ご当地グルメに歴史ミステリー 根室と平戸に伝わる「オランダせんべい」の謎
北海道の最東端に位置する根室市と、九州本土の市としては最西端にある長崎県平戸市は、直線距離でも約1700キロ以上も離れているが、両市のご当地菓子はうり二つといっていいほど似ている。
北海道なのに「オランダ」
直径16センチほどの円形をした「オランダせんべい」は、根室市にある端谷菓子店が製造・販売している焼菓子だ。当地では複数の店がオランダせんべいを製造・販売していたが、1965年ころから続く端谷菓子店が商標登録している。
根室のソウルフードでありながら道内でも一部の人しか知らない幻のフードだったが、約6年前に店主の三男が脱サラして札幌に店を出しているほか、北海道アンテナショップ「どさんこプラザ」や通販でも購入している。

オランダせんべい(編集部撮影)
東京のどさんこプラザで偶然みかけたオランダせんべいは1パック4枚袋。商品情報欄を見ると札幌で製造された商品のようだ。

第一印象は「マンホールのフタみたい」。オランダ人の靴底を模したところからオランダせんべいという名前が付いたという説や、オランダ坂の凸凹した石畳に似ているからという説があるけれども、実際のところはどうなのか――ふにゅっと折り曲げられる反面、弾力性がある。
せんべいというネーミングとは裏腹に、しっとした食感でコシがある。そのままかぶりつくよりも、電子レンジなどで一度温めてから、手でちぎって細かくして食べた方がよさそう。

原材料は小麦粉・砂糖・黒砂糖・植物油・塩・重曹。厚さは1センチもないけれども、力をこめないとうまくちぎれない。黒砂糖らしき物体が顔を出し、噛むとほのかな甘みが口に広がる。2枚も食べると少々あごが疲れてしまい、残りは翌日に回した。
何もつけずに食べたが、袋には「バターやはちみつをつけて食べるのも美味です」と説明があり、なるほどと思った。
ルーツは長崎県!?
それにしても、なぜ最果ての地で洋と和が合体した焼菓子が製造・販売されているのか。調べていくと、本土最西端の長崎県平戸市にオランダせんべいにそっくりな商品のあることが判明した。「おらんだ焼」と「オランダ煎餅」だ。

おらんだ焼とオランダ煎餅(ブログ「よござんす日記」より)
おらんだ焼は根室の「オランダせんべい」に近い大きさだが、パキッと固くてクッキーのような風味だという。「オランダ煎餅」は一回りサイズを小さくしただけで素材も味も一緒。
おらんだ焼がいつ頃から製造・販売されるようになったかは不明だが、江戸時代、西洋との窓口だった平戸でこのタイプの焼菓子が生まれ、徐々に東へ広まっていき、根室にも伝わった...という説が有力だ。
全国的な焼菓子には発展しなかったが、日本の周縁部のご当地フードとして残っているのは興味深い。