「ないんだな、それが」の人に会いたくて、栃木県に行ってみた
「Q.栃木の魅力は?」
「ないんだな、それが」
ネットが好きな方なら、この青年の笑顔を一度は見たことがあるだろう。
元々はこの画像、2008年に放映されたニュース番組の街頭インタビューの一幕だ。しかし、いかにもなヤンキー風のリーゼント、それとは対照的な屈託のない笑顔、そして「ないんだな、それが」という強烈な一言がネットユーザーの心をつかみ、今日までネタ画像として愛されてきた。
あの彼は、今どこで何をしているのだろうか。「日本一有名な栃木県民(ネット限定)」の手がかりを求めて、編集部は栃木県へと飛んだ。
手がかり?ないんだな、それが
栃木県宇都宮市、「オリオン通り」。
JR宇都宮駅から徒歩でおよそ20分、若者も多く集まるにぎやかな商店街の一角――そう、ここは6年前、「ないんだな、それが」氏が街頭インタビューを受けた場所だ。
6年の月日が経っているとはいえ、彼と出会える可能性が最も高いのはこのオリオン通りと見て間違いあるまい。
さらに捜索開始直後、衣料店の店頭で発見したのが、この風神・雷神Tシャツだ。袖の長さが違うので別商品ではあるが、「ないんだな、それが」氏が着ていたのもよく似た風神・雷神Tシャツだった。
また街角には、自転車を派手に改造し、ヘルメットに黒マスクという出で立ちで「○○(店名)の前あたりは俺らがシメてんかんな!」と吼える、まるで漫画のようなヤンキー少年(たぶん中学生)の姿もある。
間違いない、この町こそが彼のホームグラウンド――確信を得た筆者は、アンテナショップ「宮カフェ」で購入した「うつのみやゆめサイダー」でのどを潤しつつ、捜索を続行する。
......約2時間後。オリオン通りを隅から隅まで何度か回ってみたが、「ないんだな、それが」氏は影も見えない。思えば、オリオン通りでインタビューに答えていた、という以外なんの手がかりもない。企画は早くも手詰まりに......。
やきそばの具?ないんだな、それが
いや――気を取り直さないと。あてずっぽうに歩いているからだめなのだ。もっと狙いを絞らなくては......。
と、腹が鳴る。ちょうど昼時だ。そこで思いつく。そうだ、人間腹が減れば飯を食うはず。ならばこの時間帯、食事処こそが「ないんだな、それが」氏と遭遇確立の高いスポットではあるまいか。
となれば、やはり宇都宮名物の餃子屋――と考えるが、すぐに思い直した。観光客ならいざ知らず、彼はバリバリの地元民だ。行くとすれば馴染みの、いわば「地元ならでは」のお店ではないか。
そのとき思い出したのが、以前Jタウンネットの記事に寄せられた読者からのつぶやきだ。
「宇都宮って、餃子屋以外に行くところあるんですか?」 - ニュース - Jタウンネット 東京都 http://t.co/XlNmZjwye9
宇都宮東武裏手の焼きそば。
— Marbie Marker (@kanako_c3) 2014, 5月 24
@slowin_fastout あの「具が入っていない焼きそば」を食べに、わざわざバイク飛ばして横浜から行った覚えがあります。けっこう美味しくて、また食べたいな、と宇都宮の景色を見るたびに思っていたりします。
— Marbie Marker (@kanako_c3) 2014, 5月 24
駅裏手の「具の入っていない焼きそば」――これこそ、地元ならではのお店に違いない。探してみると、オリオン通り沿いのイベント会場「オリオンスクエア」のすぐそばに、「やきそば」とだけ書かれたお店が。おそらくはここに違いない。
ここの焼きそばはお値段250円(並。大盛りでも300円)。上記のツイートにもあるとおり、具はキャベツしかない。
そしてツイートにあるとおり、これがうまい。とにかく普通の焼きそば(しかも具なし)なのだが、箸が止まらない。250円とは思えない結構な量があるのだが、あっという間に平らげてしまった。
......と、食べているうちに完全に本来の目的を忘れていた。「ないんだな、それが」氏はお店にいませんでした。はい。
レモン牛乳?(他県には)ないんだな、それが
筆者は、オリオン通りから範囲を広げつつなおも捜索を続けた。
まず足を踏み入れたのがドン・キホーテ。地方の若者といえばドン・キホーテ、これは遭遇確率も高いのでは――と踏んだが、ここは品ぞろえなどが普通のスーパーに近い「MEGA」タイプの店舗だった。客層も、むしろ普通のおばちゃんたちが多い。
大通り沿いのコンビニも覗いてみた。コンビニなんてどこも同じ――と思いきや、飲料品のコーナーにはなんと栃木名産「レモン牛乳」が! 思わず購入し、さわやかな香りと甘さを存分に味わう。
と、目に飛び込んできたのは、以前にもJタウンネットでも取り上げたローカルヒーロー番組「雷様剣士ダイジ」(とちぎテレビ)の看板ではないか。今のこの栃木の平和も、ダイジによって守られていると思うと感慨深い。
オチ?ないんだな、それが
気が付けば、探索のタイムリミットが近づいていた。正直、本当に会える可能性は限りなく低いとは思っていたが(本音)、さすがに焦る。オリオン通りの喫茶店「下野新聞NEWS CAFE」に入り、「ないんだな、それが」氏がいそうなスポットを調べることにした。
この「NEWS CAFE」は地元紙・下野新聞が運営しているという一風変わったカフェだ。各席には下野新聞が1部ずつ備え付けられている。これを読みながら手がかりを探していると、ある事実に行き当たった。
「宇都宮市では近年、若者は中心部より、郊外の新興商業地区『インターパーク』に集まる傾向がある」
い、今までの捜索はなんだったのか――すでに夕方も近い。ただちに駅に戻り、インターパーク行きのシャトルバスへ乗り込む。バスの中は若者たちでギュウギュウ詰めだ。カーテンを乗客が閉めてしまったので、外の景色は何もわからない。
売られていく牛のように揺られること数十分。
そこには、まるで遊園地のように果てしなく広いショッピングモールと、さまざまな関連施設が立ち並んでいた――。
結論から言えば、あまりに広大な敷地で、「ないんだな、それが」氏を見つけることはできなかった。だが、ひとつわかったことは、栃木の魅力が「ないんだな、それが」なんてとんでもない。うまい焼きそばにレモン牛乳、ご当地キャラにユニークなお店、立派な商業施設と満喫した筆者は、勝手に満足して宇都宮を去ったのであった。