<東京暮らし(20)>シニア男性が地域で活躍!

2020年3月 1日 13:00

<文 中島早苗(東京新聞情報紙「暮らすめいと」編集長)>

恵泉女学園大学学長の大日向雅美さんの名前を私が最初に知ったのは、読売新聞の名物人生相談「人生案内」の回答者としてだった。

主に家族関係や子育ての悩みを抱える読者からの相談に対し、愛情と奥深さをもった回答を返す大日向先生の文章に毎回敬服、感動し、いつかインタビューなど、お仕事でお会いできればいいなと長年思っていた。

とあるきっかけから、先生が施設長を務める、子育てひろば「あい・ぽーと」(NPO法人あい・ぽーとステーション)を訪れる機会を得た。2020年2月、餅つきイベントが行われる日だった。

あい・ぽーとの中庭はお餅をつくお子さん、思い思いに遊ぶ親子さん、そして支えるボランティアさんたちでいっぱい
あい・ぽーとの中庭はお餅をつくお子さん、思い思いに遊ぶ親子さん、そして支える地域の子育て・家族支援者さんたちでいっぱい

「認知症になる暇がありません」

港区青山にあるあい・ぽーとでは、休園した幼稚園を利用し、普段から親子が集う講座やイベント、一時保育、人材養成などの活動が行われている。この日11時から開かれた餅つきには、事前に申し込みをした60組もの親子さんたちが「つき手」として参加。その他支援する子育て・家族支援者さんなども合わせ、大勢の人で賑わっていた。

事前申し込みしたつき手の親子さんたちがお餅つきを楽しむ
事前申し込みしたつき手の親子さんたちがお餅つきを楽しむ

その中でもひと際目立つのが、主にリタイアしたシニア男性で構成される「子育て・まちづくり支援プロデューサー(まちプロ)」たちだ。

大日向先生は、地域で子育てや家族をサポートする役目を女性たちだけでなく、シニア男性たちにも担ってもらおうと考え、ちょうど団塊の世代が大量に定年退職を迎えるタイミングで、2013年から養成講座を開催。今年は8期生が受講を終え、これまでに延べ80人ほど、認定されたまちプロが誕生している。

まちプロの活動分野はさまざまだ。今回の餅つきなど、季節のイベント、行事をサポートする人。あい・ぽーとで子どもに読み聞かせなどを行う人。あい・ぽーと麹町の「藍カフェ」を運営する人。NPO法人の運営に携わる人。常時活動しているのは30人ほどで、週1回~5回程度、それぞれのペースで活動(有償)しているという。

餅つきイベントも2013年から続けられ、今回で7回目。まちプロさんたちの活躍は目ざましい。ふかされたもち米を臼まで運び、こね、参加の親子さんたちがつけるように準備する。自分だけでつきたいという小さな子どもと一緒に杵を持ち、サポートする。

参加者の小さなお子さんがお餅をつくのをまちプロさんがサポート
参加者の小さなお子さんがお餅をつくのをまちプロさんがサポート

リタイアした人、まだ現役で仕事をもちながら週末だけまちプロとして活動する人、関わり方の深さ、頻度はさまざまだが、まちプロさんたちが地域の親子を支えるべく整然と持ち場につき、それぞれの役割をこなしているのは、なかなか新しい風景だと思った。

大日向先生の言葉を紹介したい。

「子育てや家族を支援してきて10数年、ふと気づくと、子育てひろばにいるのは女性と子どもだけでした。もちろんその活動は意味のあることでしたが、地域が女性と子どもだけというのはどこかおかしいとも思った。

その頃、ちょうど団塊世代が定年を迎えるというニュースを聞いたのです。企業などで長年勤めてきたプロフェッショナルとしての経験、技術、知識を持つ男性たちが、定年した途端、長い老後を『イクジイ』『そば打ち』『陶芸』だけで過ごすのはなんとももったいない。

そこで、彼らが持っている経験値を今度は地域の子どもたち、子育て中の親のために生かしてもらえないか。そう考えたのが、まちプロ養成講座を始めたきっかけです。キャッチフレーズは『現役時代の名刺で勝負して!』。現役の頃に身に着けた、それぞれのプロフェッショナルとしての技能を、地域で生かして活躍してもらいたいと考えたのです」

実際に活動しているまちプロさんたちの感想も聞いてみた。

「あい・ぽーとの活動では、『子どもたち』という会社にはいなかった人たちがいて、それがすごくかわいい」(元繊維メーカー勤務)
「今はハーモニカおじさんになって、子どもたちと一緒に歌ったり踊ったりして楽しんでおります」(元高校教師)
「新しいことを吸収するのに忙しく、認知症になる暇がありません」(元テレビ局勤務)

現役時代とは全く違う、地域貢献という活動に初めは戸惑った人もいたそうだが、慣れるに従い、生き甲斐になっている人も多いようだ。

あい・ぽーと麹町で、まちプロさんたちとの研修会を終えて。前列中央が大日向雅美先生
あい・ぽーと麹町で、まちプロさんたちとの研修会を終えて。前列中央が大日向雅美先生

大日向先生の言葉で印象に残ったものがある。

「どんな人も自分の人生設計の中で、経済的自立と社会的な接点を求めることを忘れてはならないと思います。私が学長を務める大学では、そのことを『生涯就業力』という言葉で訴え、学生を導き、応援しています」

生涯就業力。人生百年時代と言われるこれからは、どんなかたちであれ、男女を問わず、できるだけ長く働き続けることが求められるのだろう。そうであれば、例えば今回出会ったまちプロさんたちのように、現役を終えた後の第2、第3のステージとして、自分にはどんな仕事が、あるいは地域貢献ができるのか。そんなことを考えながら生きていくことが必要になるのかもしれない。あい・ぽーとでのほのぼのとしたお餅つき風景を眺めながら、思ったりしたのだった。

中島早苗

今回の筆者:中島早苗(なかじま・さなえ)

1963年東京墨田区生まれ。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)「モダンリビング」副編集長等を経て、現在、東京新聞情報紙「暮らすめいと」編集長。暮らしやインテリアなどをテーマに著述活動も行う。著書に『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)、『建築家と造る 家族がもっと元気になれる家』(講談社+α新書)、『ひとりを楽しむ いい部屋づくりのヒント』(中経の文庫)ほか。
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