似てるようで全然違う!? 「練馬」と「東武練馬」、魅力的なのはどっちだ
大根の産地だったことで知られる東京の練馬区は、東京23区の中で都市化するのが遅かった。よくいえば自然豊かなのだが、千代田や中央区民から見れば"半分埼玉"と言われても仕方がない。
そんな練馬区も人口は72万人を超え、規模だけでいえば政令指定都市の熊本市と大差ない。区役所の最寄りは練馬駅で、西武池袋線・同有楽町線・同豊島線・都営地下鉄大江戸線の4路線が乗り入れる。
区内には練馬を冠する鉄道駅がほかに3つある。このうち東武練馬駅は住所が板橋区徳丸であるにもかかわらず「練馬」を称しており、混同する人がたまにいる。
Jタウンネットのライバル対決シリーズ、今回は練馬と東武練馬を比較する。
そもそも何で板橋なのに「練馬」なの?
東武練馬駅はギリギリ板橋区に属しているものの、南口を出た瞬間に練馬区北町に入ってしまう。というのも一帯はかつて川越街道沿いに発達した「下練馬宿」と呼ばれていた。2012年発行の「私たちの練馬」(練馬区教育委員会)によると、明治20年(1887年)頃は区内で唯一まとまった集落だった。
似たようなケースとしては髙島屋新宿店が挙げられる。住所は渋谷区千駄ヶ谷なのに、JR新宿駅につながっていることから「新宿」を名乗っている。
東武鉄道が最寄りの街村の「練馬」を採用したのは、決しておかしなことではない。
ちなみに1947年まで練馬区は板橋区の一部だった。練馬区独立60周年記念誌ねりま60を開くと、分離独立運動や独立運動に貢献した人々に結構なページ数を割いている。まるでアメリカの初代大統領ジョージ・ワシントン級の扱いである。
西武の駅舎は平成なのに、東武の方は昭和レトロのまま
本題の対決に移ろう。1本目は交通機関対決からだ。
練馬駅は各駅・準急・通勤準急・快速・快速急行の5種別が停車し、乗降人員も11万人を超える。これに都営地下鉄大江戸線の7万3396人も加わる。1990年代に高架化され、エスカレーターやエレベーター、エアコン完備の待合室などを備える。
西武池袋線の起点である池袋をはじめ、新宿三丁目、渋谷、自由が丘、横浜、永田町、有楽町、銀座一丁目、豊洲、新木場まで1本で行ける。
都営地下鉄大江戸線が開業したのは1991年のこと。最初は練馬区内を走るだけだったが、2000年に全線が開通。都庁前、新宿、青山一丁目、六本木、大門へ乗り換えなしで行けるようになった。
便利なのは鉄道だけではない。駅から徒歩5分ほどのところにある区役所前には、群馬や信越、北陸方面の高速バスが停車する。
一方の東武東上線東武練馬駅。上り(都心)方面で目ぼしい駅といったら大山と池袋くらいだ。
1日当たりの乗降人員は6万197人。普通(各駅)しか停まらないにしては利用者が多い。
とにかく駅施設がしょぼい。開業当時から地上駅なのは変わらず、冷暖房完備の待合室はもちろんのこと、エスカレーターやエレベーターも設置されていない。
東武練馬駅の西側にある踏切。終日混雑しており、いつ事故が起きてもおかしくない。
交通機関の勝負では、東武練馬にほめるところはほとんどない。練馬の大勝利だ。
買い物や娯楽が充実している東武
東京23区内にある鉄道駅の中でも、みすぼらしさでは下から数えた方が断然早そうな東武練馬駅。
さえない設備ながら利用者が多いのは「イオン板橋」の存在が大きい。商業施設面積は約4万3500平方メートルと板橋区最大だ。シネコンが設置されていることから、休日ともなれば大勢の来場客で賑わう。
駅から約700メートル離れた場所には「ドン・キホーテ練馬店」がある。川越街道と環状八号線が交差する練馬北町陸橋に面していて、ボーリング場とネットカフェも同じ建物内にある。
練馬駅前にこれに相当するものは存在しない。昨年4月に「ココネリ」(Coconeri)という複合施設が北口にオープンしたが、目ぼしいテナントはスーパーのライフとユニクロぐらいで、周辺住民は「期待していたほどではなかった」とこぼす。
練馬区内の商業集積地は大泉学園と光が丘。練馬駅周辺の映画館はかなり前になくなった(ただし隣の豊島園駅にシネコンがある)。
夜の街の顔を持つ練馬駅周辺
練馬駅周辺の開発が進んだのは1930年代以降のこと。目白通りと環状7号線の整備に合わせて区画整理が実施された。戦後に区役所が設置され、現在の繁栄に至る。
駅前の商店街から食料品を扱う店は姿を消しつつある。代わって出店するのはキャバクラや居酒屋などの飲食店だ。もはや繁華街といった方が適切かもしれない。夜はやや荒れた雰囲気になる。
東武練馬は宿場町以来の伝統を引き継ぎ、商店街は東西1キロ以上に広がっている。イオンに買い物客を奪われているものの、街道の情緒も残っている。
ショッピングと娯楽で魅力があるのは東武練馬だ。
アニメとの親和性が高いのは?
