たしかに、ここは世界遺産だ! のぞけば見えてくる「VR観光」の最前線
「あの歴史上の人物は、ここから何を見たのだろう?」。名所旧跡で思いをはせるのは、旅行の大きな醍醐味だ。とはいっても、長い年月を経てなお、そのままの景色が残っていることは、なかなかない。
そんな「いまは見えない」光景を、最新技術で再現する試みが、全国各地で始まっている。そこで今回、Jタウンネット編集部は、佐賀県内にある施設で体験してみた。
秀吉が朝鮮出兵のために作った「幻の城」
天下人・豊臣秀吉は、さらなる発展を目指して、朝鮮半島への進出をもくろんだ。その礎として1592年に築かれたのが、肥前名護屋城(佐賀県唐津市)だ。文禄・慶長の役では、この地を拠点にして、諸大名を朝鮮へ出兵させた。しかし98年、秀吉が死去。7年続いた戦は終わり、主を失った名護屋城は江戸時代の初めに破却された。そのとき本丸や天守閣はもちろん、城として機能しないよう石垣も破壊されたため、400年後のいま、往時の姿を残す部分は数少ない。
そんな「幻の巨城」を、かつての姿に再現させよう。そんな試みが県立名護屋城博物館で行われている。その名も「バーチャル名護屋城」。同館学芸課長の松尾法博さん案内のもと、記者が実際に体験してみた。
おもむろに空へタブレットをかざす松尾さん。GPSなどから位置情報と、かざしている角度が取得され、その方向から見えたであろう建造物のCG映像が映し出された。ぐるぐる周りを見回すと、画面のCGもついてくる。設定されたポイントでは、AR(拡張現実)を活用して、建造物と一緒に「記念撮影」も可能だ。同館では体験用タブレットを無料で貸し出しているほか、自分のスマホにアプリを入れて楽しむこともできる。
地中の世界遺産をスコープで
佐賀市の三重津海軍所跡は、「見えない世界遺産」の異名を持つ。2015年に「明治日本の産業革命遺産」のひとつとして、ユネスコの世界遺産に登録されたのだが、一見だだっ広い空き地だ。しかし、この地中には日本最古のドライドック(船の整備施設)が眠っている。木造のため、掘り起こすと劣化する恐れがあり、発掘調査後に埋め戻されたのだ。
三重津海軍所は1858年、佐賀藩によって開設された。江戸時代に福岡藩と交代で「長崎警備」にあたっていた佐賀藩は、鎖国下ながら西洋の軍事技術にも、強い関心を持っていた。そのノウハウを生かしたこの地では、監督である佐野常民のもと、日本初の実用蒸気船とされる「凌風丸(りょうふうまる)」を造船するなど、佐賀藩海軍の拠点となった。
そんな三重津海軍所跡の秘密兵器が、隣接する佐野常民記念館で無料貸し出している「みえつSCOPE(スコープ)」だ。耳にイヤホンをつけ、首からスコープをかける。「みどころスポット」へ近づくと、音声ガイダンスとともに、スコープ内にVR(仮想現実)映像が投影され、首を上下左右に動かすと、その角度から見えたであろう「160年前のパノラマ風景」がついてくる。
伝説の藩校・弘道館での「学び」を再現
そんな佐賀県で2018年、「肥前さが幕末維新博覧会」が始まる。佐賀の偉業や偉人などを最新の映像技術等で振り返るとともに、当時の人々の「志」を次なる世代に引き継ごうという試みだ。
期間中は、佐賀県出身でリコー及び三愛グループ創業者である実業家・市村清がふるさと佐賀に寄贈した市村記念体育館(佐賀市城内)を活用して、メインパビリオン「幕末維新記念館」に衣替えし、入場者を幕末維新期へタイムトラベルしたかのような感覚に誘う。
幕末維新期の佐賀の活躍を巨大ラウンドスクリーンによる映像で伝える「幕末体感シアター」や、当時の佐賀の先進性をパフォーマーによる誘導と、壁面を活用したクロスメディアで紹介する「からくりwall(ウォール)」、近代日本の発展に貢献した佐賀の偉人たちの語らいの場に立ち会い、その言葉や人柄に触れ、共感する「賢人ラウンドシアター」などが展示される。
また、テーマ館のひとつとして、藩校「弘道館」を再現した「リアル弘道館」も、旧古賀家(佐賀市柳町)に置かれる。佐野をはじめ、大隈重信や江藤新平ら、維新の立役者を生んだ弘道館。ここでは佐賀の偉人が語り部となり、時代を動かした伝説の藩校・弘道館の「学び」を見学するとともに、これからの社会にも有用な「学び」を体感できる。「あの志士は、ここで何を学んだのだろう?」。そう思いを馳せるのもよさそうだ。<企画編集:Jタウンネット>