長崎への移住を、僕らの選択肢に入れてもいいかもしれない理由...「3000円~/日のキャンピングカーで家探し可能」「住民もよそ者に開放的」
東京、大阪などの大都市を離れ、地方へと移住する。ブロガーのイケダハヤトさん(2014年から高知県で活動中)のような人も出てきて、記者(20代後半)の世代の間でも、そんなライフスタイルがひとつの選択肢になってきた。
ではもし、自分が移住を考えるとしたら、どうだろう。仕事などの当てがとりあえずあるとして、気になるのはやはりここだ。
「自分に合った移住先を、ちゃんと見つけられるだろうか?」
近所への引っ越しでさえ、住んでみて後から「失敗した......」なんてことがよくある。ましてや移住となれば、失敗したら後悔どころではない。
なぜキャンピングカーなのか
重要なのは事前の下見だが、遠く離れた移住先候補をじっくり見て回ることはなかなか難しい。特に地方では、移動の足や宿などもなかなか確保できないし、そのコストも馬鹿にならない。
そんな中で、長崎県がユニークなサービスを提供している。移動の足と、宿という役割を同時にこなす存在――「キャンピングカー」を、移住希望者に貸し出すという取り組みだ。
このサービスを利用し、実際に2015年10月、東京から長崎市へ移住した画家の田尻大輔さんに電話で話を聞くことができた。
ピアニストの奥さんとともに、創作・演奏に専念できる移住先を2年ほど前から田尻さんは探していた。東北や京都などの知人を訪ねながら良い場所を探していたのだが、なかなかピンと来る土地に出会えず――。
「そんなとき、ある知り合いから、『長崎を見てみたら?』と勧められました」
それが、15年8月末の話だった。
県内を1週間旅して、意外な結論が
実は県が、全国初となる「キャンピングカー」のサービスを始めたのがこの8月。
貸し出しているのは、定員4人(子ども含む)の軽キャンピングカーだ。移動はもちろん、寝袋やシャワー付きシンクなどの装備が一通りそろっており、宿のない土地でも寝泊りができる。
基本料金は1日8000円(税込)だが、県が提供する「移住先探しメニュー」(先輩移住者との交流や空き家見学など)を利用することで、最安3000円(!)まで値引きされるのが売りだ。
こうしたサービスのことなどまったく知らずに長崎県に入った田尻さん夫妻だったが、「予約も何もせずに行ったのに、県庁の職員さんに親切に勧めてもらえて」(田尻さん)、さっそくキャンピングカーに乗り込み、1週間の移住先探しの旅に出かけた。
最初の5日間は、県庁の担当者と相談してセッティングした土地や施設の見学を中心に。後の2日間は自由日程で。
さて、その結論は――。
「紹介してもらったところはどこも良くて、結局決められなかったんです。どの町にも魅力があって、『長崎ならどこに住んでもいいな』と。だから引き続き腰を落ち着けて探そうと思って、道中で知り合った方から紹介してもらった長崎市の物件に入居することにしました」
安全と気候の良さは魅力
移住から4カ月、田尻さんは「食材なんかも安くて安全ですし、楽しく過ごせています。この間は大雪が降りましたが、基本的には東京よりは温かいですね」と最近の生活を語る。
長崎県も、地元の「暮らしやすさ」を強調する。県がまとめたデータによれば、
・空気のきれいさ(全国1位)
・犯罪発生率の低さ(同3位)
・真夏日と冬日以外の日数(同5位)
・地震発生数の少なさ(同6位)
・人口10万人あたりの医師数(同8位)
などなど......。温暖な気候と、さまざまな面での「安全さ」は、確かに移住希望者にとっては魅力的だ。
今や日本中の自治体が、移住者を地元に引き込もうと争奪戦を繰り広げている。長崎県も、移住に関心がある人向けに滞在料金の割引などが受けられる「ながさき移住倶楽部」制度を作るなど、さまざまな手を打ってきた。キャンピングカーもそのひとつだ。
一番の長所は「人の優しさ」
長崎県によれば2015年8月のサービス開始以来、利用者は田尻さん夫婦を含めて11組に。人気はじわじわ上昇中だ。20代から60代までその層は幅広く、1~3日の短い日程で借りる人もいれば、田尻さんのように1週間という長旅を選んだ人もいる。
今回の取材で印象的だったのは、「県民の方が、皆さん優しい方だった」と、田尻さんが繰り返していたことだ。
これまでにも書いた通り、田尻さんの職業は画家だ。安定しない仕事と見られるのか、東京などでは家を借りるなどする際、苦労することもあったという。
「でも、長崎ではどこの人もそういうことがなく、移住を考えていることを話すと『気軽に来てみたら』と言ってくれました。見学先などでもどこも親切にしてもらえて......。よそから来る人に対して、開放的に接してくれる土地なんだな、と」
こうした県民の人柄が、田尻さんの移住を後押ししたことは言うまでもない。
長崎での生活にも慣れてきた田尻さんは、のびのび絵筆をふるう毎日を送っている。人であふれた忙しい東京を離れ、ストレスも減り、おかげで絵にも変化が出てきた気がする――そう語る田尻さんの声は、とても明るかった。