多くの人は「クソゲー」認定して、それ以上のプレイを投げ出してしまうだろう。
後半のストーリーは面白い
だが、取引先からの土地買収に成功した第3章以降は、ストーリー的にはぐっと面白くなる。
突如として開発予定地で巻き起こる環境保護運動、暗躍する社内スパイ。なんとかこれらを解決するも、今度はでっち上げの「スキャンダル」騒ぎ。失脚とエクアドル左遷の危機。ライバル企業からの甘い誘い。
これらを逆手にとって社長派の陰謀を暴くが、待ち受けていたのは、常務の裏切り。そして、社長派と悪徳政治家、ライバル企業が組んでの会社乗っ取り計画が明らかに――。
淡いラブロマンスもはさみつつ、主人公は着実にこうした問題を解決していく。そして乗っ取り計画の裏で動いていたインサイダー取引の証拠をつかみ、社長派を一掃、見事部長に昇進するのであった!
一難去ってまた一難、悪党の目論みをくじいたと思ったら、さらなる巨悪が――という展開は、少年漫画的でなかなか燃えるものがある。裏切り者である常務の行動(実は、会長の隠し子。ただし、明らかになるのはエピローグだけど)にも細かい伏線が張られていて、どんでん返しには「そう来たか!」とニヤリとできる。
主人公を献身的にサポートする、ちょっとミステリアスな女性派遣社員・道上孝子(実は舛添氏がココナッツ商事に送り込んだ部下)も結構かわいくて、おっさんだらけの展開でささくれ立った心が癒される。
昔のゲームというけど、「ドラクエV」と同年発売
「舛添要一 朝までファミコン」はクソゲーではない。
でもまあ、良作かというと、うーん......。
とにかく操作性が極悪だ。たとえば、ほかの登場人物から差し出された書類を読もうとすると、
(1)コマンド「見る」で書類を視認
(2)「取る」で書類を入手
(3)「調べる」で書類を読む
(4)書類に複数の内容があるときは、その都度「調べる」を起動して読み進める
(5)全部読み終えてはじめて、「話す」で書類について相手から話を聞ける
というめんどくささ。しかもこの組み合わせが毎回共通ではなく、たとえば「見る」が不要だったり、別に「使う」のコマンドを使う場合があったりと、その都度正解のコマンドを探す必要がある。
「昔のゲームだし......」
と思うかもしれないが、このゲームが出たのは1992年だ。ファミコン初期ならいざ知らず、同じ年には今も遊ばれている名作「ドラゴンクエストV」だって出ている。「スーパーマリオカート」や、「真・女神転生」も! もっとやりようあっただろう!――とツッコまざるを得ない。
ストーリーも、常務などのキャラがやたら細かく描写されているのに対し、敵陣営のトップであるはずの菅原社長や、悪徳政治家・山波兵衛なんかは、名前だけは繰り返し出て来るのに、終盤まで出番はほとんどない。
ホステスの洋子ちゃんや、丸の内銀行頭取の孫娘など、思わせぶりに登場してそれっきり、というキャラも多い。
総じて言うと、100点満点で「可」に少し足りない、50点くらいという感じか。
「舛添先生の調査網は確実です!」
「......舛添氏どこ行ったの?」
はい。舛添氏は会長派のシンパとして、主人公の頼れる指南役を務めてくれます。
とはいえ、やってることはほぼ「情報屋」的なポジションである。主人公が行き詰まると、
「そうだ、舛添さんに相談してみよう」
と電話して、ライバル企業などについての情報収集を依頼する。するとどういうルートでつかんでくるのか、会社の収支状況、背後関係など、すぐに教えてくれるのだ。作中でも、
「先生の調査網は、確実です」
なんて事あるごとに持ち上げられ、ご本人も、
「そうですか?ハハハ 本業にしようかな?」
これだけの調査能力が現実世界でもあれば、「厳しい第三者の目」なんてなくてもよさそうだが......。
総出演時間はせいぜい30分くらいか。ちなみに、T編集長は7時間かけてクリアした。
総じて言うと、50点くらい
要するに、舛添氏でなくたっていい役回りである。たとえばこれが探偵でも謎の情報通でも、まったくストーリーの進行上問題ない。
いや、クリアした今ならわかる。なにしろ、舛添氏が出て来なきゃ、発売にこぎつけられたかどうかも怪しい地味なゲームなのだ。なんとか話題性を持たそうとしたのだろう。逆に言ってみれば、ビジネスを語れるインテリなら誰でも良かったのだ。
......よりによって、なんで舛添氏を選んだのだろう。本当に。
そういうわけで、このゲームから読み取れるのは、「1992年の舛添要一」が世間からどういうキャラとして見られていたのか、ということぐらいだ。
そしてそのキャラというのは、「知的で、金権や癒着には否定的な、それでいて堅物ではなく、逆境に強い、国際派の、頼りになるタフガイ」といったところだろう。
そんな人物像(=世間からの期待)は、確かに今の舛添都知事の状況から見ると、皮肉なものには違いない。