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「観光客は捨てる」道の駅の成功のために必要なこと

Jタウンネット編集部

Jタウンネット編集部

2014.03.27 17:42
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道の駅はオープンが決まっている施設も含めると、全国で1014カ所が登録されている。

道の駅は基本的に自治体が施設を作り、運営は第3セクターや民間企業に委ねられている。来場客で賑わう駅もあれば、閑古鳥が鳴いて光熱費分の売り上げすらたたない駅もある。

「道の駅 萩しーまーと」(山口県萩市)は、年間約140万人が殺到する人気の道の駅だ。2000年8月に国交省から840番目の駅として承認を受け、2001年4月にオープンした。

萩しーまーと(国土交通省道路局・道の駅ウェブサイトより)
萩しーまーと(国土交通省道路局・道の駅ウェブサイトより)

その取り組みは、たびたびメディアでも取り上げられている。2014年3月20日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも、駅長の中澤さかなさんを中心に特集が組まれた。

店のコンセプトは「論語」

リクルートを早期選択定年制度で退職し、萩市にIターンした中澤駅長。出身は滋賀県で当地には縁もゆかりもなかった。

萩しーまーとの計画段階から携わっていた中澤駅長。東京のコンサルタント会社が作成した計画書を見せられ、お粗末極まりない内容に驚愕する。商圏を無視した来場者数予測で、遠方からの観光客を当てにしているため客単価が高く設定されている。建物ばかり豪奢で中身が伴っていない。

現実離れした内容を疑問視した中澤駅長は、全国10カ所の「お魚センター」で話を聞いて回った。するとあちこちで聞かれたのが、

「観光客相手じゃ平日はガラガラ。客の数よりも店員の方が多い」

というものだった。

観光施設には旅行代理店の企画したツアーが立ち寄ることが多い。実はこの際、送客手数料という名のリベートが観光施設から旅行代理店に支払われている。売り上げにかかわらずコストが発生する一方で、「あれは観光客向けの施設だから」と地域の人たちが離れてしまう。

地元の人に喜ばれる道の駅にしよう――そう考えた中澤駅長は、あえて観光客を捨てる決断をする。

番組内で中澤駅長は、駅のコンセプトについて次のように語った。

論語に「近い者悦び、遠き者来る」という言葉がありまして――(中略)――「近所の人が悦んで使ってくれる店なら、その噂が広まっていって、よそからも人が来るようになる」という意味だそうなんですけど、それが「ほんまもんだな」と思ったんですね。

魚がメインだけど精肉も扱う

道の駅で扱っている商品は通常、地元の名産品や特産品、土産物ばかりで、他の品物はほとんどない。ところが萩しーまーとは、水産物がメインの施設であるにもかかわらず、精肉店、ベーカリー、和洋菓子など普段使いの商品も揃えている。

商品構成を一般のスーパーに近づける一方で、水産物の質を深める努力も怠らない。地魚「金太郎」を原材料にしたオイル漬け「オイル・ルージュ」は飛ぶように売れるヒット商品だ。他の地域でも売れており、東京の有名シェフも絶賛するほど。地元ではクズと呼ばれていた金太郎を、萩しーまーとは価値ある魚に一変させてしまった。

店内にはカサゴやヤリイカなど、地元で獲れた新鮮な魚介類がずらりと並ぶ。客が購入した商品の中には、トレー内でまだ動いているものさえある。一般的なスーパーではまず見られない光景だ。萩しーまーとの裏手には漁港があり、そこから直納されるため、活きのいい魚介類を販売できるというわけだ。

客を惹きつける演出も実に巧み。いけすで泳ぐ魚を買って食事処に持っていけば、その場で調理してくれる。また「真ふく祭り」では、来場者にふぐを無料でふるまっている。

こうした地道な取り組みが実って、「萩しーまーと」は道の駅の成功例となることができた。

道の駅同士は共存できるか?

リクルートで住宅情報誌関西版の編集長を務めていたという中澤駅長。生き馬の目を抜くような広報・住宅業界と接したことで、ニセモノは淘汰されることが身に染みていたのかもしれない。

中澤駅長がずさんと指摘した当初計画書には年間来場者数100万人と記されていたが、現在の萩しーまーとの来者数はそれを大きく上回っている。

萩市は人口減少が著しい自治体だ。1955年には約9万7000人あった人口も今や約5万人にまで縮小している。2005年には旧萩市と周辺の6町村が対等合併し新制の萩市が誕生し、その面積は東京23区よりも広い。市内には道の駅が8つあるが、その多くは廃止された自治体がそれぞれ立てた施設だ。

平成の大合併によって道の駅を複数抱えることになった自治体はほかにもあり、千葉県南房総市と岐阜県高山市はそれぞれ8駅有する。

萩市は2010年12月にまとめた「萩市過疎地域自立促進計画」の中で、市内の道の駅のネットワーク化を進め、地産地消を基本とした産地の顔の見える農産物流通を図っていくとしている。各駅がうまく共存していくのか、それとも淘汰されていくのか、岐路に立たされているといい。

2015年のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」の舞台は萩。道の駅の来場客の増加が予想されるけれども、それが長く続く保証はない。萩市内の道の駅が今後どのような方向に進んでいくか、他の地域の駅にとっても参考事例となることだろう。

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