河村市長「名古屋城天守閣を木造建築に!」→市民の支持たったの15%
1945年5月14日の名古屋空襲で惜しくも焼失してしまった名古屋城の大天守や小天守、本丸御殿などの建築群。もし残っていたら世界遺産に登録されていただろうと言われるほど絢爛豪華な建物だった。
現在の天守閣は1959年に再建された。内部にはエレベーターが設置され足腰の弱った人でも登楼できるようになっており、名古屋のシンボルの1つとして親しまれている。
本丸御殿跡の方は半世紀以上も手つかず状態だったが、2008年から焼失した建物を忠実に再現する工事が始まった。総工費は約150億円といわれている。
河村市長は木造建築至上主義
本丸御殿が完成すれば、これで戦災によって失われた主要建築物の再建もひと段落――と思いきや、現状に不満を持っている人物がいる。河村たかし名古屋市長だ。
実は天守閣は、元の木造ではなく鉄筋コンクリートで再建されている。外観は再現しているものの、「日本三名城」と言われたかつての姿を完全に取り戻しているとは言いにくい側面が、確かにある。
市長は2009年の定例記者会見で「天守閣を木造で再建する」という考えを明らかにし、マニフェストの1つに掲げている。
再建中の本丸御殿に木造天守閣がマッチするのは確かだが、問題はその工費。総額で300億円を超え、しかも国内で材料を全部調達するのは困難と言われている。同じものを目指してもどこかで食い違いが生じてしまう可能性は高い。しかも定期的に改修=メンテナンスを行わなければならない。姫路城の「平成の大改修」は約28億円の費用がかかり、工期は約5年だ。
市民は意外とクール
根強い反対論がある中で、市は、2013年2月21日から3月3日にかけてネットアンケートを実施した。モニター447人から有効回答を得ている。
その結果が先日公表されたが、「現在の天守閣を今後どのようにしていくとよいと思いますか」という問いに対しては、71%の人が「現在の天守閣を存続させて、耐震補強や改修を行う」に賛意を示している。一方「現在の天守閣を解体して、木造で復元する」を支持した人は15.3%しかいなかった。
また「名古屋城の魅力向上のために必要だと思うことはなんですか(複数回答可)」という設問に対しては、「花や緑の豊かな自然環境の維持」が50.6%の支持を集め、「まつりやイベントの充実」が49.2%、「櫓や門など歴史的建造物の復元・修復」が42.2%と続いた。河村市長が推す「天守閣の木造復元」は、18.2%しか集まらなかった。
世界的に通用する観光拠点に育てたいという市長の考えと、市民の憩いの場としての充実を望む市民との意見の食い違いが露呈した形だ。
名古屋市は市税の伸びが期待できない中、市民税の恒久減税を実施している。市債残高は大阪市や京都市ほどではないものの、福祉・医療費などの扶助費は年々増加しており、余裕のある財務状態とはとてもいえない。
現在のコンクリート大天守もあと50年の寿命があると言われている。「今急いで立て直さなくても。現在の建物もそれなりに皆に愛されているのだし」というのが市民の本音というところだろう。