埼玉にしか「硬筆」の授業はない? 県に真相を確認してみると...
都道府県あるあるはネット上でも鉄板といえるネタのひとつ。「○○は○○にしかない」といった情報もよく見かける。そんなネタのひとつが「硬筆の授業は埼玉にしかない(埼玉は硬筆教育に熱心、とも)」というもの。2018年2月21日にもツイッター上で埼玉あるあるネタとして話題になっていた。
しかし、広島出身の記者も小学生のころに「書き方」という授業で、専用の鉛筆を使って硬筆を習った覚えがある。濃い鉛筆だったので手が黒くなったものだ。埼玉だけでしか硬筆がないわけではないと思うのだが、ツイッターに限らずネット上では同様のネタをよく見かける。そんなこと、本当にあるだろうか。
大規模な展覧会は開催されていた
まずは文部科学省がサイト上でも公開している「小学校学習指導要領」を見てみよう。「第2章 各教科 第1節 国語」の中で、
「硬筆を使用する書写の指導は各学年で行い,毛筆を使用する書写の指導は第3学年以上の各学年で行うこと」
と明記されている。文部科学省の指導要領に書かれているということは、全国的にも小学1~6年生まで硬筆がカリキュラム内に用意されているはずだ。埼玉にだけ硬筆の授業があるとは考えにくい。
何か特別なカリキュラムを用意しているのか......? Jタウンネットは2月22日、埼玉県教育局に取材を行ったところ、担当者は次のように話してくれた。
「硬筆の授業が埼玉にだけしかない、ということはありません」
担当者によると、指導要領にもあるようにカリキュラム上は「国語」の中に「書写(毛筆、硬筆)」が含まれている。小学校の場合、週に1コマ「国語」ではなく「書写(書き方とも)」という時間を設けることもできるという。
「小学1~2年生では筆を使わないので『硬筆』、3年生以上は毛筆が加わるため『書写』といった名前になります。これは埼玉に限らず、全国で同じです。中学や高校で独自に硬筆のカリキュラムを設けているというわけでもありません」
話しを聞く限り、埼玉になにか特別な事情があるようには思えない。となると埼玉の硬筆ネタ、完全にガセ情報なのだろうか。
「ただし、他県では見られない取り組みとして、硬筆と書初めの展覧会を県下で一斉に行っています。それぞれ『埼玉県硬筆中央展覧会』『埼玉県書きぞめ中央展覧会』という名称で、教育委員会や埼玉県書写書道教育連盟などが主催し、小学生から高校生までが参加可能です」
硬筆展覧会は今年度56回目が、書初め展覧会は70回目が開催され、かなりの歴史がある。過去には他県でもこうした大規模な展覧会が行われていたようだが、担当者が把握している限り今ではほとんど聞かれないという。
確かに、記者も子どものころにそんな展覧会に参加した覚えはない。あったとしても個別の書道団体などが開催しているものだった。埼玉では長く続いてきたために、教員の間にも文化として根付いているのかもしれない。
「私もかつて教育現場にいたことがありますが、他県から転校してきた子どもが『こんな展覧会はなかった』と驚くことがありました。展覧会があるからといって特別な書写教育に取り組んでいるわけではありませんが、展覧会が印象に残っていることで埼玉と硬筆に何か特別な関係があると思い込む人もいるかもしれません」
なるほど、謎が大分解明された。展覧会に向けて熱心に練習をした経験がある人もいるかもしれないし、それが「埼玉は硬筆に熱心だ」「埼玉にしか硬筆の授業はない」という感じ方になっていった可能性は十分にある。
また、鉛筆へのこだわりが強いことも確かなようで、「6B」の鉛筆をメーカーに開発依頼したのは埼玉の書写書道教育の研究会だったという。
「硬い書き心地の鉛筆から柔らかい毛筆にスムーズに移行するためには、柔らかい書き心地でも濃くしっかりとした線になる鉛筆が必要になるため、太くて柔らかい『6B』を開発してもらったと聞いています。実際、県内では『6B』の鉛筆がよく流通していますし、『10B』という商品も販売されているようです」
書写教育に熱心な教員が多いことも確かなようだ。ということは、今回の埼玉あるあるを正確に言うなら「埼玉には書写書道教育に熱心な先生が多い」もしくは「埼玉には県の小中高生が参加する書写の展覧会がある」。尖った感じはなくなったが、それでも特色はある。
身の回りに埼玉県出身者がいるという人は、「展覧会はどうだった?」と聞いてみてはどうだろう。