スキルミオン結晶のリザバーコンピューティング機能を実証
IoT社会を支える高性能な情報処理素子の実現に道
スキルミオン結晶のリザバーコンピューティング機能を実証 ~ IoT社会を支える高性能な情報処理素子の実現に道 ~
詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください。
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102172/202208024665/_prw_PT1fl_180K7QyH.png】
早稲田大学理工学術院の望月 維人(もちづき まさひと)教授および同大学理工学術院総合研究所のリー・ムークン次席研究員(研究院講師)は、磁性体の「スキルミオン結晶」がリザバーコンピューティングへの応用に適した高度な機能を備えていることを数値シミュレーションにより実証しました。高度な微細加工や複雑な製造プロセスを必要とせず、安定性や省電力性に優れたIoT社会を支える新しい情報処理素子の実現へ道を拓きました。
研究成果は、アメリカ物理学会発行の『Physical Review Applied』にて、2022年7月29日(金)にオンラインで掲載されました。また、特に注目すべき論文として、本論文誌のEditors‘ Suggestionに選出されています。
本【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202208024665-O2-RKHk920F】
図1:キラル磁性体の薄板試料中に磁気モーメントにより形成されるナノサイズの磁気渦「スキルミオン」と、スキルミオンが周期的に配列した集合体「スキルミオン結晶」、および「リザバーコンピューティング」のアーキテクチャ。スキルミオン結晶が発現している磁性体試料の一方の端で、励振器により局所的に磁気モーメントを励起すると、磁気モーメントの振動(スピン波)がリザバーであるスキルミオン結晶中を伝わる。もう一方の端に到達したスピン波信号を検出器で読み出し、重み行列を使った線形変換を施すことで情報処理が行われる。また、「学習」によって重み行列を最適化することで、それぞれの問題やタスクに対応するコンピューティング機能を実現することができる。
■研究の波及効果や社会的影響
スキルミオン結晶を利用したリザバーコンピューティング素子は、安定性、省電力性、高速応答性といったスピントロニクス素子の長所を兼ね備えていながら、従来のスピントロニクス素子のような高度な微細加工や複雑な製造プロセスを必要としない情報・データ処理素子となります。そのため、将来のIoT社会を支えるユビキタス素子※8の役割を担っていくことを期待されます。
■今後の課題
今回の研究で、キラル磁性体に磁場を印加するだけで発生するスキルミオン結晶が、リザバーコンピューティングに要求される「汎用性」、「非線形変換性」、「短期記憶性」といった性質を高度なレベルで備えていることを実証できました。今後は、音声認識や手書き文字認識など、より具体的かつ実用的な問題において、スキルミオン結晶を利用したリザバーコンピューティングの性能を評価していくことが課題です。また、リザバーコンピューティングに最適な磁性体材料の探索・開発や、信号入力・読み出し素子の設計、入力信号パラメータの最適化などを行い、デバイスとしての性能を高めていくことも重要な課題になります。
■研究者のコメント
今回の研究で、キラル磁性体に磁場を印加する(裏に磁石を貼り付ける)だけで発生するスキルミオン結晶が、高いリザバーコンピューティング機能を持っていることを実証できました。今後の研究開発により、スキルミオンを利用した高性能なリザバーコンピューティング素子が一日も早く実現し、社会実装されることを期待しています。
■論文情報
雑誌名:Physical Review Applied
論文名:Reservoir Computing with Spin Waves in a Skyrmion Crystal(磁気スキルミオン結晶中のスピン波を利用したリザバーコンピューティング)
執筆者名(所属機関名):リー・ムークン(早稲田大学理工学術院総合研究所 次席研究員(研究院講師))、望月 維人(早稲田大学理工学術院先進理工学部応用物理学科)
掲載日:2022年7月29日(金)
掲載URL:https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.18.014074
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevApplied.18.014074