若者の年賀状離れ、江戸時代の侍に聞いてみたら...「手紙で済ます? 江戸なら叩っ斬られるでござるよ!」
「最近の若い者は、年賀状もろくに出さない!」――おじさんたちの怒りの声が、巷に響く今日この頃である。
「お世話になった人に1年の感謝を伝える。新しい年もよろしくとお願いする。しばらく会ってない人の近況もわかる。こんな素晴らしい日本の伝統が廃れるなんて、世も末だよ!」
なるほど、確かにゆゆしき問題かもしれない。
そこで編集部では新年特別企画として、江戸時代の侍をタイムスリップさせて、現代の「年賀状離れ」に喝を入れてもらうことにした。
侍「そもそも年賀状ってなんでござるか?」
――というわけで、江戸時代から侍を召喚しました。
侍 あ、あれ......ここは何処? 拙者はいったい何を......? うわあ! 拙者の屋敷がすごいことになってるでござる! ひえええ、鉄のイノシシがー!
戸惑う侍に、今回の企画趣旨を説明し、編集部オフィスまで同行いただく。
――このたびはご足労いただき、ありがとうございます。
侍 はあ、これはご丁寧に痛み入るでござる。いまひとつ状況が呑みこめないままでござるが......。
――実は今回、現代(2016年)の若者が、日本の伝統である「年賀状」を出さず、LINEなどだけで済ませるケースが増えていることについて、江戸時代から来ていただいたお侍さんにガツンと言っていただきたいと思い、インタビューをお願いいたしました。
侍 ......ねんがじょう?
――え?
侍 「ねんがじょう」って、なんでござる?
――ほら、正月に送る......。
侍 ああ、年始のあいさつ状でござるか。それなら、拙者どもの時代にも確かにあったでござるが......。
――はい、現代ではこういう年賀はがきを使っているんですが。
侍 え?
――え?
侍 え? なにこれ、現代の世ではこんなぺらっぺらの紙一枚で年始のあいさつ済ませてるの?
――は、はあ......。
侍 ありえないでござるよ!
侍「年始のあいさつは直接会って言うべき」
――ま、まあ確かに文章量は少なくなったかもしれませんが、でも年賀状って日本の伝統なんですよね?
侍 いや、確かに江戸でも、書状で年始のあいさつをすることはあるでござるよ。されど、それは遠方に住んでいる相手とかだけでござる。同じ江戸に住んでいる相手なら、直接お目にかかってねんごろにあいさついたす、これ常識。書状でおしまいってのは、よっぽどの略式でござる。
――は、はあ。でもそれは、現代と比べて江戸だと、相手の人数が少ないからで......。
侍 ......お主、その年賀状とやらは何枚出される?
――僕は50枚くらいですかね。
侍 拙者は年始回りとして、3が日だけで軽く100人は会いに行くでござるな。
――えー!?
侍 武士は人間関係が第一でござる。もちろん、全員にお会いできるわけではないし、玄関で軽くあいさつするくらいで済ますお宅も多いでござるが、とにかく直接お邪魔する、その精神が大切なのでござる。だから3が日など、江戸の市中は非常な混雑でござるよ。正月マジ忙しい。
――そうだったんですね......。
侍 それを何、こんな紙っきれを飛脚に送らしておしまいとか、江戸なら相手によっては叩っ斬られても文句言えないでござるよ。切腹命じられてもやむを得ないれべる。
年賀状が広まったのは明治時代、それも日清戦争後
――てっきり、年賀状って昔からの伝統かと思い込んでいました。
侍 ああ、多いんでござるよそういうの。江戸なしぐさとか。そもそも年賀状が確立したのって、郵便制度ができた明治以降でござるからな。みんながやるようになったのは、せいぜい日清戦争後らしいでござるよ。
――......江戸時代の方ですよね。
侍 おっと。
――ちなみに現代の若者は年賀状の代わりに、LINEなどのSNSで年始のあいさつをしています。Jタウンネットのアンケートでも、回答者の3割近くがSNS、またメールなどを使っているそうです。
侍 らいん......とな? なにこれ、すっごい便利。え、これでもう全部済ませてよくないでござるか?
――年賀状は叩き斬るとか言ってたのに......。
侍 ははは。まあ時代が変われば、あいさつの方法も変わって当然でござるよ。肝心なのは、変に形を押し付けることではなく、それを通じて伝える真心ではござらんか。年始回りであれ、年賀状であれ、らいんであれ。
――なるほど。本日はありがとうございました。
侍 こちらこそ、かたじけない。
というわけで、今回は江戸時代の侍をお招きしての特別インタビューをお送りした。みなさま、Jタウンネットを2016年もなにとぞよろしくお願いいたします。