男のロマンがここに...新宿区牛込の銘菓「おっぱいちゃん」を食す
東京都新宿区は、かつての牛込区・四谷区・淀橋区が1947年に合併して誕生した区だ。
このうち旧牛込区エリアは神田川沿いを除き高台になっている。古くに牧場があり、牛が多くいたことから名付けられたという。
Jタウンネット編集部は、そんな牛込に風変りな和菓子が売られているという情報をキャッチした。早速現地へ向かった。
老舗が開発した和菓子の正体
目当ての和菓子処「船橋家」は、牛込中央通りに店を構える。
JR市ヶ谷駅から外堀通りを西に進み、ソニーミュージックの前を通り過ぎて、ガストのある交差点を左に曲がる。ここから西北に延びる坂道が牛込中央通りだ。東京メトロ市ヶ谷駅5番出口、または都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅を利用してもいいだろう。
道なりに真っすぐ歩いて約600メートル。左前方に、手書きの道徳的格言をガラス越しに掲示する店が見える。これが船橋家だ。
店の正面に進む。右上の貼り紙に目がとまった。赤文字の「命の源」「永遠のあこがれ」に続いて書かれている「おっぱいちゃん 180」。どう見ても男目線なキャッチだ。
棚の上に視線を移す。おっぱいちゃんが透明のケースに入っている。きれいなピンク色をした乳首(ほかに書きようがない)がまぶしい。
店頭には誰もいない。呼び鈴を鳴らすボタンが置いてあった。
初来店なら若干身構えする人もいるだろう。「どんな店主が出てくるんだろう......。説教臭くて、かつエロい親父だったら嫌だな」。小学生の頃のピンポンダッシュ以来、久々に姑息なことをする覚悟はできていた。
恐る恐るボタンを押す。すると店の奥から「は~い♪」と年配の女性の声が。出てきたのは、笑顔を絶やさない白髪の女性。喋り方も丁寧で、きちんとした教育を受けた江戸っ子の末裔という雰囲気だ。実際、船橋家は創業100年以上の歴史を有する。堂々の老舗だ。
陳列棚を眺める。定番の草餅、さくら餅なども置いてあるが、どうしてもユニーク和菓子に目が行ってしまう。どら焼きの形をした「インドラ」「カボチャクリーム」、季節限定の「ホワイトモンブラン」などなど。歴史に甘んじることのないチャレンジ精神にしびれる。
悩んだ挙句、おっぱいちゃん、インドラ、豆大福を2個ずつ購入した。
店の両サイドに目をやると、阪急ブレーブスが優勝した時の新聞のコピーや、上田利治監督のサイン入り写真が飾られていた。彼女は「私、ファイターズの大ファンなんです」と嬉しそうに言った。ええで!
賞味期限について尋ねると、次のようにアドバイスしてくれた。
「豆大福は今日中に召し上がってください。おっぱいちゃんは3日くらい。インドラは賞味期限がラベルに書いてあります」
豆大福は一つにして、その代わりホワイトモンブランにしても良かったかな――。少々後悔しつつ、自宅に持ち帰って試食した。
おっぱいちゃんはデリケート
誰がいったか知らないが、「京都の生八つ橋と女性の乳房の感触は一緒だ」と主張する人がいる。筆者も「おっぱいちゃんは生八つ橋、そして女性の乳房に近い肌触りかも」と勝手に決めつけていた。
おっぱいちゃんからアルミホイールを取り除こうと軽くつまむ。あれれ、押した部分が回復しない。少なくとも生八つ橋よりかは繊細だ。
中身を分析すべく包丁でスライスしようとしたが、粘り気があってうまく切れない。なんとか2つに割るときれいな白餡(しろあん)が。リンゴの甘煮も顔をのぞかせる。
まるで火照った肌のように見えるのは、乳首と同じ色の練り切りを薄い皮にして、その上からさらに皮を重ねているから。2個目は手でちぎって食べたが、なぜか罪悪感が胸に去来した。
気になるお味だが、遠い赤ん坊のころの記憶が蘇ってくる......ということはなく、正統派な和菓子だった。ミルキーなこともあって、かなり甘め。カロリー表示はないけれど、糖分が気になる人は1個、いや半分ずつでもいいかもしれない。
おっぱいちゃんの製造が始まったのは昭和60年代だという。ということは約30年の歴史があるわけだ。販売開始当初と全く同じ味かどうかは不明だが、和菓子としての完成度は高いように思われる。
同店は日曜祝日を除く平日の朝8時から開店している。筆者が訪れた土曜は14時頃でも購入できたが、大量注文のある日は早く売り切れることもあるそうだ。
お得感たっぷりの豆大福
黒豆たっぷりの豆大福。お店の公式サイトには次のように書かれている。
「大きさ90g100円。当店が作っていて一番もうからない品物です。でも一番うまくてすいません。一年中作ってます。数を買って下さる方は前日電話下さい」
筆者が購入したときは120円だった。断腸の思いで値上げしたのだろう。豆の量が多いほかは、いたって安定した味の豆大福だ。
インドラは並みのインドカレーより辛いかも!?
そしてインドラ。カレールウやビーフエキス、玉ねぎなどを使った、見かけ以上の本格派だ。
アーモンドを使っているところはちっとも和菓子っぽくないけれど、カリッとした感じが独特の食感を生み出している。
それまで食した和菓子が甘かったというのもあるが、飲み物なしでは食後がつらくなりそうなほど辛かった。
船橋家の住所は新宿区納戸町。隣に駄菓子屋があったり、通りの斜め向かいには昔ながらの酒屋があったりと、どこか懐かしい雰囲気のする場所だ。
半ば観光地化した神楽坂から歩いて10分もしないが、昭和の東京の匂いを感じたいなら、むしろこちらの方がお勧めかも。