心霊スポットだと噂の石川県のS町に行ってみた話【ささや怪談】

2016年1月18日 21:00

『石川県に、霊感の強い人がいっぱい住んでいる町があるんだって。
   行ってみてよ。
   きっと何か見つかるから!』

   そんなメールが、Tさんから届いた。
   彼女は、東北のある県の観光大使を務めている。わたしは、彼女からときどき、不思議以上怪談未満な話を集めていた。
   彼女の知り合いが、石川を旅行で訪れた時に、そういう町に行きあたったのだという。
   その知り合いも、幽霊を見たそうだ。ただ、どんな幽霊だったかまでは、教えて貰えなかったという。その町全体が、巨大な心霊スポットなのだという。

『だから、前田くん、チャンスだと思って行っておいで!里帰りも兼ねて!』
   Tさんの言葉とは裏腹に、わたしの気分は冴えなかった。
   わたしは、心霊スポットが大嫌いだからだ。

   わたしは、石川県で生まれ育った。
   しかし、その町の名前に、心当たりは無かった。
   去年の大晦日に、わたしは、Sという町を訪れた。バスに乗って、一時間ほど揺られる。海岸線をひとしきり眺めたら、中心街をすり抜けて、郊外へと進んでゆく。
   霊感なんて、わたしには無い。あったところで、気分が重くなるだけだ。
   おまけに、外は雨だった。
   バスを降りると、新興住宅地が広がっていた。まだ午前中なのに、人っ子一人歩いていない。それでも、リンスや年越しそばのダシの香りが、あちこちから漂っている。
   Sという町は、山を切り拓いて作られたようだった。大きくなだらかな坂に、家々が礼儀正しく並んでいる。だが、道をすこし外れると、田畑や山に行ってしまう。そして、川のせせらぎの音が、どこからか聞こえてくる。自然に近い町だが、夜の闇は深そうだ。

S町から来るまで一時間の漁港。近くの回転寿司屋が素晴らしい
S町から車で一時間の漁港。近くの回転寿司屋が素晴らしい。

   事前に、石川の心霊スポットを調べておいた。だが、S町には、幽霊の噂ひとつ無いようだった。おまけに、Tさんの知り合いは、石川県の方ではない。文献も調べては見たが、それらしい曰くは、まったく判らなかった。

   坂を上ったり下ったりしたが、誰にも会わなかった。ただ、変わらぬ町並みが続くだけだった。それでも、住宅と住宅の間に墓地があって、眩暈がした。ひと気はあるのだが、誰にも会うことが無い。正直に言って、近江町市場の地下にあるカフェや横安江町商店街に行ったほうが、よっぽど「金沢」らしい。

   わたしは、二時間ほど歩き通した。雨が降る中、とぼとぼと散歩を続けた。喫茶店もコンビニも見つからず、くたびれたところだった。こんなことなら、あめの俵屋の本店に行ったほうが、有意義だった。
   すると、向こうから、誰かがやってくる。
   若い女性のようだ。白いコートに、ピンク色の傘を差している。ただ、近づくにつれて、ちぐはぐな感じがした。
   青白いのだ。
   顔が。
   彼女とすれ違った時、わたしは見た。
   白塗りの顔。
   たぶん、その町の風習かお祭りか、体調がすぐれなかったのだろう。

   わたしは、早歩きでバス停に向かった。すると、道の真ん中に、老婆が立っている。老婆は、立ち読みをしている。革手帳のような本を。雨だというのに、傘も差さずに。必死な顔をしながら、ぐしょぬれのページを捲っている。怒ったような形相を浮かべながら。
   声をかけようとは、思わなかった。
   おそらく、本の続きが気になって、しょうがなかったのだろう。

   わたしは、バスに乗ってS町を出た。
   雨に打たれて、身体が震えていた。バスが中心街に入ってから、両肩がキリキリと痛み出し、刺すような腹痛にも襲われた。もちろん、これは偶然だ。わたしは、痛む身体を誤魔化して、次の目的地に向かった。
   バスを降りると、友人に電話を掛けたくなった。
   なぜか、今すぐに、電話をしなければいけない気がした。
   何度目かのコールの後に、友人の妻が出た。
   そして、こう告げた。
「あのね、亡くなったの。あのひと」

   そこから先のことは、記さない。

S町から車で一時間の海岸。日本海の厳しさを物語る光景だ。
S町から車で一時間の海岸。日本海の厳しさを物語る光景だ。

告知:今月末の日曜日に、京都・二条駅近くの町屋カフェ・ジプシーハウスにて怪談イベントを行います。詳細は、クロイ匣ツイッターで。

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筆者:前田雄大

怪談団体「クロイ匣(ハコ)」の主宰者。関西を中心として、マイペースに怪談活動を行っている。https://twitter.com/kaidan_night

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