なぜ同じ教え方では伸びないのか 「学び方」と性格に向き合う個別指導
同じ説明をしても、すぐ理解できる生徒もいれば、なかなか腑に落ちない生徒もいる。
目標を示されることでやる気が出る子もいれば、まず小さな成功体験を重ねた方が動きやすい子もいる。個別指導というと、先生が一人ひとりにつくことそのものが「個別化」と考えられがちだが、実際にはその先がある。
目黒個別指導学院では、学力や学習履歴だけでなく、生徒の考え方や行動の傾向も見ながら指導方法を調整しているという。
生徒によって異なる「学び方」にどう向き合うのか。代表の宮城英辯氏に話を聞いた。
「何が分からないのか分からない」生徒もいる
テストの点数や正答率を見れば、苦手な単元はある程度把握できる。
ただ、それだけでは「なぜそこで止まるのか」までは分からない。
分からない問題があればすぐ質問できる生徒もいる。一方で、どこから理解できていないのか自分でも整理できず、手が止まってしまう生徒もいる。
目黒個別指導学院では、テスト結果や学習履歴だけでなく、授業中の様子、面談での会話、家庭学習の状況なども含めて生徒を見るようにしているという。
その際、生徒理解の補助的な枠組みとして取り入れているのが「エニアグラム」だ。
エニアグラムは人の性格傾向を9つのタイプで捉える考え方として知られているが、同学院では診断結果によって生徒を決めつけるのではなく、「どのような言葉を受け入れやすいのか」「何に不安を感じやすいのか」を考える一つの参考材料として使っていると宮城氏は説明する。
例えば、強いプレッシャーがかかると動きにくくなる生徒に対しては、「これをやりなさい」と一方的に決めるのではなく、複数の選択肢を示して本人に選んでもらう。
一方、努力の過程を認められることで意欲が高まりやすい生徒には、テスト結果だけでなく、「前よりここができるようになった」と具体的な変化を伝える。同学院では、こうした関わりを続ける中で、自分で学習計画を立て、週30時間以上勉強するようになった生徒もいたという。
ただし、これは一つの事例にすぎない。
性格傾向を把握したから成績が上がる、と単純に結びつけられるものではなく、その時々の学力や生活状況、本人の目標などを含めて考える必要がある。
「自分はこれで伸びた」が指導の落とし穴になる

個別指導では、教える側の経験が強く影響する。
とりわけ勉強が得意だった講師ほど、自分が理解できた方法を「分かりやすい教え方」と思い込みやすい。
「自分はこの参考書で伸びた」「この説明で理解できた」。それ自体は貴重な経験だが、すべての生徒に当てはまるとは限らない。
目黒個別指導学院では、講師研修にもエニアグラムを取り入れているという。
ただし目的は、生徒をタイプ分けすることではない。
宮城氏が重視しているのは、まず講師自身が自分の考え方やコミュニケーションのクセを知ることだ。
例えば、結論を早く求める講師が、じっくり考えたい生徒に対して必要以上に答えを急がせてしまうこともある。
逆に、丁寧に説明することを重視する講師が、すでに理解している生徒に長い説明を続ければ、授業のテンポが悪くなる。
「良い教え方」を一つ決めるのではなく、生徒に応じて教え方を変える。そのためには、講師自身が自分の指導パターンを自覚する必要があるという考え方だ。
同学院では、学習状況や面談内容を講師間で共有し、「なぜこの生徒にはこの対応をするのか」をできるだけ組織内で共有するようにしている。
もっとも、個別対応を増やすほど、講師側に求められる判断も増える。
特定の講師だけがうまく対応できても、教室全体として再現できなければ個別指導の質は安定しない。研修や情報共有をどこまで継続できるかは、教室運営上の課題になる。
「分かった」と「できる」は違う
授業中に説明を聞き、生徒が「分かりました」と答える。
そこで授業が終わってしまえば、本当に理解したのかは確認できない。
個別指導で同学院が重視しているのは、「教えたこと」と「生徒ができるようになったこと」を分けて考えることだという。
その場では理解したつもりでも、翌日には解けなくなっていることもある。逆に、生徒自身の言葉で解き方を説明できれば、理解の程度を確認しやすい。そのため、解説だけで終わらせず、生徒にもう一度解いてもらったり、自分の言葉で説明してもらったりしながら定着度を見る。
定期テストや受験から逆算して、「いま何を優先するべきか」を考えることも重要になる。
すべての苦手分野を同じように勉強する時間があるとは限らない。次の試験までの期間や目標点によっては、今すぐ取り組むべき内容と、後回しにできる内容を分ける必要もある。
一方で、短期的な点数だけを追えば、生徒が指示を待つ学習になりやすい。「次は何をやればいいですか」と毎回聞く状態から、自分で課題を見つけ、学習計画を立てられる状態へどう移行するか。
個別指導にとって難しいのは、目の前のテスト対策と、長期的な自立学習を同時に考えなければならないことだ。
AIで教えられる時代に、講師は何をするのか

教育現場でも、AIを使った教材や学習支援ツールが広がっている。問題の解説をしたり、理解度に応じて問題を出し分けたりする領域では、今後さらにAIの活用が進む可能性がある。
そうなったとき、「知識を説明すること」だけを個別指導の価値にするのは難しくなる。
宮城氏は、AIと人間を対立させるのではなく、テクノロジーで効率化できる部分は取り入れながら、人が担う部分を明確にしたいと話す。
例えば、「失敗するのが怖くて問題に手をつけられない」「勉強する意味が分からなくなった」といった悩みは、正しい解説だけでは解決しにくい。
本人の話を聞き、なぜ動けなくなっているのかを考え、次の一歩を一緒に決める。そうした役割は、個別指導における講師の仕事として今後も残っていくと同学院は考えている。ただ、人による伴走には時間がかかる。
生徒ごとに面談し、学習状況を把握し、声の掛け方まで変えるのであれば、当然ながら講師側の負担も増える。教育サービスとして、それをどこまで継続できる仕組みにできるかは別の問題だ。
AIによって「教えること」が効率化されるほど、個別指導に求められる「個別」とは何なのかが、改めて問われることになる。
一人ひとりに先生がついていることなのか。それとも、その生徒がどう考え、どこでつまずき、どうすれば自分で進めるようになるのかまで見ることなのか。目黒個別指導学院の取り組みは、その違いを考える一つのケースといえそうだ。

【取材協力】
目黒個別指導学院
代表 宮城英辯
https://megurokobetsu.net/