東武練馬にはもう一つ強力な施設が存在する。ドン・キホーテ練馬店の隣に陸上自衛隊練馬駐屯地があるのだ。東京・神奈川・埼玉・静岡・山梨・千葉・茨城の防衛を担う第1師団が置かれていて、迷彩服姿の自衛隊員がよく目撃される。
コワモテなイメージで見られがちだが、2015年4月12日に開催された創立記念行事では、アニメに精通した隊員たちの存在がツイッターなどで暴露された。
【速報】練馬駐屯地の自衛隊が神すぎてヤバイ pic.twitter.com/kfXwdMxFH8
— ゆるふわ陸士☆埼玉 ニコ超両日 (@santourikusi) 2015, 4月 12
キャラという点では練馬駅周辺も負けていない。区行政の中心だけあって彫刻やオブジェがやたらある。
庶民目線からすると、気品にあふれすぎている気がしないでもない......。
ところで練馬は、1981~1986年に「週刊少年サンデー」に連載され、アニメや映画にもなった青春野球漫画の金字塔「タッチ」の舞台である。あだち充先生は明言していないが、作中の風景によく似た場所が練馬駅周辺に点在する。
アニメ制作会社の数でいえば東武練馬は練馬の足元にも及ばない。所在地で多いのは石神井公園・大泉学園だが、練馬駅周辺に立地する企業もいくつかある。
区の実施したアンケートによると西武池袋線・新宿線沿線は「家賃が安い」「取引先が近い」「交通が便利」という条件を備えていることから選ばれている。
アニメとの親和性ということでは、練馬の方が断然上。
街のランドマークといえば何?
街の都会度を手っ取り早く判定する方法、それは高層ビルの数ではないか。
1996年に完成した練馬区役所庁舎は20階建て。地上80メートルの最上階には富士山を見渡せる展望ロビーやレストランなどがある。
その練馬区役所とスカイウェーで連結しているタワーマンションが、高さ116メートル
35階建ての「ディアマークスキャピタルタワー」だ。この2つのビルが練馬駅のランドマークと言っていい。
2009年に竣工したタワーマンション「プラウドタワー練馬」も高さが約98メートルある。
東武練馬に区庁舎レベルの高層ビルはなく、ラインマークとなるのはやっぱりイオン板橋になるだろう。
集落としての歴史は東武練馬が先輩に違いない。しかし近代的な街並みでは練馬が東武練馬を引き離す一方だ。
練馬区に潜む「区内格差問題」
以上、4つのテーマから練馬と東武練馬を比較したが、3対1で練馬の勝ちとなった。
標高があって地盤も固く、交通インフラもしっかりしていることから、練馬駅周辺に住まいを求める人は増え続けている。
大小のホールを備えクラシックやバレエの公演が催される練馬文化センターに練馬公民館・図書館と、箱物施設も揃っている。
一方で東武東上線沿線の「北部」と西武新宿線沿線の「南部」の住民から、「西武池袋沿線ばかり優遇して!」と怒りの声が挙がっている。確かに東武練馬駅の現状を見ると......。