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「すごく耽美」「小説の舞台になりそう」 熊本の山奥にひっそり佇む「白昼夢のような館」の正体は...

松葉 純一

松葉 純一

2022.06.13 08:00
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少し前のことになるが、2022年5月1日、ツイッターに次のような写真が投稿された。

「埋火」(@akeyoake)さんのツイートより
「埋火」(@akeyoake)さんのツイートより

山の中を走る道路だろうか。ガードレールのすぐ向こうに木々が生えている。

そしてその中には、丸い屋根とたくさんの窓を持つ建物が。

「山奥に存在する不思議な建築好き」というつぶやきと共に投稿されたこの写真には、ツイッター上で3万を超える「いいね」が付けられ、こんな声も寄せられてた。

「なんですかこれどこですか? すごく気になります」
「中にヴァンパイアが住んでいますか」
「すごく耽美でとても素敵」
「ホラー感満載やな」
「横溝正史の小説の舞台...... に、なりそうな建物」
「佇まいが完全にホーンテッドマンションのそれ」

なんとも不思議で、ちょっと怖そうな、しかし魅力的な建物の外観に、惹きつけらてしまった人が多かったようだ。Jタウンネット記者もその一人である。

まずは、投稿者の「埋火」(@akeyoake)さんに詳しい話を聞くことにした。

「絵画めいて白昼夢のように思えました」

この建物は、熊本県球磨村にある「森林館」だ。九州最大の長さを誇る鍾乳洞「球泉洞」近くのミュージアムである。

「埋火」(@akeyoake)さんのツイートより
「埋火」(@akeyoake)さんのツイートより

埋火さんがこの場所を訪れたのは、22年5月1日。遠出の際に偶然通りかかり、この建物を発見した。まだ明け方で、空はどんよりと曇っていたという。

写真を撮影したときの様子について、「埋火」さんはこう語った。

「球磨川沿いを進んでいたら、目の前の急斜面に不思議な雰囲気の建物が現れたので、一体何の建物だろうと思いながらシャッターを切りました」
「暗い天候も相まってか、山の斜面の木々の中に異質なデザインの建物が浮かび上がっている光景が、どこか絵画めいて白昼夢のように思えました」(「埋火」さん)

この不思議な建物は、どんな経緯で作られたのだろう。

Jタウンネット記者は、球泉洞を運営管理する球磨村森林組合に取材した。現地の写真も撮影してきたので、合わせてお楽しみいただきたい。

当初別の場所に建てるつもりだった

そもそも「森林館」とは何か。その答えを知るためには「球泉洞」という鍾乳洞について知る必要がある。

球泉洞は全長4.8キロに及ぶ鍾乳洞で、1973年3月に発見された。

「球泉洞は3億年もの時をかけて自然がつくりだした地球の記憶であり、ゴウゴウと音をたてて流れる豊かな水があふれています。山林に降りそそいだ雨が地中にしみこんで作られた『地底の滝』で、それが球磨川に流れ出しています」(球磨村森林組合担当者)

この鍾乳洞が発見されたとき、「森林館」の構想も生まれた。

森林館外観(写真はJタウンネット記者撮影)
森林館外観(写真はJタウンネット記者撮影)
「(球泉洞の発見により)ふだん目にすることのない森林と地底の関係を目のあたりにして、清らかで豊かな球磨川の水は、私たちが育てている森林に源を発するのだという確信をもったのです」
「球泉洞が『森と水のかかわりを実感できる自然の博物館』であるとすれば、『水を生みだす森林、その森を守り育てている林業』の役割をわかりやすく伝えられる博物館をつくりたい。日本の森林・林業の振興に少しでも役だちたい。その夢を実現したのが『森林館』です」(球磨村森林組合担当者)
球泉洞入り口(写真はJタウンネット記者撮影)
球泉洞入り口(写真はJタウンネット記者撮影)

「森林館」の総合プロデューサーを務めたのは、日本で行われたすべての万博に参画した環境デザイナー/プロデューサーの故・泉眞也氏。磨村森林組合が懇意にしていた故・森田稲子氏(日本の林業振興の第一人者、雑誌「日本の森林を考える」発行者)から紹介されたことがきっかけだった。

森林館が立つ場所を決めたのも、泉氏だ。当初は国道に面した山側の駐車場が候補地だったが、現地を見た泉氏が、こう言った。

「球磨川の流れを享受するのも森林館の役割です」

すべてのドームを見られる場所は、一か所だけ

そして選ばれたのが、球磨川を一望できる急な斜面。そこに作られる館の建築家に木島安史氏を推挙したのも泉氏だったという。

「木島先生は当時、小さいながらも秀逸な建築を手がけていた若手の建築家でした。現地を訪れた木島先生は、手帳をひろげ万年筆でスラスラとイメージをスケッチされました。
みな、そのスケッチに魅了されました。そのスケッチが原型となり『森林館』が誕生しました」(球磨村森林組合担当者)

平地の少ない山村に、地盤の確かな急な斜面を利用して建てられた森林館は、「現代の清水の舞台ともいえる構造」であると担当者。深い谷底の美しい水の流れから高い山頂まで、一望に収めることができるという。

特徴的なドームは全部で7つ。しかし、互いに重なりあっているため、見る場所によって4つに見えたり、5つに見えたりする。すべてを見られる場所は1か所しかないという。これらは「周囲の山々のたたずまいをみださないよう、つつましく建っています」。

また、コンクリートの壁にはスギの年輪が刻まれ、床や窓には国産の木材がふんだんに使われている。縦長の窓から球磨川の流れから山の頂きを見ると「切り抜かれた水墨画に包まれるよう」な感覚を覚えるそうだ。

「内に入ると空間はおおきくふくらみ、中の営みを夢多いものにしてくれます。
木島先生は、このドームを『童夢』と称していました」(球磨村森林組合担当者)

1984年に竣工した森林館は、1985年に日本建築学会賞(作品賞)を受賞したという。

球磨川(写真はJタウンネット記者撮影)
球磨川(写真はJタウンネット記者撮影)

森林館は、2012年7月の豪雨災害により被災し休館。2020年7月豪雨災害により再び被災した。現在、館内に堆積した土砂を撤去し、今後の再生に向け業者と協議中だという。

今回森林館がSNS上で話題になったことに対しては、「構築物(建築物)としても大変貴重なものなので、ぜひ再開したいと思い今取り組んでいます。現在は、周辺がまだ、災害からの復興中で危険なところも多く、まだ工事中なので、再開の目途がたってから森林館に足を運んでいただきたい。ただし、球泉洞は再開しているので、森林館を外から眺めることは可能です」とコメント。2023年度の再開を予定しているそうだ。

外観だけでも見てみたいという人は、足を運んでみてもいいだろう。

ただ、周辺の道路も工事中のところが多いので、くれぐれも気を付けて。

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