人的資本開示、進んだはずが現場は「手作業」 上場企業の7割が直面する意外な壁
企業が人材をどのように育て、活用しているのかを投資家に示す「人的資本情報」。上場企業では開示が定着しつつある一方、その裏側では、複数のシステムから数字を集め、表計算ソフトなどで編集する作業が残っている。人的資本経営が注目されるなか、企業の課題は「何を開示するか」から、「どう経営に生かすか」へ移り始めている。
人事領域のITコンサルティングを手掛けるオデッセイが、上場・非上場企業の経営者や人事担当者500人を対象に実施した調査によると、人的資本情報を「積極的に開示している」と回答した上場企業は68.3%に上った。「義務項目のみ開示している」を含めると、開示を行う上場企業は89.8%となる。

一方、非上場企業では、「管理のみで開示していない」「管理も開示もしていない」とする回答が合わせて67.5%を占めた。制度上の要請が強い上場企業と、直接的な開示義務がない非上場企業との間で、取り組みの差が広がっている。
ただし、開示が進む上場企業でも、実務の効率化は十分とはいえない。有価証券報告書に人的資本情報を記載している企業のうち、71.9%が集計や編集の一部、または全部を手作業で行っていた。

特に負担感が大きかったのが、一部をシステム化しながら、最後は人手で編集している企業だ。この層では75.4%が作業負担を感じており、完全に手作業で対応している企業を上回った。システムを導入していても、人事、給与、勤怠、タレント管理などのデータが分散していれば、結局は担当者が数字をつなぎ合わせる必要がある。
人的資本情報を巡る関心は、単なる開示から経営効果の検証にも移っている。上場企業の38.5%は、人的資本への取り組みが経営に与える効果をシステムで確認できていると回答した。さらに46.5%が「確認したいができていない」と答えており、両者を合わせると84.9%が定量的な効果検証を志向している。

一方で、効果を検証できている企業ほど、「人事データが複数のシステムに分散し、一元管理できていない」という課題を挙げる割合が高かった。人的資本への投資と売上、利益、生産性、離職率などの関係を分析するには、人事データだけでなく財務データとの連携も欠かせない。
調査では、「自社として管理・開示すべき項目を決められない」が33.2%で、3年連続の最多となった。今後強化したいシステム機能では、「人事・給与・タレントデータの一元管理と、人的資本のPDCAに必要な情報の提供」が38.4%でトップだった。

人的資本情報の開示は、制度に対応するための報告業務から、人材投資の成果を測る経営基盤へと変わりつつある。ただ、データが各部署やシステムに散在したままでは、開示項目が増えるほど担当者の負担も増える。人的資本経営を実効性のあるものにするには、目立つ指標を並べるだけでなく、日々の人事データを統合し、継続的に検証できる仕組みづくりが求められそうだ。
※調査は2026年6月8~9日、経営者層および人事担当者500人を対象にインターネットで実施。株式会社オデッセイ調べ。